やっぱり映画でしょ!今年のトロント 国際映画祭の受賞作・話題作を解説|特集「幸せ時間の過ごし方」

9月に閉幕したトロント国際映画祭(TIFF)について、先月号に書ききれなかった見どころがまだある!ということで、レポート第2弾。

Toronto International Film Festival
ドキュメンタリー部門の観客賞受賞作
『The Rescue』

 TIFFでは、オフィシャルセレクションの全作品の中から選ばれる観客賞と、ミッドナイト・マッドネス部門から選ばれる観客賞の他に、ドキュメンタリー部門から選ばれる観客賞もある。そのドキュメンタリー観客賞の今年の受賞作が、『The Rescue』だった。

2018年、タイの洞窟にサッカーチームの少年たちが取り残され、雨季で洞窟が水没する危機が目前に迫る中、ダイバーたちによる決死の作戦で少年たちが助け出された。『The Rescue』は、その救出劇を追ったドキュメンタリー。鎮静剤で眠らせた少年たちに酸素ボンベを着けた状態で、洞窟の水中をダイバーたちが運んでいくという前代未聞の救出作戦。それを一体どのようにして実行までこぎつけたのか。失敗すればタイ警察に拘束され投獄されるおそれもある中、外国人ダイバーや医師が協力して作戦を練り実行した様子が、当時の映像とその後の関係者へのインタビューで描かれ、とても見ごたえがあるドキュメンタリーだった。

 本作は、身ひとつで絶壁の山岳クライミングに挑むクライマーを追ったドキュメンタリー映画『フリーソロ』で、2018年のTIFFドキュメンタリー観客賞を受賞したエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ監督とジミー・チン監督が再び組んだ作品で、今年またもや観客賞に輝いた。

日本の作品
『ドライブ・マイ・カー』
『犬王』
『不安な体』

 今年、日本からの作品として、長編では濱口竜介監督の『Drive My Car』(原題『ドライブ・マイ・カー』)と、湯浅政明監督のアニメ映画『Inu-Oh』(原題『犬王』)が上映され、短編作品では水尻自子監督の『Anxious Body』(原題『不安な体』)が上映された。『犬王』は、現地上映2回とオンライン上映2回が当初予定されていたところ、初回オンライン上映の開始時刻直前に上映が取りやめになるという珍しいハプニングがあった。そんな異例の状況ではあったものの、SNSでの評判を見る限り、『ドライブ・マイ・カー』や『犬王』は非常に好評だった。なお、カナダ作品ではあるものの、Wavelengths部門では斎藤大地監督の短編『earthearthearth』も上映された。

オンラインイベント
「In Conversation With…」

 昨年に引き続き「In Conversation With…」のオンラインイベントが、TIFF Bell Digital TalksというTIFFのオンラインプラットフォームで実施された。これは、話題の監督や俳優が1時間くらい中身の濃い対談をするプログラムで、2019年以前は現地会場で実施されていたが、昨年からオンライン開催となった。TIFF上映作品のオンライン観賞がカナダ国内に限定されていたのに対し、「In Conversation With…」は世界中から視聴可能で、日本からでもTIFFを楽しめる数少ないプログラム。今年は、ベネディクト・カンバーバッチ、スティーヴン・ユァン、ケネス・ブラナー、クリステン・スチュワートが登場した。このプログラムは、一般向けには12ドル、TIFF会員向けには無料で提供されているところだが、今年はクリステン・スチュワートの回のみ無料で提供されていた。TIFFでは、たまにこういった無料イベントがあるので、今後も要チェックだ。

スティーヴン・ソダーバーグ監督のシークレット上映

 例年、TIFFの上映作品は8月中旬頃にはすべて発表されるが、今年は開幕直前のタイミングで追加上映が発表された。9月初めにサプライズ発表され、その時点で公表されたのは、スティーヴン・ソダーバーグ監督の未公開作品のワールドプレミアという情報のみ。結局、作品のタイトルは伏せたままで最終日前日に1回だけ上映が組まれてチケットが発売され、当日の上映開始まで何が上映されるのか本当にわからないというシークレット上映だった。

 このシークレット上映に参加した人のツイートやレポート記事によると、上映されたのはソダーバーグ監督の30年前の作品『KAFKA/迷宮の悪夢』(91)を再編集した『Mr.Kneff』という作品。この1回限りの上映に参加した人のツイートを見ていると、ソダーバーグ監督による上映後のQ&Aも、とても面白い内容だったよう。私は『KAFKA/迷宮の悪夢』をかれこれ四半世紀前に観たっきりで、なんとなく好きだったという曖昧な記憶しかないものの、30年の時を経てどう変わったのか、『Mr.Kneff』はぜひ観てみたい。

まとめ

 この他にも、この数年で始まったTribute Awardsが今年も発表されたり、Amplify Voice AwardsやShort Cuts Awardsといった各賞も発表されたりと、一昨年までのような賑わいが少し戻ってきたように感じた。例年、TIFFでいち早く上映された作品は、世界各地の映画祭でも上映され、賞レースに絡んでくることが多い。たとえば『犬王』は、TIFFでの上映の後、10月30日からの東京国際映画祭でも上映される。今年のTIFFで上映された作品が、その後どうなっていくかに注目してみても面白いかもしれない。