「Once an Olympian, always an Olympian」東京オリンピック・ 空手アメリカ代表 國米 櫻さん(後編)|Hiroの部屋

國米さん(左)とヒロさん(右)

アメリカ代表として世界20各国以上の世界大会に出場し、東京オリンピックの出場権を掴み取った國米さん。東京五輪前には米国でアジア系市民に対する人種差別が深刻化する中、彼女自身が被害にあい多くのメディアに取り上げられた。

コロナ禍で顕在化した
アジア系ヘイトの被害にあう

ヒロ:コロナ禍では、これまで以上にアメリカやカナダなどでアジア系コミュニティーに対する憎悪犯罪が広がりました。國米さん自身も公園でトレーニング中に差別的な暴言を受けたことをインスタグラムに投稿し、米国だけでなく日本のメディアなどでも報じられ注目を集めました。

國米:公園でトレーニングの最中に男性が近づいてきて私がアジア系だと判断して罵ってきました。当時の状況をSNSに投稿したことによってテレビや雑誌の取材が殺到しました。正直、自分の中で起きたことをプロセスできていなかったのですが、話をしていくうちに整理ができたような気がしています。米国のメディアで取り上げられ、日本のテレビなどでも報じられました。両親にも伝えていなかったのでとても心配されました。

連盟や関係者らのアドバイスで警察にもレポートしました。最初は億劫だったところもありますが、当時はアジア系市民に対する人種差別も深刻な社会問題でしたし、私がやらなきゃいけないという自分の責任も頭では分かっていました。

私は被害にあった公園の近くに住んでいたのですが、まだ犯人も捕まっていない中公園にも戻ることができず、近くのスーパーや地下鉄に乗ることにも躊躇いがありました。自分は怖がっているのだろうかと、あの五分間の出来事だけで自分はなんでこんなに崩れてしまっているのだろう、萎縮してしまっているのだろうかとフラストレーションが溜まりました。

ヒロ:どのように向き合っていったのですか?

國米:ニュースメディアのおかげで様々な方面の方々から連絡をもらいました。例えば日本のナショナルチームのコーチです。沖縄の先生なのですが昔たまに稽古に伺ったことがあります。そのコーチから電話がかかってきたんです。今まで電話もそんなになかったのにあまり細かいことは聞かず、大丈夫かと。あの事件のおかげで、いろんな方から頑張ってと言う声をたくさんもらうことができてこれまで少し距離を感じたこともあった日本の人たちに親近感が湧いたというか、アメリカの国旗を背負っているけど、やっぱり日本人として見てくれているんだなと、ちょっと嬉しかったです。

ヘイトクライムは米国だけではなく欧州やカナダにももちろんあります。残念ながらマイノリティーを上から下に見る人がいるのも事実です。だけど私の中ではそれは「アメリカ」ではありません。今回、アメリカ代表の自分でもこのような経験をするんだということを私が発信することによって、白人でなくても「アメリカ人」なんだよというメッセージを伝えたかったんです。そこからは気持ちも燃えてきました。空手は他の競技のように次の五輪はない(パリ五輪では空手は正式競技から外された)、私には今このタイミングしかないと。だから公園にも戻れるようになろうと思い練習を再開しました。

みんな目標があり、
それぞれの責任感を持ってオリンピック後も歩んでいく

ヒロ:国旗を背負う代表選手としての心得みたいなものはあるのでしょうか?

國米:取材などで「米国代表としてどんな責任を背負っているか?」「ラルフローレンの代表ユニフォームを着て開会式に出ることはあなたにとってどんな意味を持つか?」という質問をよく受けます。他のオリンピアンを見ているとしっかり答えることができるんです。それはアメリカの代表であり、その競技の代表であり、そしてコミュニティーの代表でもある自覚と社会にギブバックしていくんだといったカルチャーができているからです。多分アメリカの代表選手はそこがとてもしっかりしているんだと思います。私は小さい頃からオリンピック選手を見てかっこいいと思っていました。そして、オリンピックと関わりがない時から自分もその舞台を目標にやってきたので、こういうことかぁと実感できました。

ヒロ:信念があるからリアルになりますよね。もともと空手は五輪の競技ではなかったけど、空手そしてオリンピックと向き合い、五輪に出場するという夢が実現しています。点と点がまさに結びついていっているように思いますが、今後の目標を教えてください。

國米:直近ではあと2〜3年は競技を続けます。もしロス五輪で空手がふたたび正式競技となるのであればあと5年。最後の挑戦になるのでそれに合わせて持てるもの全部を出していきたいです。

それ以降は、エデュケーションに関わりたいと思っています。大学に戻り博士号をとって教授となり空手の経験を違うフィールドで伝えていきたいです。社会にギブバックしたいし、子どもたちに空手で学んだことも教えたいです。日本は義務教育で空手の授業があったりしますよね。人生にもっと活用できることがきっとあるはずです。ちょっとでも自分の経験が子供たちに活かせるならハッピーだという気持ちで今を生きています。

國米櫻さん

14歳で米国ジュニア代表。2012年、フランスのパリで開催された世界空手道選手権大会の個人形種目で銅メダルを獲得。2013年、ロシアのサンクトペテルブルクで開催されたワールドコンバットゲームズの女子形種目で銅メダルを獲得した。2019年、ペルーで開催されたパンアメリカンゲームズで優勝。2020年3月、女子形の部においてアメリカ代表として出場することが決定。東京オリンピックは5位。