パンデミックにおけるカナダと米国の対応と成果の違いを探る|アメリカ現地報道からみるCOVID-19

パンデミックにおけるカナダと米国の対応と成果の違いを探る|アメリカ現地報道からみるCOVID-19

SARSで得た教訓

他項目で述べられているように、二国間の政治的リーダーシップの相違が、パンデミックの状況の深刻さに大きく影響していることは確かだ。そして、それに加えてユニバーサルヘルスケアシステムや両国の長期的な国民健康対策・医療制度における大きな相違も考慮されるべきだ。

カナダは過去にSARSを経験したがある。2002年にSARSが勃発し、最終的におよそ26カ国に感染が拡大したが、2003年にはカナダ・トロントを中心に顕著なアウトブレイクが見られた。この時、アメリカでは少数の感染件数だけで死者が0人であったのに対し、カナダでは44人の死者が出た。この経験は今回、韓国や台湾など新型コロナウイルスのパンデミック危機でその対策が高く評価されている国・地域でも同じであり、それらの国々では過去の経験を活かして今回のパンデミックに対応する政策が制定されていた。

ユニバーサルヘルスケアシステムの重要性

ユニバーサルヘルスケアシステムの重要性についても忘れてはいけない。カナダは政府が保険料を徴収し、政府がすべての医療費を負担するという単一支払者制度による医療制度を取っており、今回のような医療の危機的な状況の中でアメリカの高額で小さいキャパシティの制度に比べ、カナダの制度は言わずしも多くの人を救うことができた。

理由は様々にあるが、例えば単一支払者制度で手頃な医療費であればより多くの人が医者へ行き検査や治療を受けることができるため、特に貧困層や疎外されたコミュニティーの人々の間でのウイルスの拡大がしにくい。また、カナダの制度は政府が保険料を徴収し全治療費を負担するため、カナダ保健当局がうまく調整することができる。アメリカのように医療費支払いシステムの権限を病院や保険会社に託し、医療費が高騰する可能性を招くよりも、政府がそれを調整することができれば、必要に応じてコントロールする力を政府が担うことになる。

これは、例えばカナダでは病院で感染が拡大しPPE(医療従事者などが着用する個人防護具)不足にあっても、政府がその需要の低い違う病院からPPEを回収して提供することができるが、もしアメリカの病院が同じような問題に直面しても、他の病院は実質競争相手なので、その需要と供給のバランスを保つことははるかに難しいとされる。

もちろんこの医療制度が二カ国のパンデミック状況の大きな違いを生んでいると断言しきることはできない。単一支払者制度であるもののイタリアなど深刻な状況の国もあり、一方でオーストラリアのような公営と民間の医療機関の両方が存在する国はそこまで深刻な状況にない。しかし、ここで明らかなことは全ての先進国のうちアメリカ以外が何らかのユニバーサルヘルスケアシステムを持っており、このパンデミックでカナダよりも大打撃を受けている一つの要因と考えられることである。

健康対策に対する予算

健康対策に対する予算がカナダは近年増加傾向だったのに対し、アメリカでは過去10年間でアメリカ疾病予防管理センター(CDC)への資金提供が10%減少しており、保健当局は資金不足に陥っている。これは保健当局によるパンデミックの準備や対応、措置力に大きな悪影響を及ぼしている。

まとめ

カナダの専門家は自国に対しても政府の対応に過ちがあったことも確かだとしている。先述した通り国内の高齢者介護施設の対応は問題視されており、4月中旬で国内死亡者のおよそ半分がこのような施設の住民であることから、普段からの運営や医療対応などに対して多くの疑問視や批判が上がっている。

また、先住民コミュニティーへの対応も問題視されている。もともと先住民のコミュニティーは孤立していることが多く、普段から物資の提供が航空機などによって行われるなど慢性的に資源に乏しく恵まれておらず、もしもの場合の準備が十分にできていないとされる。
しかしながら、世界どの国においてもそれぞれの対応が完璧であったという例はなく、初期の段階で拡大が抑えられた香港やシンガポールでも感染の第二波の問題に直面している。

アメリカは世界一の経済力で最高の学術機関も持つ国であるのに、国民の健康に対する注意力の欠如、不十分に設定された医療制度システム、そして政府の無機能性が今回の医療危機を招くことになったのだろう。

早すぎる段階で油断すればカナダもアメリカのような状況を招く可能性は十分にあるとも言われているが、現時点においてはカナダの対応はアメリカに比べて良かったと言えるだろう。

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