2024年に注目したいカナダニュース|2024年新年号特集

2024年に注目したいカナダニュース|2024年新年号特集

2023年はトロントの市長選挙や州政府の大規模な計画の発表など、12月に入ってからも次々と大きなニュースが飛び込んできた。そんな去年の話題を振り返りながら今年の気になるポイントを紹介していきたい。

注目ニュース 1
人気留学先のカナダ、これからどう変わる?

2023年、カナダでは海外から学びに来る留学生の数が過去最多を記録した。2022年度には40万人だったその数は数年で50万人に上ると予測されている。移民増加政策に力を入れているカナダなら喜ばれるニュースのはずなのだが、今留学生が増えたことによって国の受け入れ方が変わろうとしている。

12月7日、連邦政府は海外からの学生がビザを申請するにあたって必要な生活費を従来の1万ドルから2万635ドルに引き上げることを発表。そして学生の就労時間の上限は週20時間までとなり、2022年10月になくなった上限が2024年5月に復活することとなる。

そもそも上限が無くなった理由は働き手が足りなかったことだが、2023年8月には学生増加による住居不足がすでに懸念されていた。学生寮やキャンパス周辺のアパートに空きがない上、家賃の高騰にも歯止めがかかっていない。7月にホームレスの留学生がいることもニュースで話題になった。留学生がフードバンクを利用する姿が目立ち、ブランプトンでは11月に「留学生お断り」のルールが定められたことがニュースになったばかり。連邦政府の対応は留学生たちの生活を打撃するであろう。

記者コメント
人手不足がまだ続く中で就労時間に上限ができてしまうと、勤め先が学生を不正な方法で働かせる可能性も出てきます。家賃や食費、交通費などが値上げされる中、最低限の生活費をバイトで稼いでいる留学生たちにとっては厳しい現状だと思います。

注目ニュース 2
トロント新市長就任!気になる州政府との「取引」の内容

昨年2月、トロントに衝撃を与えたのは前市長ジョン・トーリー氏の不倫発覚と電撃辞任だった。102人もの立候補者が参戦した6月の選挙で選ばれたのがオリビア・チョウ氏。香港生まれで12歳の時にトロントに移住した彼女は女性市長としては歴代3人目。そしてマイノリティ人種では初めてだ。

11月27日、新市長とダグ・フォード州首相が合意した取引によりトロント市の管理下だったGardiner ExpresswayとDon Valley Parkwayがオンタリオ州政府の責任になることが決定。これによりトロントは76億ドルの負担から逃れることになった。そのほかにも州政府が公共交通機関や難民への支援にかかる費用を肩代わりすることが決まった。公共交通機関に関しては3億ドルの資金と55台もの新しい地下鉄用の電車が約束されている。しかし、これらのかわりに市はOntario Placeの再開発計画から手を引き、州政府に任せることが条件だった。

幸いなことに、この合意でチョウ氏が譲ったのはOntario Place計画への権限のみ。トロント市は何もなくす事なく経済負担から逃れられるほか巨額の資金調達もできるため「取引」といえるほどでもない。一つチョウ氏が失うと思われるのはOntario Place再開発への反対姿勢を期待していた市民たちの信頼かも知れない。しかしフォード州首相とデベロッパーのスキャンダルが大きくなるばかりのいま、Ontario Placeから手を引くことが安全だと彼女は思ったのかも知れない。州首相に欲しいものを与え、その代わりにトロントが役立つよう資金が入ればウィンウィンだったと考えても悪くない。

記者コメント
チョウ市長による「アフォーダブル・ハウジング(低所得世帯用の住宅)」を増やす計画では住宅ビルが52ヶ所建てられ、造られる1万6000から1万7500戸のアパートは「Rent Controlled(家賃が急に高くならないよう設定されていること)」になる予定。市の経済的負担が減った今、この計画の実現に期待したいところです。

注目ニュース 3
Yonge-Dundas Squareの新しい名前は「Sankofa Square」

12月中旬、トロント市議会はイギリス人政治家ヘンリー・ダンダスの名前が使われているYonge-Dundas Squareそして2つの駅と図書館の名前を改名することに合意。2020年のBlack Lives Matter運動によって奴隷制度廃止を遅らせた彼の「功績」が問題視されるようになり、改名を要望する署名活動が行われた。発表されたYonge-Dundas Squareの新しい名前はSankofa Square。「Sankofa」はガーナの言葉で「失われた過去を振り返り、取り戻す」という意味がある。Dundas駅の新しい名前はすぐそばにあるToronto Metropolitan Universityが考えるそうだ。大学も最近「ライアソン大学」から改名したばかり。理由は創立者が先住民の同化政策として寄宿舎学校をカナダ中に広めたため。

今回の発表を受けて住民たちは「先住民の言葉を名前に使うのだと思っていた」や「絶対Sankofa Squareなんて読む日は来ない」などコメントし、改名にやや消極的だ。1万4千人もの人が望んでいたはずの改名は、1270万ドルの費用がかかるにもかかわらず残念ながらあまり暖かく受け入れられていない。Dundas Stもいずれ改名されるが、その計画は今保留になっている。トロントの昔を知る人たちがRogers CentreをSkydome、Scotiabank ArenaをAir Canada Centreと呼ぶようにこれからは元の名前と新しい名前、両方が定着することを期待してもいいかもしれない。

記者コメント
やっと赤字から救われようとしているのに改名にこのような大きな費用がかかるのは少し心配に思います。確かにダンダスという名前のルーツには傷ついた人たちがたくさんいますが、改名することでその暗い過去を忘れてしまうことの方が問題的なのでは?歴史を塗り替えるのではなく、二度と過ちを繰り返さないように常に見つめ直せる機会を作ることが大切かと感じます。

注目ニュース 4
何もかも値上げ・・・2024年の経済はどうなる?

2023年は何かしら一年中「値上げ」というフレーズが目立った年だったのではないだろうか。3月にトロントの至る所で見られる自転車「Bike Share Toronto」の値上げが開始し、4月にはTTCも運賃を引き上げた。同じく4月には食料品の値段高騰の影響でフードバンクの利用者が一気に増えたことが話題になった。フルタイムで働いている人でさえも利用者が16%から33%に増え、この数字はトロントエリアで生活費を稼ぐことの難しさを物語っている。トロントは世界で12番目に裕福な都市に選ばれたが、物価が高くなると同時に窃盗事件などが増え、決して「裕福」とは言えないような状況が続いている。

2024年度も食料品の高騰は続く見込みで、2.5%から4.5%の値上げが予測されている。農業のデータを分析する専門家は肉類と野菜の値上げを問題視している。「牛肉の供給はアメリカとカナダの干ばつにより左右され、鶏肉は鳥インフルエンザによって影響される事になる。そして豚肉は価値が下がったため飼育する農場の数が減ってしまった。全体的に肉類の供給は減っており、値上げは続くだろう」と助言している。

「RBC」の12月の調査によると、GDPのデータでは現在カナダは緩やかな景気後退に入っていることがわかった。2024年度も続く見込みだが、悪化は予想されていない。国民の出費は減っているが、移民であれ留学生であれ、新しくカナダに移住した人たちがお金を使っているため損失を補えている。実は失業者の数も増えているのだが、人口が増えるとともに雇用も求職者も増え労働生産率は影響されていない様子。だが、ものの値上げが続くなか賃金が上がらないためこれからも国民の消費が減る傾向が見られそうだ。

記者コメント
去年、チェーンストアで次々に導入されたセルフチェックアウトレジを利用した人は多いのではないでしょうか。これを悪用し日用品や食料を盗む人が急増しましたが、コストを抑えねばならないのは消費者だけでなく店側も人件費削減のために我慢している様子です。店員が減るとカスタマーサービスも減り、障がい者など助けの必要な人が困ることが心配されます。。

注目ニュース 5
ピール地域の自治体解消を取りやめになる可能性が浮上

昨年5月中旬、オンタリオ州政府はピール地域をなくし、エリアを構成しているブランプトン、ミシサガ、並びにカレドンをそれぞれ独立した自治体にすることを発表した。

しかし12月上旬、フォード州首相がこの計画を取りやめる可能性があると報道された。ピール地域の解散が決まってからの半年間で300人もの公務員が将来の不安を理由に辞めている。

ピール地域が自治体として認められたのは1974年だが、ミシサガはすでに80年代から独立を希望していた。自治体解消を認める「Hazel McCallion Act」という法律には、36年間ミシサガ市長を勤めたマカリオン氏の名が刻まれている。彼女も現職のボニー・クロンビー氏も独立に長年大賛成している。しかしブランプトン市長のパトリック・ブラウン氏は自治体を解消した場合10年間は増税をせざるを得ないため市民に負担が増えることを懸念している。ミシサガがピール地域で始めた建設工事などがあり、その金銭的負担をどう分担するかを決めていないことが彼の不満の原因だと報道されている。自治体解消は法律で認められたため、本格的に取りやめになるとすればそれを廃止するための法案を可決しなければならない。

記者コメント
グリーンベルト、Ontario Placeに続き今度はピール地域の自治体解消まで騒ぎが絶えないフォード州首相。解散は2025年予定だったのでまだ解決することが山積みだったはずのこの計画。半年間で辞めてしまった公務員の人たちが可哀想ですが、他の職場を見つけて振り回されずに済んで正解だったかもしれないですね。

注目ニュース 6
問題だらけのOntario Place再開発プロジェクト

今トロントエリアで一番注目されているニュースがOntario Placeの再開発だ。2023年4月18日、フォード州首相はノース・ヨーク地域にあるOntario Science Centreを湖沿いにあるOntario Placeへ移転すると発表。さらにOntario Placeには「Therme Canada」という民間事業を招き、温泉とウォーターパークなどの屋内施設として再開発する意向を表明した。日系カナダ人の著名家建築家レイモンド・モリヤマ氏がデザインした有名な科学センターのある土地は住宅開発に使われることが発表されていた。しかし今になってはその土地が科学センターのためだけにリースされる99年間の契約だという報道も出ており、住宅開発に使えない可能性も出てきた。

Ontario Science CenterとOntario Placeは州の建築そして文化遺産として認められている。現在、Ontario Place再開発で心配されているのは850本もの木が伐採されてしまうことと、生息する野鳥や動物が居場所を失うこと。現在の法律では民間事業が州の保有する土地でビジネスを始める場合、環境保護や建築遺産保存などのルールや査定を守らなくてもよいそうだ。その上、チョウ市長がOntario Place再開発計画から手を引くとなれば以前までトロント市が管理していた騒音公害の解決もゾーニング(土地利用規制)も州のやりたい放題になることが懸念されている。

記者コメント
6.5億ドルが使われるこの再開発プロジェクト。公金は使われないと説明しているフォード氏ですが、市民には怪しまれています。新しく建てられる屋内温泉及びウォーターパークの面積地を予定より小さくし緑を増やすと報道が出ましたが、「本当にこの事業が必要なのか?」「もっと大事なお金の使い道があるのでは」など市民の不満は爆発しています。

注目ニュース 7
オンタリオ野党の新リーダーにミシサガ市長ボニー・クロンビー氏

12月上旬、「Ontario Liberal Party」の新リーダーに2014年からミシサガ市長を勤めているボニー・クロンビー氏が当選した。これにより彼女は1月12日に市長を辞職することが決定。野党リーダーとして2026年の州議会選挙で与党と戦う。

クロンビー氏の目標には医療従事者らの休みを増やすことや従事者不足を解消することが掲げられている。州の土地に造られる住宅ビルに関しては20%を低所得世帯用の住宅にすることを約束している。

そして2年後にフォード州首相と対抗するに当たって最も注目されるポイントはグリーンベルト森林保護地区の将来だ。彼女は自然を守ることに力を入れ、保護地区を広めることを宣言している。

フォード州首相とグリーンベルトといえば2023年の秋はスキャンダルが絶えなかった。グリーンベルト森林保護地区を開放し住宅建設に使うことを計画していた彼だが、デベロッパーらと州政府の間のインサイダー取引や複数の政治家の辞任などが重なってプランを全て撤回した。その一連の出来事の後、連邦警察が正式に詐欺や不正行為の容疑で捜査を開始した。

もし開放計画が成功していたら、30平方キロメートルもの森林が壊されたのち150万戸もの住宅が建てられ、デベロッパーたちに83億ドルが渡るところだった。

このスキャンダルにより森林保護地区と名付けられているグリーンベルトの未来を守ることは今までより重視されることになるだろう。

記者コメント
これほどフォード州首相と彼の計画に対してネガティブな報道が出ていると、2026年の選挙がとても遠く感じてしまう人も多いのでは?連邦警察の捜査の結果、そして州民の反応も2024年に注目したいところです。

注目ニュース 8
いつになったら利用できる?開通間近のEglinton Crosstown LRT
(Line 5)

今トロント住民が待ち遠しく思っているのはEglinton Crosstown LRT(Line 5)の開通。工事開始から12年、2021年にはオープンしているはずだった。しかし今になっても改善すべき点が多いため利用できる日は遅れるばかりだ。

12月8日の「Global News」の報道では、この路線の建設プロジェクトを仕切っている「Metrolinx」のフィル・ヴァースター社長でさえも開通の日程はわからないという。唯一わかっているのは、彼がオープン予定日を発表するのは開通3ヶ月前だと発言している。

現在線路を試すための試験運転を始めているが、その第3段階は気温が暖かくならないとできないそう。その上何ヶ月もかかるので残念ながらオープンはまだまだ先と考えても良さそうだ。

開通されればLine 1への乗り換えも便利になるほか、今は車でしか良いアクセスがないOntario Science CentreやAga Khan Museumも行きやすくなる。

「Metrolinx」はLine 5の他にもOntario LineやLine 1 地下鉄のRichmond Hillまでの延伸、Line 2のスカボローまでの延伸、Finch West LRT、The Hazel McCallion Line(Hurontario LRT)、GO Expansionなど数々の鉄道プロジェクトを牽引している。

ミシサガとブランプトンをつなぐHazel McCallion Lineが今年完成すれば現在トロント市内でしか走っていないストリートカーの風景が市外でも見られるようになる。この路線はSheridan CollegeやBramalea City Centre、University of Toronto Mississauga、Humber College周辺を全て通るので学生には便利な路線になりそうだ。

記者コメント
Line 5開通やすでに存在する路線の延伸が早く進めば新しくオープンする駅周辺の開発も早まるのではないでしょうか。住宅も増えればトロントの中心部だけに人が集中することを防ぐことや、住宅や物価の高騰を抑えることが可能になるのでは?今までアクセスの少なかったエリアが住みやすい場所になることを期待したいですね。

注目ニュース 9
大谷は来ない・・・けど期待したい2024年度のトロントスポーツ!

今年一番明るいニュースになるはずだったのが大谷翔平選手のブルージェイズ入り。結局彼はドジャーズと史上最高の総額7億ドルで契約を結んだ。

その報道が出るまでの間、「大谷はトロント行きのプライベートジェットに乗っている」、「菊池投手が五十人を呼んでトロントの寿司レストランでパーティーの予約をした」など止まぬ噂が人を終始そわそわさせた。

トロント住民にとっては残念な結果に対して大谷のエージェントは「ブルージェイズの関係者たちには本当に申し訳ない。素晴らしい人たちを本当に期待させておきながらこんなにもガッカリさせてしまったことを悪く思っている」と発言。

大谷はさておき、12月中旬の時点ではまだ6人のフリー・エージェント選手の行方が決まっていないブルージェイズ。これからどの選手が続投し、どんな新しい選手が入ってくるのか注目の点だ。

野球以外ではNHLのメープルリーフスがアトランティック・ディビジョンで現在2位と好調だ。NBAのトロント・ラプターズは5位。もし野球にもメジャーなスポーツは飽きたという方にはカナダフットボールリーグのプロチーム、トロント・アルゴノーツやプロラグビークラブのトロント・ウルフパック、サッカーチームのトロントF.C.、ラクロスチームのトロント・ロックなどまだまだ注目度が少ないチームもたくさんあるので今年観戦してみてはいかが?

記者コメント
筆者も大谷の一連の報道で一日中そわそわしていました。ブルージェイズはチャリティーイベントに力を入れているチームなのでぜひ大谷選手にも関わって欲しかったです。ジェイズは今年もスタジアムを改装していて、どのように変わっていくのかが楽しみです。選手においては、去年残念ながら調子が悪かったマノア選手が帰ってくるのかも気になるところですね。早くオープン戦が始まって欲しいです!