山陰へ ― 日本海が見たい|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』

どこへ行くにもコロナ対策を

美保湾、弓ヶ浜で釣り場を求める青年
美保湾、弓ヶ浜で釣り場を求める青年

 新型コロナウィルスで初めに医療崩壊を経験したイタリアでもレストランが営業開始したという。2月に大阪に来ていた日本人の友は緊急事態宣言に引っかかり、どこにも行けず自粛を守ってきた。晴れて7月にいよいよイタリアに戻れることになった。帰る前に日本海をみたいというので県外移動が可能になったのをみはからって山陰旅行を計画した。大阪で合流し新幹線の岡山駅から特急やくもで島根県松江へ。そこからはレンタカーで巡る。列車はガラガラで何もせずとも密集は避けられた。誰も乗っていないので回送車だと思って新幹線を乗り損ねた人もいたという笑い話まである。私たちは消毒液やマスク、殺菌用お手拭きなどのコロナ対策用品を持参。折りたたみのテーブルや肘掛も自分たちで除菌処置をし、やっと車窓の景色に視線を向けることができた。

弓ヶ浜で鱚を釣る人
弓ヶ浜で鱚を釣る人

日本海だ!

鯉が下を泳ぐ足立美術館のカフェ
鯉が下を泳ぐ足立美術館のカフェ

 日本一の庭園を誇る島根県安来市の足立美術館に立ち寄り枯山水庭と横山大観の作品を堪能した後(別館の現代美術館も素晴らしかった)、池の鯉を見下ろすモダンなカフェで山陰に無事到着したことを祝う。日が落ちる前に鳥取県の美保湾に足を伸ばし、弓ヶ浜で待望の日本海に触れる。ビーチには釣り人が1人、2人、3人。鱚(キス)のシーズンで竿を入れればビーチからでも簡単に釣れる、と隣接の島根県から来た男性がいう。太平洋側とは違う微妙な砂浜の落ち着きは一体なんだろう。コロナ禍とは無縁の長閑な風景に心がリセットされる。美保湾に面する境港市で食べた蟹オコワの美味だったこと。

色とりどりの鯉
色とりどりの鯉
境港市で食べたカニおこわ
境港市で食べたカニおこわ

 GPSを頼りに電灯もない真っ暗な田舎道を走り玉造温泉に着いたのは夜の8時を回っていた。ホテルで体温測定に協力し、消毒液を手に吹きかけ、受付をすませ、美肌の湯の〝効果〟に期待をよせる。我々はこの山陰にお金を落とし、僭越ながら経済に貢献する小さな歯車の一つになった。地元の観光業者のしっかりしたコロナ対策もさることながら、県外から来た我々へのおもてなしには心から感謝した。

ガイドの足立さんが体温をチェックする
ガイドの足立さんが体温をチェックする

世界遺産、石見銀山をめざす

 翌朝、玉造温泉から約2時間弱のドライブで石見銀山世界遺産に到着。遺産地区に車は入れないので世界遺産センターの駐車場に停める。歩けば丸一日掛かるので電動自転車をレンタルして巡る。アプローチして来たのは石見銀山ガイド協会の会長を務める足立さん。案内をお願いすることにした。しっとりとした緑の山道を走りながら石見銀山の歴史と今を学ぶ。初めて乗った電動自転車。間歩(マブ、坑道のこと)へ向かう坂道もスイスイと快適だ。足立さんのおかげで思った以上に意味深い場所となり、いつかまた来ようと心に決める。石見銀山のあとは縁結びで有名な出雲大社。世界的にも有名なこの二つの場所は次号でご紹介することにして。

曖昧な東京都のコロナ対策

 これを書いている東京では連日感染者が200人を超えている。夜の飲酒店の若い従業員や客、またその家族に集中的に広がっている。影響は中高年にまで及ぶ。小池都知事は感染警戒度を最高レベルに引き上げたが、大阪のようにピンポイントで規制を加えない限り東京の感染者は増加するだろう。都の曖昧な政策のために感染者が増え、東京からの観光客を敬遠する動きが出始めている。国は県をまたぐ移動や旅行は〝コロナ対策をする〟ならOKという姿勢だ。新コロナウィルスと戦いながら経済も動かしていかなければならないからだ。だが7月22日からの国内旅行に割引を適用するという国のGoToキャンペーンから東京都は外されてしまった。こうなる前に小池都知事には夜の繁華街と若者たちの行動に規制をかけて欲しかった。カナダが実施している迅速かつ継続的な給付金、それが出来ない日本は経済をなんとか回していかないと新型コロナウィルス感染のみならず壊滅的な異常豪雨による甚大な水害というダブルパンチで国を沈没させてしまう。東京を除外してでも…?