「カナダのハイウェイ401」北米最多の交通量と事故件数

「カナダのハイウェイ401」北米最多の交通量と事故件数

「トロントを走る人なら誰もが一度は通る―それがハイウェイ401」

トロント市民の多くが日常的に利用し、生活を支える大動脈となっているのがハイウェイ401(読み方:フォー・オー・ワン)だ。北米で最も混雑する高速道路として広く知られ、その存在感はカナダの交通網の象徴と言っても過言ではない。正式名称はMacdonald-Cartier Freewayだが、別名King’s Highway 401としても呼ばれ親しまれている。オンタリオ州南西部のウィンザーから東に伸び、ケベック州との州境まで全長828キロメートルにおよぶこの道路は、トロントを中心に各都市をつなぎ、物流や通勤、観光まであらゆる移動を支える基盤となっている。

401の存在は単なる交通手段にとどまらない。戦後の人口増加と産業の急成長の中で誕生したこの高速道路は、経済発展と地域の活性化の象徴でもあった。郊外住宅地の発展や物流網の拡大を可能にし、オンタリオ州を支えるインフラとして重要な役割を果たしてきた。その一方で、北米最多の交通量を誇るがゆえに渋滞や事故件数の多さといった課題も常に抱えている。1999年に発生した大規模玉突き事故「The 1999 fog disaster」に象徴されるように、州民の記憶に刻まれる悲劇も生んできた。

なぜこの道路がこれほどまでに多くの人々に利用され、そして時に問題を引き起こす存在となったのか。401はどのようにしてオンタリオ州民にとって欠かせない高速道路へと発展していったのか。そして今後も人口増加や交通需要の高まりが続く中で、どのような未来が描かれるのか。本稿では、その歴史と現状、そしてこれからの課題と可能性を探っていく。

401の交通量

北アメリカ一とも言われるこの高速道路の交通量。2019年のOntario Ministry of Transportation(オンタリオ交通省)のデータによると、最も集中して渋滞がひどかったエリアはエトビコのRenforth DriveにあるHighway 401と427のジャンクションで、1日に45万300台もの車が通ったそう。エリア別に見てみると、スカボローの1日の平均利用車数は31万4200台。ノース・ヨークは37万8500台、エトビコは38万6850台だった。平均してトロントエリアの1日の平均の交通量は35万9850台だと考えられる。

本当に北アメリカで一番利用者が多いの?

Chicago – Dan Ryan Expressway ©︎Wikimedia Commons –
Schulmin Web – Chicago – Dan Ryan Expressway

実際に他の主要都市と比べてみよう。まず、南のメキシコではモンテレーを通過するMexican Federal Highway 54が最も混雑するが、その交通量は1日に平均10万台も超えないほど。次にアメリカ中西部のシカゴには、401に似たようなデザインのDan Ryan Expresswayが存在する。2016年のデータでは、1日平均29万7940台がDan Ryanを利用していた。ニューヨーク州のLong Island Expresswayでもトロントに比べて利用者が少なく、2016年の1日平均は22万4901台だった。

Long Island Expressway©︎Wikimedia Commons – Famartin – Long Island Expressway

そしてアメリカで広々とした高速道路が街に根を張る場所といえばロサンゼルス。市の西側に位置する405 Freewayの渋滞はまるでディズニーランドのエレクトリカル・パレードのように夜景を明るくすることで有名だが、2017年の統計では毎日およそ26万9420台が405に乗ってロサンゼルス・カウン ティを通ったそう。やはり401のトロントエリアでの交通量がどこよりも多い。

Los Angeles – 405 ©︎Wikimedia Commons – Eric C Gardiner – Los Angeles – 405

ハイウェイ401はいつ建てられた?

Highway 401 ©︎Wikimedia Commons – Floydian – Highway 401

オンタリオ州では1930年代、ドイツのアウトバーン(高速道路網)やアメリカの主要都市を結ぶインターステート・ハイウェイ・システム(州間高速道路)への憧れから高速道路の建設が視野に入れられていた。計画されていたのはウィンザーからロンドン、トロント、キングストン、そしてモントリオールまでの距離。しかしすぐには実行されることはなく、本格的に建設が始まったのは1946年だった。

高速道路は経済成長のシンボル

©︎Toronto Public Library Digital Archive – Highway 401 – 1959

第二次世界大戦後、オンタリオでは人口増加と産業の急成長が見られた。郊外に住む人が増え、車での長距離移動を必要とする人口が増えた。その頃の州政府は高速道路をインフラだけでなく経済成長と地域の活性化のシンボルとして考えていたため、401建設のビジョンは素早く本格化された。高速道路の建設となると自治体と州政府、連邦政府の間の話し合いに限らず、エンジニアや都市計画家なども参加が重要となった。政治、経済、まちづくり、さまざまな視点が交差する高速道路づくりは決して簡単なものではなかった。

スタート地点はトロント・バイパス

ハイウェイ401で初めて完成された部分はトロント・バイパスだった。1952年に開通された4車線のバイパスはトロント市内での混雑を回避する役割が一番で、まだ街と街をつなげることは考えられていなかった。戦後間もない時期だったため建築資材が足りないまま1950年には朝鮮戦争が勃発。完成まで工事は何度も延期された。

つきまとう戦争の影

世界各国での戦争により資材不足は深刻化したが、オンタリオ州政府はそれを理由に経済発展を遅らせてはいけないと高速道路の建設に邁進した。1960年代にはアメリカ・デトロイト州との国境のそばに位置するウィンザーからロンドンまでの高速道路が整備され、自動車産業やアメリカとの貿易の発展に大きく貢献した。そして1968年、401はケベック州との州境まで延長された。東への延長は冷戦時代であった当時に高速道路を軍隊や軍需品を運ぶための手段として重宝された。

401ができたことで繁栄した街たち

©︎Wikimedia Commons – Pascal HD – Highway 401 – NorthYork

州政府が描いた401デザイン的は動きに無駄のない、シンプルさを重視したものだった。車からの景色もスッキリするように大きな広告掲示板は立ててはいけない、そして高速道路の400m以内には建物を建ててはいけないルールが施行された。
だが高速道路の外では、交通の便が楽になった事を機にミシサガやミルトン、エイジャックス、ピカリングなどのベッドタウンが繁栄した。自治体は高速道路の近くに商業施設や住宅地を増やすことに力を入れた。物流会社や倉庫会社も利便性を求めてインターチェンジ近くに引っ越してきた。
ベッドタウンに住む人や会社を持つ人が増えることで高速道路にさらなる価値が生み出されたが、渋滞が増えてしまったことが今でも大きな問題だ。

避けられない、高速道路での事故

交通量が多ければ事故の数が増えるのも自然なこと。オンタリオ州政府はハイウェイごとの年間事故数は公表していない。だが2024年に州のハイウェイで起きた交通事故で亡くなった人の数は411人だったことが分かっている。
現在問題になっているのは酒気帯び運転や大麻を吸った後の運転、「ながら運転」、そしてシートベルトの不着用だ。コロナ禍以降、運転中にオンラインミーティングに参加している人や「YouTube」の動画を見ている人たちの不注意が急増。20年前なら考えられなかった「ながら運転」が州で蔓延している。

オンタリオ州民の記憶に残る「The 1999 fog disaster」

ハイウェイ401では日々数々の交通事故が発生しているが、その中でも州民の記憶に鮮明に残っているのが「The 1999 fog disaster」と呼ばれる事故だ。発生したのは1999年9月3日、87台もの車が玉突き事故に巻き込まれた。8人が死亡し、45人が怪我を負った。この事故の規模は州だけでなく国全体の歴史でも最も大きい。

事故が起きたのはウィンザー空港から10km東にあるManning Roadの近く。その日は早朝から霧が濃く1メートル先も見えないほどだった。しかしウィンザー空港にある気象台に異常があったため濃霧注意報が出ず、大惨事に至った。

この事故がきっかけで新しく装備された道路には減速帯が用いられ、レーンの数も6つに増やされた。

ハイウェイ401のこれから

1950年代に本当に存在した少し変わった事故防止策は、401の車線沿いに花や木を植えて美化することだった。それに伴い、高速道路建設中に切られてしまった32万6465本の木すべてを植え直した。それでもあいにく大惨事は続き、1999年の大事故以来は気象情報をより正確に伝えるテクノロジーやスピード規制が導入された。最近では2023年に「401 Expansion Project」が完成、トロントエリア西部のミシサガからミルトンまでの距離で車線が増やされた。トロントエリアでは人口増加が止まらず、渋滞の問題はなくなる気配は見当たらない。そんなオンタリオ州ではどのような解決策が考えられているのか見ていこう。

渋滞の解決策は「トンネル」?

オンタリオ州首相のダグ・フォード氏は昨年9月、401に関して画期的なアイデアを提案した。それは混雑を緩和するためにミシサガからスカボローまでトンネルを掘るというものだった。彼の提案するようにHighway 410のあたり(例えばSquare One Shopping Centre)からスカボローの東側にあるトロント動物園まで401を走るとその距離は54kmほど。そんなに長い距離のトンネルを掘ることは可能なのだろうか?

反対意見は多い

このような膨大な計画を実現させるのにまず大事なのはお金だ。これほど長いトンネルを掘ろうとなると何十億、何百億ドルもの資金がかかるであろう。9月中旬に辞任を表明したオンタリオ州自由党党首のボニー・クロンビー氏は、「この計画は州を倒産させるであろう」と批判している。トロント市長のオリビア・チャウ氏も「トロントにとっては優先すべき問題ではないが、インフラを増やすならば公共交通機関に力を入れてほしい」とコメントしている。現在世界で最も長いトンネルはノルウェイに存在するが、長さは24.5kmで車線は二つしかない。その2倍にも及ぶはずのこのトンネルでは効率性も安全性も重要になってくるに違いない。

安全性が問われるトンネル

フォード氏がトンネル計画を自分のアイデアとして提案する何年も前から、州はトンネル工事の可能性を追求してきた。2021年に州政府は事前調査を行ったが、その結果はあいにく世に発表されなかった。Global Newsが手に入れた資料によると、高速道路の地下にトンネルを掘ると上の道路が崩壊する可能性が高くなると記されていた。

フォード氏は政治的権力を得るためには郊外の街づくりやインフラに力を入れなくてはならないと考えているようで、カーニー首相も説得させる自信を見せつけている。

専門家はトンネルより渋滞料金を勧める

トロント大学の元教授で現在ブラウン大学経済学部の教授であるマシュー・ターナー氏をはじめ多くの都市計画研究者たちは、トンネルよりも渋滞料金(混雑税)を導入することが有効的だと考えている。
彼らは車線数を増やすことが解決策ではなく、混雑するときの対処策の方が大事だと指摘。車線が増えると利用者が増える。利用者が増えれば混雑は増える。ロサンゼルスでもすでに60年以上同じシナリオが繰り返されているため、同じ過ちを繰り返さないことが理想的だ。

ニューヨークに学ぶ「混雑税」

\ $9 /

アメリカ・ニューヨークではすでに混雑税が導入されており、渋滞の緩和に大きく役立っている様子だ。今年の初めに始まった料金制度ではラッシュアワー中、セントラルパークより南へ向かう車にアメリカドルで9ドルの追加料金が課されるようになった。これにより最初の週だけでも7.5%渋滞が減り、ダウンタウンへ向かう車の数が1日平均4万3000台も減ったのだ。さらに市内の空気の質も改善しているようで、良い結果続きだ。

追加料金に否定的な州政府

トロント市内ではGardiner ExpresswayとDon Valley Parkwayを有料にする計画が2017年、当時の市長ジョン・トーリー氏により提案されていた。しかし前州首相のキャスリーン・ウィン氏はそのアイデアを却下。州は既存するハイウェイの通行料金を廃止することに力を入れていた。州首相がフォード氏に変わった今でも新しく追加料金を導入するのは難しいと見られている。

新しく何かを建てることの落とし穴

渋滞はプライベートでも仕事でも生産力を低下させる大きな敵である。トロントエリアの事業だけでも毎年渋滞のせいで110億ドルもの損失が出ているそうだ。
もし渋滞を緩和させる解決策がもっと車線を足すことだとすると、その工事で封鎖させられる道路やコストもじっくり考える必要がある。すでに損失が出ている事態の上に、さらに膨大な費用をかけることは街全体にどのように影響するのだろうか?
例えば、アメリカ・ボストンでは1983年に始まったI-93フリーウェイの修復工事が6年で終わるはずが、15年もかかってしまった例がある。費やしたお金も28億ドルで収まるはずが完成時には140億万ドルにも膨れ上がっていた。

フォード州首相の提案は環境に配慮せず

フォード州首相の近年の発言や行動は彼の環境保護への関心のなさを物語っている。オンタリオ州にはグリーンベルト自然保護地区が存在し、2004年以来法律で保護されている。しかし2023年、フォード氏はグリーンベルトを開放し住宅開発に土地を使うと宣言。のちに宣言前から土地がデベロッパーに売られていたことが判明し、大きなスキャンダルとなった。その後計画は撤回されたが、有権者たちのフォード氏への信頼は損なわれた。州の道路にバイクレーンを作ることに対しても彼は大きく反対。自動車優先の車線が減ってしまうなら、バイクレーンをなくしてもいいと発言している。まるで今までの持続可能性に配慮した政策を全く無視するかのような姿勢だ。

高速道路がもたらす悪循環

ウォータールー大学の都市環境学に詳しいマーカス・ムース教授は新しい高速道路はドライバーを増やすばかりだと懸念している。空気汚染や環境破壊は進み、住民の徒歩や自転車への興味が薄れ、健康への意識も疎かになってしまうと発言している。
高速道路が建てられると自然とその形に沿った住宅コミュニティーができるが、郊外からの移動には車が不可欠。郊外だと住宅費や生活費が抑えられると思われがちだが、高騰するガソリン代を払わなければいけない。メンテナンス費や駐車場料金などもあると、車に依存した暮らしが豊かだとは決して断言できない。
車が人々の生活の中心になり始めたのは1950年代から70年代の間だが、それから50年以上も経っている今、州政府は人の意識やニーズの変化に合わせて車とのあり方も考え直す必要がありそうだ。

車に頼らない社会は自治体の財政を潤す

車に頼らないライフスタイルは環境や健康に良いだけでなく、自治体の財政も助けることができる。
既存する都市部での住宅開発と全く未開拓の土地での住宅開発を比べると、既存するエリアでの開発の方が財政にやさしいことが分かっている。特に水道や電気、道路などの設備は新しく設置する方が難しい。新しい設備の支払いはより高い固定資産税に繋がり、住民の負担となる。
自治体は橋などインフラの整備や消防団、警察などの組織の管理、美術館やコミュニティーセンターなど文化的な活動を行う施設の管理など様々な役割がある。もし全く未開拓の地にこれらの施設を立ち上げようと思えば、自治体に大きな負担がかかってしまうことは間違いない。車に頼らないライフスタイルを応援することは、自治体の持続性も応援することなのだ。

数字で見るハイウェイ401

18車線

ハイウェイ401は世界中の高速道路に比べても車線数が最も多い。もともと2車線しかないシンプルなものだったが、交通量が増えるたびに車線が増やされ、トロント・ピアソン国際空港近くでは18車線にも及ぶ。

11,000件

2023年、オンタリオで死亡者が出た交通事故件数は404件だったが、同じ年にアルコールまたはドラッグの影響による危険運転は1万1000件ほどだった。2023年は危険運転や「ながら運転」が平年に比べて多く目立った年であった。

23%、17%、15%

Ontario Road Safety Annual Reportの調査によると、401での事故の原因の23%はスピード違反、17%は酒気帯び運転、15%は「ながら運転」だという。

49,708人

2023年の間に事故に巻き込まれた車両の数は4万9708台。事故に巻き込まれたドライバーの数は4万9106人だった。

9,295件

東京の首都高速道路では2024年、9,295件の事故が発生。最も多いのは追突事故だった。ハイウェイ401の距離は828kmで首都高速(337km)の約2.5倍。事故数は5.3倍にも上る計算になる。

150年

ハイウェイ401の正式名、Macdonald-Cartier Freewayが決まったのは1965年の1月。トロント・バイパス開通から13年後のことだった。カナダ初代首相ジョン・A・マクドナルドの生誕150年記念の年を迎えた1965年に改名された。「Cartier」はカナダの建国の父として知られるジョルジュ=エティエンヌ・カルティエに敬意を表している。

おわりに

ハイウェイ401は、単なる道路ではなく、州民の暮らしをつなぐライフラインだ。家と職場を結ぶだけでなく、教育や医療、娯楽へと導く道でもあり、その意味や重要さは人それぞれ異なる。しかし共通して言えるのは、401がオンタリオの経済と市民生活を支える土台であるということだ。

北米最多の交通量を誇る401は、一日の利用車両数が40万台を超える区間もあり、その活発さは経済の力強さを象徴する一方で、慢性的な渋滞や事故の増加を引き起こしている。とりわけトロント周辺では、時間帯によっては「ストップ&ゴー」が日常化し、通勤や物流に大きな影響を与えている。また車両排出による環境負荷も深刻で、CO2の増加や大気汚染、騒音といった問題は都市の生活環境に直結している。交通網としての役割を担う一方で、環境保護や持続可能性の観点からも見直しが急務となっているのが現状だ。

だからこそ、この道は一人の政治家の権力の象徴として存在するのではなく、人々の暮らしに寄り添い続けるものでなければならない。利用者のニーズや安全を最優先に考えることはもちろん、環境保護や経済的持続可能性といった社会全体の課題に応える姿が求められている。

高速道路は、人々を目的地に運ぶだけではない。日常の出会いや体験を生み出し、社会や経済の循環そのものを支える存在だ。401がこれからも「ただの道」を超えて、暮らしに寄り添い、世代を超えて受け継がれる道であり続けることを願わずにはいられない。