2020年カナダの大麻業界「大きな混乱」と失業の見込み|カナダから見るマリファナ合法化のあと

 2019年当初、嗜好用麻薬解禁を伴い、カナダの大麻業界は熱狂の中にあった。合法化を迎えて大麻関連株は急騰したが、2019年は大麻セクターにとって試練の年となり、当時急騰していた大麻銘柄は現在見る影もなくなった。大麻売上は合法化を伴い、カナダで急増すると予想がされていたが、その期待も裏切られた。カナダ保健省が大麻栽培・製造・販売に関するライセンスの承認に手間取ったことから、合法大麻製品が想定されていたように市場に出回らず、特に小売店の認可が遅れていたオンタリオ州での合法売上は多くの人の予想を下回った。カナダ統計局の報告によると、合法大麻の消費量はそれほど変化していない。

決算が発表された翌週まで終値の下落は止まらず株価は30%急落した
決算が発表された翌週まで終値の下落は止まらず株価は30%急落した

カナダ国民は合法化後も1年間に合法大麻に10億カナダドル未満しか費やしていないことが明らか

 2017年1月の予測では、2020年のカナダの合法大麻の売上高は当初72億ドルになると予測され、その市場は65億ドルに成長すると見込まれていた。合法大麻市場は2017年にカナダ国民がウイスキーなどの蒸留酒に費やした51億ドルを上回り、ワインの売上金額に迫る規模になるはずだった。

 しかし、米国の持株会社コーウェン・グループのアナリスト、ヴィヴィエン・アゼール氏は、今年2月にカナダの大麻産業の2020年の売上予測を32%削減し、35億ドルに変更したとBNNブルームバーグに述べた。アゼール氏削減の理由として、乾燥大麻製品の過剰生産、人口密集地域での「適切な」小売店の不足、大麻食品の入手可能な場の不足、違法大麻と比較して安価な商品の不足、そして経営陣の規則変更による混乱が発生する一方で、「大麻2.0」製品の可用性が最初の数か月で制限されたことを挙げた。

2020年は大麻市場の80%が違法取引のままであると想定

 また、今年2月にアゼール氏は、大手大麻企業のオーロラ・カナビス(Aurora Cannabis)、サンディアル・グロアース(Sundial Growers)とティルレイ(Tilray)等の評価を「アウトパフォーマンス」から「マーケットパフォーマンス」に格下げしている。同氏は違法市場での乾燥大麻1グラムあたりの平均価格が5.73カナダドルと合法的な大麻の平均価格よりも約80パーセント低いことを指摘し、「2020年は大麻市場の80%が違法取引のままであると想定している」とも述べている。これでは、トルドー政権が目指した闇市場の撲滅にはまだ繋がらないだろう。違法市場との競争を目的としたいわゆる「バリューブランド」の導入は、消費者を合法大麻市場に引き込む可能性が高い一方で、大麻生産者の粗利益を圧迫し、収益性に影響を与えるとも述べた。これらの複数のカナダの大麻企業の現在のパフォーマンスが示唆する、カナダの大麻産業の問題とは、一体何なのだろうか。

世界最大の大麻企業、キャノピーグロースがB.C.州の施設を閉鎖、500人を解雇

 世界で最も有名な合法大麻企業、カナダの大手大麻企業キャノピー・グロース(Canopy Growth)は、企業価値で見ると世界最大級の医療用大麻製造企業である。同社はカナダ中に大麻栽培用の温室を所有し、カナダの医療用大麻使用者の約3分の1に製品を提供しており、世界初の“大麻ユニコーン”として大きく評価されてきた。

 そんなキャノピー・グロースは、今年3月に大麻需要の欠如と連邦政府の規則の変更を理由に、ブリティッシュコロンビア州にある約300万平方フィートを占める施設2つを閉鎖すると発表した。同社の半分以上の大麻が栽培されているこの施設二つに同社は5億ドルを費やしたとBMOのアナリストは推定している。最近の研究報告書では、施設への出費について「以前の経営陣による規律のない資本支出」の兆候として説明されており、キャノピー・グロースはこの施設の閉鎖のために7億から8億カナダドルの財政的打撃を受けると言われている。また、同社は閉鎖に伴い約500の職を廃止する計画であり、オンタリオ州ナイアガラオンザレイクでの建設が計画されていた第三の温室の建設計画も中止すると発表した。

嗜好用大麻市場の成長は予想よりも遅く発展していると指摘

 同社のCEOであるデビッド・クレーン氏は、声明にてこの決断は難しいものだったが、キャノピー・グロースの供給を消費者の需要に合わせるためには必要な決定であると述べた。また、嗜好用大麻市場の成長は予想よりも遅く発展していると指摘し、現在、業界全体で運転資金と収益性における課題が生み出されていると指摘した。また、施設の閉鎖と従業員の削減の慰留に、同社が大麻栽培用の温室に多額の投資を行った後に屋外栽培を許可する連邦規制が導入されたことも挙げており、生産能力と予測需要の組織的戦略的観点から、温室施設が不可欠ではなくなったと述べている。

 キャノピー・グロースの発表は、大麻業界の他の主要企業の同様のダウンサイジングに続くものである。マリファナ株関連の問題に直面し、栽培の拡大が進まなかったオーロラ・カナビスも今年2月に約500人を解雇すると発表した。また、主に医療用大麻の製造・販売に従事してきたティルレイは1,450人の従業員の約10%を解雇すると発表した。シュプリーム・カナビス(Supreme Cannabis Co.)も、700人の従業員の約15%を解雇する計画を発表した。大麻専門家によると、大麻企業は違法市場と競争するための工夫を行わない限り、企業は今年を乗り越えることはできないだろうと指摘した。

 今年のキャノピー・グロースの戦略の大部分は、12月に合法化された「大麻2.0」製品のポートフォリオの一部として、THCとCBDを注入した飲料を市場に出すことだった。しかし、セス・ローゲン氏が率いるスパークリングドリンクのラインを含むキャノピー・グロースの大麻入り飲料の発売は、既に数度遅れている。そして、大麻が合法的な米国の州でさえ、大麻入り飲料は最も人気のない大麻製品の1つである。カナダ・オンタリオ州では1月6日から食用大麻を含む、大麻成分入り加工品の店舗販売が始まり、1月16日からはオンライン販売も開始されたが、果たしてこれらの投資が報われるかどうかはまだ不明である。

今年大麻業界で「大きな混乱」が起こると予想

 また、キャノピー・グロースのような合法大麻生産者にとってのもう一つの大きな課題は、CBD会社マテリア・ベンチャーズの業界評論家兼CEOであるディーパック・アナンド氏によると、供給過剰の問題だという。大麻を大量生産する企業は人々が実際に欲しがる製品を作るために、小規模のサプライヤーを模倣する必要があると述べ、「品質の観点から、大企業は大麻の成長と栽培に関して、小規模の大麻生産者が何をしているか、そしてそれらのブランドに対する親和性を示すという観点からも、消費者の意見に注意を払う必要がある」とVICEに語っている。

 そして、今年大麻業界で「大きな混乱」が起こると予想し、それは多くの小規模な企業が大企業に買収され、より多くの失業が起こることをと予測しているという。


本文=菅原万有 / 企画・編集=TORJA編集部