東京 ― 渋谷の今|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第71回

ヒカリエと渋谷・スクランブル・スクエアビル。ドーム内は地下鉄が走る
ヒカリエと渋谷・スクランブル・スクエアビル。ドーム内は地下鉄が走る

渋谷が世界一?

 JR、東急電鉄、京王電鉄、東京メトロ(地下鉄)4社の8路線が乗り入れ、一日の鉄道利用者は300万人という渋谷駅はいつも張り紙だらけの工事中。大規模な開発が今も進行中だからだ。

 新宿駅につぐ日本第二の首都駅渋谷、成田や羽田空港からの乗り入れも付近を通るので外国人観光客が来る街としては新宿や池袋をしのぐ。
 2005年に始まった都市計画も17年が経ちその成果を世界に発信しようとしている。『渋谷が世界一だ、と思う人を増やす』のビジョンを掲げ生活文化、緑と水の環境づくり、交通結節機能、快適な歩行環境、等々を目標にいよいよ成果が評価される日が来ている。私も友達と渋谷で降りてみた。   

渋谷ヒカリエ(Hikarie) 2012

 1956年に開館した東急文化会館を引き継いでリニューアルされた34階建てビルはアート、ファッション、音楽、映像などの活動の場を提供。各種教室、オフィス、商業、劇場をはじめとする文化施設があり2千人を収容できるシアターやイベントホール、貸し会議室など外部利用者が多い。ここのファッション・デッサン教室に通っている友人もいる。ヒカリエには『渋谷から未来をてらし、渋谷から世の中を変えていく光になる』という思いが込められている、とか。キラキラするような商店街は地下鉄駅からエスカレーターで上ってくる人を吸い込んでいく。

渋谷ストリーム(Shibuya Stream) 2018

 道路の下を流れていた渋谷川をもっと身近にしたのがこのビルの開発だ。カマボコ型のランドマークだった旧東横線渋谷駅の跡地に建設され『クリエイティブ・ワーカーの聖地』を旗印に2018年にオープン。地上35階、地下4階の外観は白い縦線がランダムに入っていてデザイナー事務所の設計らしくアーティスティックだ。ホテルが6フロアを占める。路地風の渋谷川の橋とハンモックの独特な空間、そして入口の天井にあしらった鏡、壁に投影される渋谷の風景に他のビルと違った趣を感じさせる。小さなレストランで美味な〝おにぎり定食〟を食べると私の創造性も生まれでるような気配が。

渋谷・スクランブルスクエア(Shibuya Scramble Square) 2019

渋谷・スカイから見下ろした330mの芋虫型の宮下公園
渋谷・スカイから見下ろした330mの芋虫型の宮下公園

 JR東日本、東京メトロ、と東急電鉄が共同開発してできた大規模な複合商業ビル。地上47階、地下2階は渋谷で一番高い。最上階230mへは屋外エスカレーターを上って到着。雑踏からかけ離れ初秋の心地よい風に当たりながら自分がドローンに搭載されたカメラになって下界を眺める。道路のスクランブル・スクエアや宮下公園を眼下にみるも騒音は全く届かない。展望台の入場料は大人2千円と高めだが、時間制限はないので陽があるうちに行き、のんびりと赤く染まる夕空を鑑賞できるのがいい。大型ハンモックに寝そべって星空を待つ人たちもいる。屋上の四角に自由に行けて、一角にはミニバーがある。ポケットに入る貴重品以外はバッグも含め全てロッカーに預けるルールだ。

47階建てのスクランブル・スクエアの屋上に展望台がある
47階建てのスクランブル・スクエアの屋上に展望台がある
230mの渋谷・スカイ展望台からみる夕陽
230mの渋谷・スカイ展望台からみる夕陽

宮下公園(Miyashita Park) 2020

渋谷・スカイへはシュールな露天エレベーターで空中体験
渋谷・スカイへはシュールな露天エレベーターで空中体験

 山手線沿線に沿って建つ4階建の芋虫型立体都市公園。かつてホームレスが野宿していた公園は、〝お金のない人が集まれる場所〟として渋谷の一風物であったという。反対派に会い紆余曲折をへて2020年に商業施設、駐車場、公園の複合商業施設としてオープン。全長330mの長い建物の一階は赤提灯の飲み屋、2~3階のレストランと異なった食文化を共存させている。屋上はスケート・ボード、ビーチ・ボールやボルダリングの遊び場があり、芝生やベンチで休憩しているビジネスマンや家族連れがいる。屋根はなく、ドーム形の枠に緑のツルが伸び、いずれは巨大な青虫と化すだろう立体公園は、〝緑の環境〟を造ろうという都市計画の苦肉の策なのかも。シブヤ・スカイから望遠レンズでスケボで遊ぶ若者の姿が目撃できた。正面の〝のんべい横丁〟は昭和、平成、令和をつなぐ伝統長屋だ。

渋谷の歩行環境

渋谷の新しい歩行環境、長い歩道橋
渋谷の新しい歩行環境、長い歩道橋

 道路と高速道路の中間に人が歩ける空間がある。その有様は子供の頃見た「未来都市」像を思い出させる。交通信号や渋滞する車を尻目に主だった場所に歩道橋で行けるのは確かに楽だ。しかし階段を上る老人の姿は目につかなかった。高齢者を乗せるドローンは出てくるのか?開発はまだ続いている。