福井県ってどんな とこ?(3)匠の技にであう|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第62回

メガネフレーム

 自分のメガネフレームがどこで作られたのか知っている人はどれほどいるだろう。私はメーカーに関係なくトロントの決まった店で顔にフィットする色と形で選んでいるが仕入れ先を聞くといつも福井県。私と福井県との出会いはここが原点かもしれない。日本国内の96%のメガネフレームが鯖江市、越前市、越後市を包括したメガネ生産地域の約600社のメガネ工房から出ている。

 117年前、庄屋の増永五左衛門が〝冬の間に農業の代わりにできる軽工業〟として導入したのがことの始まりだ。戦時中は新聞の購読者とメガネの需要が急増し今ではイタリア、フランス、と並ぶ3代世界産出国だ。スタイル、耐久性、かけごこちからも世界的レベルにある。

 私は長年愛用していた古い金属製フレームを持参したところ、みごと新品同様によみがえって東京に送られてきた。感動!JR鯖江(さばえ)駅の南西にはメガネの里、東側にメガネミュージアムがありメガネ作り見学や体験もできる。

諦めていた眼鏡フレームがよみがえった!
諦めていた眼鏡フレームがよみがえった!

和紙の聖地、越前

購入した素敵な柄のプレースマット
購入した素敵な柄のプレースマット

 「美しい日本の歴史風土100選」に入っている所が県に四つある。その一つが「越前和紙の里」だ。明治初期、大蔵省印刷局が越前職人を招き貨幣用紙を作らせたという誇り高き歴史がある。局紙と呼ばれるその紙は今、伝統技術と西洋製紙技術が融合して耐久性の強い証書や証券などにも使われている。

 見て楽しいのはパピルス館にある様々な模様や厚さの美術工芸用紙。まよった末に選んだ越前和紙のランチョンマットを大事にくるんでもらい紙匠の技を土産とする。工芸館では原料になる植物、コウゾやガンピの束のそばで紙匠が紙すきをしていた。

「和紙の里」で紙すきをする紙匠
「和紙の里」で紙すきをする紙匠

 一休みに立ち寄ったカフェ、窓から差し込む眩しい光を見ていると越前の自然の恵みを受けて育った〝ものづくり〟の知恵と職人技にいとおしみさえ感じる。毎年5月に「神と紙の郷」の祭りが地域の大瀧神社で催されるそうだ。JR武生(たけふ)駅から車でおよそ15分。

世界に誇る越前ナイフ

 約700年前に京都の刀匠が刀作りに適した地を求めて越前にやってきて製造したのが始まりという、その継承芸術に出会えるのが「ナイフの里」。江戸時代には越前が日本一のカマ生産地だったそうだ。今も越前自慢の20人もの伝統工芸士たちに打刃物技術が受け継がれており、各工房が生み出したあらゆる用途、サイズ別の打刃物がずらりと並ぶ刃物会館は必見。中でも全長80センチもあるマグロ切り包丁が目を引き、大マグロに刃を向ける魚商の姿が脳裏にチラつく。

マグロを切る包丁は全長80cmもある
マグロを切る包丁は全長80cmもある

 小ぶりの料理包丁を一本買った。あとでわかったことだがモントリオールに住む娘が偶然にも私のと同一職人による包丁をすでに持っていた。欧米の刃物商にも人気があるようで、私は越前打刃物の世界的名声を福井県に来て知った。敷地には超モダンで高級なナイフやフォークセット専門店もあり、古き良きものと同時に斬新な工芸品をうみだそうと越前は未来にも目を向けている。2020年にリニューアルしたタケフナイフビレッジではナイフ作り体験ができる。

箪笥(タンス)の町

装飾金具でどの土地のタンスかわかる(写真は仙台タンス)
装飾金具でどの土地のタンスかわかる(写真は仙台タンス)

 ぜひ行ってみたかったのが武生(鯖江のとなり駅)にある越前箪笥の町。織田信長の朝倉(1月号記事)攻めの本陣だった龍門寺近くの空き地に駐車して陣をとり散策開始。八軒のタンス工房がある。新しいデザインの工房もあるがケヤキやキリを材料とて奈良時代に始まった越前箪笥の技術は江戸、明治へとその技術が受け継がれ今でもアンティーク家具を修繕・製作する店がある。時代劇の部屋のシーンにテレビ局や映画社からのレンタルの依頼が多い、と説明してくれた内藤箪笥店の内藤さん。飾り金具の形でどの地方のものか区別がつく、とも教えてくれた。店の2階には修理し切れないほどのレトロな生活用品や家具が順番を待っている。

内藤箪笥店の内藤さんご夫婦
内藤箪笥店の内藤さんご夫婦

 富士山をかたどった明治時代の欄間(ランマ:ふすまの上の開口部材)を2000円で譲ってもらった。最後に内藤さんお勧めの〝山むろ〟で越前そばを堪能し、越後海岸へ出陣する。