オンタリオ州の大麻ビジネス・マーケットはどう変わっていくのか|特集「カナダ食学」

 新型コロナによるパンデミック期間中にトロントで増えた店といえば、マリファナショップがあげられるのではないだろうか。2018年に嗜好用大麻を合法化したカナダ、数年を経て現在オンタリオ州の大麻市場、ビジネスがどうなっているのか、そして今後どのように変化していくのかをカナダ最大級の食品見本市で行われたディスカッションからレポートする。

 ディスカッションには、オンタリオ州を中心に大麻市場に関わっている、Cannabis Practice Groupの創業者であるチャド・フィンケルシュタイン氏、Collective Arts Brewingの共同創始者であり社長でもあるマット・ジョンストン氏、TREC Brandsの前社長であるトラン・チン氏、そしてCannSelの共同代表であるアンディ・ディオナリン氏の4名が登壇した。

オンタリオ政府から認められた大麻販売に必要な資格「CannSel」

 オンタリオ州では、この「CannSel」がないとカンナビスを販売することができない。いわば、スマートサーブ(オンタリオでアルコールを売る際に必要となる資格)のマリファナ版である。

 「CannSel」では、これまでに1600以上のショップでトレーニングをしており、現在は新たに400店舗にてトレーニング中。この400店舗のトレーニングが終わればオンタリオ州で大麻を扱う店舗は2000店舗になる。

大麻の販売が認められた「budtenders」

 「budtender」は、マリファナを意味するbudとbartender(バーテンダー)からなる造語である。ショップで勤務する人は「CannSel」の資格を取るためにオンラインで3~4時間のプログラムを受けなければならず、販売スタッフは全員このトレーニングを受け、資格を所持している必要がある。

 店舗に訪れる消費者の90%、つまり日頃からカンナビスを使っている消費者も、あまり知識がない消費者も「budtender」におすすめを聞いたり意見を聞いたりすることが分かっており、その存在は実に重要なものである。ただし、「budtender」は〇〇という効果があるというような医療的なアドバイスはしてはいけないことになっている。その理由として、同じ大麻でも、使う人によってあらわれる効果が異なるためだ。あくまでも傾向として、どんな効果があるかを消費者に伝える必要が求められている。

気軽で手軽な大麻関連食品

 2021年のオンタリオ州全体での大麻製品の売上は14億7000万ドル(1ドル100円とすると1470億円相当)である。売上のおよそ4~5%を大麻関連食品が占めており、大麻関連飲料に関しては、およそ2%を占めている。ちなみにカナダ全体では売上の20%ほどが大麻関連食品で構成されている。これは業界が予測していた数値よりも多いという。

 食品類の内訳は、70%~80%がキャンディーやグミが占めており、次に多いのはチョコレートだ。大麻が合法になって以来、多くの人が使用し始めているとされているが、まだまだ警戒している人も多いのも事実だ。警戒している人には、大麻を吸うことに対してまだ抵抗があったり、良くないイメージを持っていたりしている。しかし、それらの人々にとっても、グミやキャンディー、チョコレートなどなら試しやすいというイメージがあることも分かっているという。

 食品関連の購入率が予想外に伸びた背景には、喫煙よりも抵抗が少なく、人々が試しやすいということや、マリファナ独特の匂いが生じることなく、気軽で手軽に使用できることがメリットになっている。

大麻系飲料には法律の壁

 飲料系は、今後マーケットの10%~15%を占めるようになると考えられており、大麻飲料はアルコールのような立ち位置になっていくと予想されている。
 しかし、そこに到達するまでにはまだまだ時間がかかるとされており、その背景には法律の壁がある。

 現在の法律では、乾燥大麻は一度の購入では一人当たり30グラムまでと決められており、飲み物として購入するとなると一度の購入では355ミリリットル缶を5本までしか購入できず、キャンディーやチョコレートなどを買うことと比較するとはるかに少ない量しか買えないという。

今後の大麻ビジネスのポイント

 大麻市場はまだまだ始まったばかりで、マーケットでは常に新しい製品が開発されている。人々も常に新しい製品を求めているが、製品の値段設定も重要なところである。市場調査では購入者の50%は年収が4万ドル前後であるとされる。一般的な消費者からすると、質よりも値段を見る傾向があることから、安いながらも高いTHC(テトラヒドロカンナビノール)が含まれている大麻など、コストパフォーマンスを重視していかなければならないと考えられているそうだ。消費者にリピートしてもらうことを考えると、値段だけでなく質にもこだわらなければならないのが今後のポイントだ。

 一方で、大麻を吸うことに関してはまだまだ悪いイメージもある。例えば、親が子どもと過ごしている時にマリファナを外で吸って家の中に戻る、ということはあまり良く捉えられないだろう。しかし、ビールやワインは子供がいても違和感なく飲まれており、マリファナ製品も同じように子供の横で飲んだり食べたりしても違和感を感じないような立ち位置になっていくべきとの声もある。

今後、規制はさらに緩和へ?

 現在の法律は今後変わると予想されており、3月には「Canada Gazette(カナダ政府の公式政府官報)」で、355ミリリットルの大麻飲料においては、一度に4ダース購入できるように大麻法の改正を目的とした新しい法令案が発表された。この発表では、大麻飲料の規制を他のマリファナ製品と同じくらいの制限まで近づけることを目標としている。これは一度に48缶もの飲料を買えるようになり、現在の5缶と比べるとかなりの規制緩和となる。これが実現されることで、消費者も大麻飲料を求めやすくなり、結果としてショップもマリファナ・ドリンクを販売しやすくなり、在庫を持ちやすくなると同時に、開発側もより多くのドリンクを開発できるようになる側面があるといわれている。

 今後、ワインやビールと同じ立ち位置になることを考えると、大麻はより一層人々にとって身近な物になっていくが予想され、消費者としては誰かと一緒に楽しもうと考えることも増えていくだろう。だからこそ、「budtender」をしっかりと教育し、消費者が正しく楽しめるようにしていくことが大切だと唱えられているのが現状だ。

いずれは飲食店でも大麻を楽しめるようになる

 将来的には、レストランなどでアルコールを注文できるように、いずれは大麻関連ドリンクも飲食店で楽しめるようになると考えられている。例えば大麻が合法であるカリフォルニア州のような地域では今後飲食店で大麻関連のドリンクが提供されるようになるとされており、他の地域でもカリフォルニアに続く可能性がある。

 しかしながら、アルコールと大麻を同じ店で提供できるようになる可能性は低いという。利用客の中にはアルコールと大麻を同時に摂取してしまう可能性があり、2種類の異なるドラッグを混ぜることに近いからだ。また、吸うタイプのマリファナの提供も難しいと考えられている。オンタリオ州では飲食店での喫煙が禁じられているように、大麻も食事を楽しむ人の妨げになるからである。カンナビスに対するイメージや法律の問題などまだ障害はあるが、業界では5年以内に今のカンナビスのイメージや立ち位置を変えていきたいとしている。