ファンが生みだす新しいクラウドファンディング市場|世界でエンタメ三昧【第88回】

ファンが生みだす新しいクラウドファンディング市場|世界でエンタメ三昧【第88回】

寄付が根付かない日本で突如生まれたクラファン市場

 MAKUAKEやCampfire、うぶごえといったサービスがFacebookに頻出するようになってきました。「クラウドファンディング」という言葉自体はそれほど新しいものでもなく、群衆(Crowd)から資金調達(Funding)するということで、2009年のKickstarterから普及が始まったものです。そもそもでいえば、株式会社という4世紀前からある仕組み自体も概念として言えばクラファンですし、古来よりある「講」のように村の中で貧困者を助け合うようなクラファンも存在してきました。銀行でも株式でもなく、ユーザー同士が結びつきあってお金を出し合うManeoといったソーシャルレンディングの仕組みも10年以上前からあったりします。ただこれらが近年大きく成長した、というわけではないのです。

 以前からの仕組みは「金融型」と言われ、投資して金利・配当などさらに多くの金銭が返ってくることを期待したものです。それとは逆に、篤志家が行ってきた「寄付型」は、リターンを求めない形式で、日本ではあまり流行らない仕組みでした。純粋な寄付でいくと、米国が毎年30兆円超(GDP比1.5%)寄付するのに対して、英国1.5兆円(GDP比0.5%)、韓国7千億(GDP比0.5%)に対して、日本は8千億円(GDP0・14%)。日本は寄付文化が弱く、「貧困は自己責任」とばかりに公共が資金的援助をするのは厳しい、というのが通説でもありました。

 ところが、昨今の状況はどう見ればよいのでしょうか?ちょうどコロナで様々な産業が激動のなか、このクラファン産業もまた、その業態を大きく変えつつあります。図1でみるように「購入型」と呼ばれ、金銭以外の商品・サービスをリターンとして求めるクラファン市場が、2019年169億から2020年501億と急に3倍近くまで増えるところとなりました。手数料15~20%程度ですので、「事業者収入として100億円集まる程度になってきた」というレベルでしょうか。

 あれほど寄付嫌いだった日本で、どうしてこんなクラファン新時代が生まれているのでしょうか?

クラファン市場とEC市場の間の空白地帯

 よく名前があがるのはCampfire(2011年創業)とMAKUAKE(2013年創業)です。図1の市場拡大と同様に、これら2社の業績も2020年以降に伸び幅が大きく拡大しているのが分かります。非上場のCampfireは数字が見れませんが、総資産からほぼ同サイズとみなした場合、両社ともに2019年までの年商10億円程度から、2年間で50億円規模まで取り扱いが増えています。手数料で割り返すと、日本の500億円市場のうち、この2で8〜9割のシェアを占める状況でしょうか。

 クラファンというと〝金融っぽさ〟があるのですが、実は「購入型」はそれとは一線を画しています。MAKUAKEで過去累積最大金額を集めたプロジェクトはチェーンレス電動アシスト自転車(4973名出資で6.2億円)やカスタマイズポータブル電源(6098名出資で5.1億円)など、どちらかというとまだ市場に出回っていない商品を先行もしくは独占で購入ができる、1人10万円くらいあつめるようなEC市場のような形です。マクアケはこれを「0次流通市場」と呼び、企業内で商品化されない2番手・3番手の企画をユーザーに問うて、資金が集まるレベルであれば商品化する、というものです。

 MAKUAKEはクラファン市場とEC市場の間にある「空白地帯」を発明しました。これまでは企業内でユーザー心理を想像したり、調査したりしながら手探りで製造・量産・販売をしてきましたが、こうしたサービスによってβ版の状態でもニーズを掘り当てて、想定できる販売規模を試験することができるようになったのです。一定規模のファンと、それなりの「寄付」や「応援」できる余剰があれば、新しいマーケットが作れるのです。メーカーとユーザーの間には「相手がどのくらい求めてるか」を推し量る期待値による深い谷が存在します。そこに多くの商品/作品が日の目をみなかったところ、クラファン市場によって「0次流通」としてマーケットが生まれ始めています。

 ただし、17~20%といった手数料は、3〜5割になるリアル物販の流通・小売手数料ほどにはならないにせよ、3%のクレジットカード手数料やShopifyやBaseの4〜7%、そこに固定費なども載って10%以上になるアマゾンや楽天などと比べても決して安いものではありません。ここまでのマージンを取るのに値するのか、というのは、クラファン事業者の「集客力」「ユーザー定着力」「クラファンしやすいコンテンツへの動画・ページ制作力」などもろもろの総合力といったところでしょう。

 メディア系企業の進出も目立ちます。前述2社以外にも、A-port(朝日新聞社)や未来プロダクション(日経新聞)など発信力のあるメディアが主導となるクラファンはプロモ費用を効率的に、かつそれなりのブランド価値をもって展開が可能です。Green FundingはCCCグループとして蔦屋というリテール店舗と連動した展開を模索しています。

推し活はクラファン市場に取り込まれるのだろうか

 ここで『推し』の研究家としての私の分野も非常に近接しています。果たして「推し活」をするユーザーは、このクラファンによって顕在化する市場となるのかどうか。ざっくり全体の肌感覚でいうと、クラファン500億の半分近くは「EC物品」で、それ以外は「コンテンツ(コミック・アニメ・ゲーム・イベント等)」「社会貢献(地域再生・医療福祉・教育)」「応援(アイドル・スポーツ・飲食店支援)」で3分割されているような状況です。推し活は狭義でいえばこの「コンテンツ」「応援」に類するもので、モノや町づくりにまで「推し」の概念を広げると、広義でいえばすべてが対象とも言えるでしょう。

 図3は購入型クラファン案件を分類したものです。ほとんどのプロジェクトは5千人以下のプロジェクトで、金額はまちまち。0次流通のようなプレ商品購入型であれば、ほぼECやふるさと納税のように5万~10万円といった金額が投じられ、数千万~数億円といった資金調達が可能です。基本的には1千人のファンが5千円出し合って、5百万円の資金を集める―このくらいがクラファン市場のスタンダードと言えるでしょう。

 10兆円のコンテンツ市場(動画視聴や出版購入など)、2.5兆円のライセンス市場で考えると、こうした〝応援〟クラファン市場はまだ数百億と小さいものには違いありません。ただこれまでの「出来上がったものの定価・変動価格でのサービス提供」と違って、「自分たちの支援によって作品が出来上がる」という感覚は、これまでとは全く異なるコマースを生み出す可能性を秘めています。実際に、タレントやキャラクターに対する消費行動は、友人へのギフトや家族への贈り物に近いようなソーシャルな動機づけからなっている事例も多数見ています。

 この業界はクラウドファンディング市場とも、メディアコマース市場とも、投げ銭ベースのゲーム実況市場とも、YouTuber・Vtuber市場とも近接の距離にあります。何かを推すことは、何かを購入・消費することに直結し、その購入・消費への目的化が強すぎるとコンテンツやタレントはネットワークビジネスの色合いを強めます。本来は人と人の結びつきに、思い出・記念品のような消費をする動機でもありながら、そこに商業の色を強めすぎないバランスが大事。やりすぎると、お金を貢いで破産するホスト・キャバクラといったイメージになってしまう。

 Kickstarterの〝失敗例〟も他山の石とする必要があります。UberやAirbnb同様にマッチングだけに特化するこのサービスは、どんな事業者がプロジェクト資金を集め、どんな形でファンに還元されているかを「どこまで責任をもつものか」について非常にあいまいでもあります。実はKickstarterは2015年の2万件への約50億円をピークに、案件数も投資金額も減少傾向にあります。スタート初期の5割近い成功率は、2015年に3割を切り、かつ何千万円も集めたプロジェクトがそのまま持ち逃げに近い形で最初に約束したリターンを返さなかったことが原因です。

 この黎明期において、どこまで運営会社が保証機能を負うのか。ファンがふさわしいリターンを得たと感じ、2つ目・3つ目のプロジェクトに再び〝支援〟に乗り出せるかどうか。その点は現在のこの5〜10社の企業が中心となって、ファンを裏切らない運営ができるかどうか、まさに今市場に問われているタイミングだと感じます。