カナダでチャレンジする日本人シリーズ KINKA FAMILY オペレーション・ディレクター 大久保 陸さん|特集「海外で食をひろめる飲食人シリーズ1」

円安の今、海外で働くことが話題に!カナダならワーキングホリデーからマネジメントへの登用も。チャンスを活かせる企業の魅力とは!?

 「KINKA FAMILY」グループは、トロントに本社を持ち、居酒屋・ラーメン・寿司・焼き鳥・カフェなどの事業を多店舗展開するカナダ最大規模の日本食レストラングループだ。現在オペレーション・ディレクターを務める大久保さんは、日本で大学を卒業後、ワーキングホリデーでトロントに。KINKA FAMILYの前身となる居酒屋で働いていたが、一度日本に帰国。就職した日本企業ではなかなか馴染めず再びトロントに戻って来た。ディッシュウォッシャーから管理職へと登り詰めた大久保さんだからこそ伝えられるカナダで働く魅力は「ずっとチャレンジし続けられる」「努力に見合った評価を受けられる」ところだと語る。

就職氷河期、「若いうちに海外に行こう」

― 大学卒業後、カナダへ初めての留学

 大学時代は不動産について学び、宅建の勉強もして資格まで取ったのですが、就職氷河期に悩まされ第一志望の会社に採用されず、完全に「これからどうしていこう…」という状態でした。そんな時にふと海外に行く考えが浮かび、もともと海外に興味があったので、若いうちに行ってみようと思い、憧れだったニューヨークに近いトロントに行くことを決めました。2011年、トロントに来た時は英語が得意だったわけではなかったので、正直やっていけるか不安でした。

魅力的な大人たちと働ける環境

― トロントで働き始める

 3か月間ほど語学学校に行き、お金に余裕がなかったのですぐにアルバイトを始めました。ディッシュウォッシャーとして入ったKINKA FAMILYの前身となる居酒屋は、「わっしょい!」という感じの賑やかな雰囲気だったのでサッカー部だった学生時代を思い出しました。当時は、初めて大人の人たちに囲まれた環境で仕事をして、厳しいこともありましたが社員の方々がとても魅力的でいい経験ができたと思います。

 半年後に社員採用の声をかけてもらい就労ビザに切り替えました。カナダに残れるという喜びはもちろんですが、それよりもこの居酒屋でこれからも働き続けられる、という喜びの方が大きかった気がします。

ひとりでやっていてもダメだ」と気付く

― リーダーの立場になってみて

 2013年に副店長になり、その後は店長を務めました。ワーホリの時は自分が一番下だったのでただがむしゃらに働けば良かったのですが、責任あるポジションになるにつれ、「1人でやっていてもダメだ。みんなを教育しなければいけない」と感じ、人材をマネジメントしていく大切さを学びました。

日本で初めて就職

― なにかが違う

 会社組織が大きく変わろうとしているタイミングで、就労ビザが切れることもあり、2016年に日本に帰国しました。大学を卒業してすぐにカナダに来たため、日本の企業文化を全く知らず、自分が日本でサラリーマンとしてやっていけるのかという不安はありました。

 将来的に飲食業界で働いていきたいと思っていたので、流通や食材事情などを総合的に学ぼうと考え、食品卸しの会社に就職し1年半ほど働きました。日本の社会人生活が自分にフィットするならそのまま日本に住もうと思っていましたが、やはりカナダと違って、縦社会が顕著で上司に自分の意見をあまり伝えられない環境がフィットせず、悶々とした日々を過ごしていました。

 そんな気持ちになっていた時だったと思います。カナダにいた頃の職場の上司から「トロントに戻ってこないか」と連絡をもらい、迷いなく戻ることを決意しました。

2年ぶりのトロント

― 「カナダの会社」に生まれ変わっていた職場環境

 およそ2年ぶりにトロントそして職場に戻り、自分が働いていた時と比べると変わったことばかりの印象を受けました。職場環境は、日本人しか働いていなかった以前と異なり、カナダ人や韓国人など様々な人種のスタッフが働く環境になっていたのが一番驚きました。「カナダの会社」として成長していると肌で実感したのを今でも覚えています。

 トロントに戻ってからは、ハーバーフロントの新店舗の店長として、立ち上げ準備を中心に担当していたのですが、職場環境にも慣れ、新店舗の店長としても新しいことに挑戦できたのが楽しかったですし、全部を任せてもらえたということが、会社から信頼してもらえていると感じて嬉しかったです。

新店舗を襲ったパンデミック

― 長引く新型コロナ感染拡大による営業制限

 2019年11月、ハーバーフロントの新店舗がオープンしたのですが、その数か月後に新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言で営業ができない事態に陥りました。オープンしてすぐに規制による営業制限などで店内営業などができない状況だったので、まさに〝生殺し〟のような気分でした。テイクアウト以外の営業ができない日々が長く続いたことも辛かったですが、なにより自分が面接・採用して揃えたスタッフたちをカットしたり、働かせてあげられなかったことが本当に悔しかったです。

コロナがもたらした変化

― 結婚し、子どもを授かり父親に

 予想よりも長く続いたコロナ禍は非常にハードな2年間でしたが、副業を始めたり、オンラインで働く人が周りでも増えてくるのを見て、人々の働き方や考え方が大きく変化していると感じた期間でもありました。

 プライベートでは2019年に結婚し、翌年には子どもを授かり、2021年には父親になるという変化がありました。「育児」に時間を費やす期間を通して、自分を育ててくれた親への感謝の気持ちがあらためて強く湧きました。また、家庭を持ったことで「責任感」がより強くなり、今までは耐えられなかったようなことやコロナ禍での仕事の厳しさにも立ち向かえるようになりました。

 また、コロナにより職場では多くの日本人が帰国してしまったことから人手不足になりましたが、トロントの地元にいる人たちを多く雇うようになり、会社に〝多様性〟がもたらされたと思います。

 オフィスにいるマネジメントチームに関しても今ではほとんどカナディアンが多数を占めます。ですので、彼ら本部と現場の間に立つ人間として、互いの意見をすり合わせて妥協点を見つけ、本部の要望に対しイエスかノーかをはっきりと自分で、しかも英語で言わないといけないというのが大きなチャレンジとターニングポイントになりました。

頑張っている人をきちんと評価する会社

―現場から管理職へ

 今年からポジションが変わり、店舗全体のオペレーション・ディレクターを担っています。現場のみんなと働くのはすごく楽しかったですが、3年後、5年後を想像すると今のポジションの方が違う世界が見える気がするので、やりがいを感じながら満足しています。もちろんそうは言っても、もともと現場出身の人間ですし、現場を見ないと状況は分からないので店舗にたつときもよくあります。

 また、今のポジションになったことで、自分の近くで頑張っているスタッフたちに新しいポジションを与えられるということもエキサイティングに感じます。今後は、さらに事業を拡大し、店長・副店長・エリアマネージャーなどのポジションをこれまでよりも増やすことで、いま働いている人たちがステップアップできる環境を用意していきたいと考えています。

 KINKA FAMILYでは、日本人が有利などということは全くなく、カナダ人はじめ全員が平等に評価されています。実際に、私がハーバーフロントで店長をしていた時にアルバイトとして働いていたカナディアンの男性は、今ではフードクリエイターとして各店のメニューを考案する立場にいます。彼はもともと三ツ星レストランで働いていましたが、日本食に興味を持ち我々の会社に来てくれました。とても良いスタッフだったので正当な評価を受け、より一掃の活躍をしています。

現場の人を信じて、全力を尽くす

― KINKAが求める人材

 コロナ後に抱えていた問題の一つとして、「人手不足」が挙げられます。私たちが求めている人材は、前向き・ポジティブな人、チャレンジ精神がある人、そして毎日ワクワク楽しんで仕事ができる人です。私にできることは、そうして集まった現場のチームを信じ、彼らのために全力を尽くし、働きやすい環境作りや努力に見合った評価をすることだと思っています。

 飲食業での経験が(アルバイトも含め)一定期間以上あればワークパーミットもとりやすいので、カナダで長く働きたいという方にとって良い環境だと思います。また、日本にいる方には日本の店舗で研修を受け、カナダに来てもらうなどの制度も用意しています。

 飲食業に携わりたい方や海外でチャレンジしてみたい方にとって、待遇や福利厚生もしっかりとしていて、誰であっても努力していればきちんと評価されるという点は、会社や組織がしっかりしている会社だからこそ可能な「チャンスしかない」環境だと感じてもらえれば嬉しいです。

日本を世界中へ広げる

― 今後の目標

 私たちグループが手掛けている事業は、日本食というキーワードを軸に多岐にわたり、それぞれ特性があるという点が魅力的です。現在はトロントだけでなくモントリオールやバンクーバーのほか、アメリカと日本にも進出しており、「世界に日本を広げていくためのレストラン」として、ワールドワイドな会社を目指しています。私自身としては、あと20年くらいは行けるところまで上を目指して頑張っていきたいと思っています。