「ヒトが違うカタチにトランスフォームしていく感じが好き」特殊メイクアップアーティストもりみゆきさん(前編)|Hiroの部屋

「ヒトが違うカタチにトランスフォームしていく感じが好き」特殊メイクアップアーティストもりみゆきさん(前編)|Hiroの部屋
みゆきさん(左)とヒロさん(右)
みゆきさん(左)とヒロさん(右)

現在トロントで活躍する特殊メイクアップアーティストのもりみゆきさんは、大学卒業後にメイクアップを学ぶために米ロサンゼルスへ留学、その後日本に帰国、2008年からはバンクーバーで数年間活動し、現在はトロントを拠点にネットフリックスやアマゾンプライムなどの映画やドラマの現場で活躍している。特殊メイクアップアーティストという仕事の魅力や特徴を伺いながら、カナダの二大映画撮影地での経験を持つみゆきさんのこだわりに迫っていきたい。

トロントでようやく出会えたヘアスタイリストさん

ヒロ: みゆきさんとの出会いは、去年の夏にお客様としてサロンにご来店して下さったときですよね。ご希望のヘアスタイルがアシンメトリーで、さらに各箇所にも細かいこだわりがあり、本当にカスタマイズされたヘアカットだったので、とても印象的でした。

みゆき: トロントに来て以来、なかなか満足するヘアスタイリストさんに出会えていなかったのですが、ヒロさんはこれまで出会ったスタイリストさんとアプローチが違ったのがとても印象的でした。ヒロさんは、私がイメージするヘアスタイルを忠実に再現することに、全力を注いでくれました。だから最初、口数が少なかったんだと、最近知りました。

ヒロ: 有り難いお言葉です。みゆきさんの世界観のような独自のヘアスタイルが明確にあることが伝わったので、それを理解し、対応するためにカット中も引き続き何度も詳細確認が必要でした。当サロン名「bespoke」という英単語がまさにオーダーメイドという意味も持つため、みゆきさんのリクエストには、サロン名の由来を強く実感できました。

ヒロ: キャリアのスタートは本場ロサンゼルスだそうですね。

みゆき: ロサンゼルスのメイクスクールに留学しました。工房でインターンをした後、ビザの関係で一度帰国して造形の仕事やメイクスクールのインストラクターをしたのですが、2008年にバンクーバーに渡り工房で造形、撮影現場では特殊メイクに携わっていました。

Prosthetics designed and made by Mindwarp Productions
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ヒトが違うカタチにトランスフォームしていく感じが好き

 
ヒロ: メイクアップアーティストの夢を抱き始めたきっかけは何ですか?

みゆき: 母がアーティストだったので、子供の頃から、母のアトリエに豊富にある材料を使って、モノを作る遊びをしていました。同時に映画も大好きで、ホラー映画にハマッていた十代の時に「特殊メイク」という職業があると知り、「人が違うカタチにトランスフォームすること」に魅了され、この職業を目指すことに決めました。

特殊メイクアップアーティストになるというゴールがあり、問題はどうやったら辿り着けるのか

ヒロ: 高校を卒業後、大学に進学されたそうですが、特殊メイクの専門学校などは考えなかったのですか?

みゆき: 当時、進学の選択肢として、日本の美大・特殊メイクの専門学校、もしくはロサンゼルスの専門学校を考えていました。そこで、日本の特殊メイクの第一人者である江川悦子さんに連絡をしたころ、「美大に行く以外にも選択肢はある」とのアドバイスが。日本の大学で、宗教学、心理学、文化人類学を専攻したのは、もともと人間の心理や行動に興味があったんですが、結果として、海外で生活する際の、自分の心のあり方や他者との付き合い方、考え方の違いとどう向き合うのかのトレーニングになりました。大学時代は、一見遠回りのように見えますが、実際は、現在の仕事につながる学びになっています。

自分がやらかした大きな失敗より、小さいストレスの蓄積の方が、ダメージが大きいこともある

ヒロ: 初の海外一人暮らしは全てが順風満帆だったわけではないと思いますが、海外生活をする中で「気づき」は何かありましたか?

みゆき: そうですね。海外で生活していると些細なトラブルがたくさん生じたりしますよね。私の場合は、アパートのケーブルが頻繁に切られてしまったり、夏なのに自分でオフにできない暖房が付いていたりしたこともありました。

 その都度、修理の依頼や、苦情を入れるわけですが、対応が明らかに遅かったり、たらい回しだったり、忘れられてたりといった小さいことの蓄積が地味にストレスでした。

 実際似たようなトラブルとストレスで、予定を切り上げて帰ってしまう人たちを見てきたので、挫折のキッカケって、「自分がやらかした大きな失敗」だけではなく、意外とこういう小さいストレスの蓄積が、引き金になるんだなと思ったことがあります。

©Mindwarp Productions
©Mindwarp Productions
自分が行動しないと誰も道は引いてくれない

ヒロ: 初めての海外、言語の壁はなかったのでしょうか?

みゆき: 当時はあまり感じませんでした。15歳から英会話を習い始めて、周りに帰国子女が多かったこともあり、留学は昔からの夢でしたが、語学留学をするつもりはありませんでした。学校を調べるのも、ビザの手続きも自分で行いました。現地で専門学校に入ってから、留学エージェントの存在を知ったくらいです。

ヒロ: 「外国人」として工房で働くにあたって、働き先を見つけるのは大変ではなかったですか?

みゆき: 工房は基本的に人を募集していないので、その点は大変でした。特に私は大学卒業後にすぐに留学したので普通の職歴すらなかったので。メイクアップスクールに通っていた時に学校からもらった工房のリストを頼りに、片っ端からレジュメとポートフォリオを送りました。

ヒロ: 今までの話を聞いていてすごく行動力があると感じました。

みゆき:自分が行動しないと…けっきょく誰も道は引いてくれないですし。

ヒロ: その通りですね。みゆきさんのそういった行動力や自発的な考え方が夢を現実に導いたのだろうと改めて感心します。

(聞き手・文章構成TORJA編集部)
対談はサロンを貸切にし、撮影のため一時的にマスクを外して実施しています。

もりみゆきさん

 神奈川県出身。日本、アフリカ、カナダ、アメリカの映画・テレビ・ファッション業界で活動する特殊メイクアップアーティスト。ロサンゼルスでメイクアップスクールを卒業後、特殊メイクアップ工房Chiodo Brothers Productions Incにて、キャリアを開始。2008年カナダ移住。Schminken Studio、Mindwarp production Incでの仕事を経て、現在はトロントを拠点に多くの映画・ドラマの制作現場で活動中。

 Creditは、『Super Natural』『Jigsaw/Saw8: Legacy』、Amazon Prime『The Boys S2』、メル・ギブソン主演『Fatman』、ダイアン・レイン主演『Y the Last Man』、2022年秋Netflix配信予定の『Glnny&Georgla S2』など。