【第1回】レディファースト神話|私、国際結婚します!! でもちょっとその前に知っておきたいお話

【第1回】レディファースト神話|私、国際結婚します!! でもちょっとその前に知っておきたいお話

憧れのレディファースト

「私、国際結婚目指してるんです!カナダってレディファーストですよね。日本じゃありえないですよ!ホント、あこがれます。カナダ人男性とお付き合いしたいですね。だって優しいでしょう。さわやかだし、家庭的だし…」

日本で出会ったある女子大生のコメントです。5月号で紹介した日本とカナダの「あたりまえ」と「ありえない」は、子育てだけでなく日常生活の様々な場面で見受けられるようです。そこで今日は、レディファーストとカナダ人男性について考えてみることにします。

レディファーストは女性尊重?

大辞林第3版の「女性を優先する欧米のエチケット」をはじめ多くの文献が、レディファーストとは、女性を敬い優先する欧米の文化だと説明しています。女子大生さんの言うように日本では「ありえない」レディファーストは、欧米(カナダ)では「あたりまえ」なのでしょうか。さらにレディファーストとは、本当に女性を尊重するものなのでしょうか。

留学関連のあるウエブサイトでは、留学を成功させる決め手としてレディファーストのマナーをマスターすることを勧めており、「ドアがあったら先に触れろ」「道を歩くときは車側を歩け」などとアドバイスしています。これに対し、レディファーストの起源は中世ヨーロッパにあり、ドアを開けて女性を先に入れるのは暗殺者から身を守るため、外側を歩くのは窓から投げ捨てられる汚物を避けるためだったとする説もあるようです。個人的には、混み合うエレベーターの中でドアの真ん前に立っている男性が、女性を先に降ろすためわざわざ脇に寄ったりするのもマナーなのかなぁ…と感じることがあります。

レディファーストが女性尊重であるかどうかはさておき、それがカナダではあたりまえであるのは間違いなさそうですね。しかし、先の女子大生が憧れるような「レディファースト=優しい+さわやか=家庭的」という公式が成り立つかどうかに関しては、疑問の余地がありそうです。そこでもう一つのレディファースト神話について探ってみましょう。

カナダ人パパは家事や育児に積極的?

日本で暮らす多くの日本女性が、レディファーストは女性を尊重する行為であると考えている(らしい)のに対し、トロントで暮らす日本女性たちは、ドアを開け、車道側を歩くのは彼らの習慣であり、必ずしも女性を尊重するものではないと理解するようになります。

私が2013年〜14年にかけて手がけた修士論文のインタビューでは、カナダ生まれの夫が家事や育児に常に積極的であったという証言は一例もありませんでした。また、2014年末に育児や家族のネットワークグループFTFが行ったアンケート調査でも、トロント移住後の苦労のひとつに「ほとんど夫の手助けなく育児に携わらなければならなかったこと」であると、多くの回答者が答えています。

どうやら「レディファーストのカナダ人男性は、家事や育児に積極的である」というのは、希望的観測にすぎないようです。それではいったい、レディファーストの根底にあるのはどのような考え方なのでしょう。以下は私見を交えた考察です。

McGraw -Hill のアメリカン・イディオム辞典でLadies Firstを調べると“an expression of courtesy indicating that women should go first”というのが出てきます。ふ〜ん、レディファーストって、女性を先に行かせたい男性の自己表現なのか…と思ってしまった理由は、エレベーターの出口でじゃまになったり、女性の歩行をさえぎって突如立ち止まりドアを開けたりするレディファーストの押し売り姿が重なったからです。

このようにレディファーストにはときおり「僕ってなんて礼儀正しいジェントルマンなんでしょう」という自己主張が見え隠れする、と感じているのは私だけかしら…と思っていたところに、ある既婚女性がこんなコメントをしました。「ドアなんて誰が開けてもいいから、それより子供の面倒を見てよっ!て思いますよ、ホント」…さて、ここで国際結婚に憧れる冒頭の女子大生に戻りましょう。

カナダ人男性と結婚したら…

女子大生がイメージしている国際結婚のお相手(カナダ人男性)は、どうやら白人男性であるようです。「背の高い金髪の彼が、白い歯をキラリとさせて笑う姿はとてもさわやか」であると話す彼女の言葉にゼミの後輩たちもしきりに頷きました。

この女子大生グループが抱くカナダ人男性のイメージを総合するとこんな感じです。

微笑みながらさわやかにドアを開けてくれるカレ、なんて優しいんでしょう!こんな男性と結婚したら幸せです。友達にも自慢できるし、可愛くって英語ペラペラの孫を抱くのが待ち遠しいって、ママも言ってます。カナダ人男性は優しいから家事や育児も進んでやるので、家庭円満間違いなし。だから私、国際結婚したいんです。

う〜ん、レディファーストとカナダ人男性にまつわる神話は、どうやらかなり浸透しているようですね。でも、もし神話と異なるカレに出会った時、それをきちんと見極める力も培って欲しいものです。…ということで、8月号の国際結婚特集を楽しみにしています。