時代のキーワードはサステナビリティ「Zero Waste」をコンセプトにしたシェフの取り組み|特集「カナダ食学」

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Douglas McMaster, founder of zero-waste restaurant Silo
Douglas McMaster, founder of zero-waste restaurant Silo

 経済発展や社会構造の変化、世界人口の増大などにより、気候変動・地球温暖化の問題が深刻になっている。そして今後、食料や資源が不足する事態になる可能性が高いとされる。近年は持続可能な社会を目指す取り組みが世界的に広がっていることを受け、Zero Wasteをコンセプトとしたレストラン「Silo」を運営するダグラス・マクマスター氏の講演会をレポート。

「Zero Waste」をテーマとするレストランのシェフ

 マクマスター氏は21歳のとき、「Great Britain’s Best Young Chef」と称えられた経歴を持つ。2010年にZero Wasteをテーマとしたカフェをオーストラリア・シドニーに、そして2年後には「Zero Waste」のコンセプト・レストランをメルボルンにオープンした。

 「The Zero Waste Blue Print-A Food System for the Future」の著者でもある彼は、2014年に故郷イギリスに戻り、そこでレストラン「Silo」をオープン。独特な視点を持つシェフ、そして廃棄物削減のために本来廃棄されていた製品や原材料を新たな資源と捉えて循環させるシステムを作るなど、先駆者として評価されている。

 彼の取り組みは、サブステナブルのさらに先を行っている取り組みと言われており、注目も高い。彼はほかのシェフや他店でも「Zero Waste」の方針を取り入れられるように、「Zero Waste Restaurant School」の経営も行っている。

きっかけは、「Do you think we could not have a bin?」

 マクマスター氏は学生の時はあまり真面目ではなく、高校を中退しているそうだが、厨房に立っている時に、創造力が湧いてくることに気づき、シェフとなる。

 彼の取り組みはオーストラリア・メルボルンから始まっている。ある日友人に「Do you think we could not have a bin?」と聞かれた彼は、そこから「Zero Waste」について関心を持ち始めた。同時に、それは今後人生をかけて取り組んでいく課題であることを悟ったという。

 彼にとって、「Zero Waste」がどういうことであるか、そしてその問題の根幹がどこにあるのか、どうしてこの問題が存在するのかを理解するのに数年を要したと語る。

 そこで、どうして廃棄物が存在するかを考えることが、この問題を解決する糸口になると考えた。この問題を解決するには、今やっていることだけが解決への道に繋がっているわけではない、ということを念頭に置きながら常に違った目線から物事を考えていくことが大切だと言う。

廃棄物から作られていても、魅力的である必要がある

 地球上にある炭素のうち、58%は食べ物もしくは食べ物を作る過程によって発生している。およそ6割ということだから、自動車や電化製品から出る炭素の割合よりもはるかに多くを占めていることが分かる。彼は、まずはこの食料供給の一連の流れを変えていかなければいけないと考えた。

 その流れを変えるにあたって、まず食材の全てを自然から取ってくることにした。例えば、ショートブレッドを作る時には、小麦粉は粉からひき、バターもクリームの状態から作る。彼がこの方法で作ったショートブレッドは、今まで食べたどのショートブレッドよりもおいしく、そして廃棄物はゼロだった。マクマスター氏の「Zero Waste」という指針には、ただ廃棄物をゼロにするというだけではなく、より良いものを作っていくという目的も込められている。

 レストラン「Silo」にある机や椅子、皿など全ての物は廃棄物から作られている。しかし、見た目や質が悪ければ、その価値は下がってしまう。彼が志す「Zero Waste」のコンセプトには、廃棄物から作られていても、新しく作られたものは常に魅力的である必要があるということだそう。

麹のチカラが廃棄物を変える大きなカギ

 マクマスター氏は、麹が廃棄物を変える大きなカギと考えている。魚の内臓など、料理に使えない部分も麹を入れて発酵させることで、廃棄物だった部分でも宝へと生まれ変わる可能性を秘めているのだと語る。

 また、残り物のパンが出た時には、それを水に浸してそこから別のものを作る。アイスクリーム・サンドイッチは余ったパンやバターから作られているそうだ。廃棄物削減のために本来廃棄されていた製品や原材料を新たな資源と捉えて、循環させるシステムを確立させるために、彼はありとあらゆる方法を試みている。

マクマスター氏のレストランでの廃棄物はわずか15%

 一般的なレストランでは、40%の廃棄物が発生するところも多いとされている。しかし、彼のレストランでの廃棄物はわずか15%。そして、その15%もコンポストにいくため、ゴミにはならずに土壌へ還元される。

 マクマスター氏は農家と直接契約をするなど、間に仲介業者を入れないことで、さらに無駄を省いている。食べ物も極力無駄をなくし、それでも料理の最後に出てしまう廃棄物はコンポストにいれる。そしてそれを農家に返す、というサイクルを作り上げた。そしてその農家も、ただ利益を求めて作物を作り続ける農家ではなく、より良い土壌へと改良する取り組みを行っている農家と取り組むようにしている。

外来種のポケモンカードを作る

 雑草だと思っている植物の中には、本来そこにはあるべきではない外来種の食べ物がある。そして、その外来種の存在が、本来あるべき自然のサイクルを壊す一因となっている。マクマスター氏はポケモンカードのように、どんな外来種が、どこで、どの時期に取れるものかをまとめた。どんな外来種があるのかを知ること、そしてそれを積極的に食べることで、本来あるべき姿の自然を取り戻すことができると彼は語る。

人間が地球上の廃棄物を作る原因

 彼は、私たち人間が地球上の廃棄物を作る原因になっており、非持続可能なものであると語る。ネガティブな言い方ではあるが、問題を見つけ、解決していくためにまずは気づくことが大切と言う。銀行にお金を預けると利子が返ってくるように、私たちが「自然」にとって良い物を贈る(返す)ことで自然からもまた返ってくる。

 マクマスター氏のレストランでは、物が使えなくなった時にはその物を捨てるのではなく、そこからさらにより良い物を作ることが繰り返されている。廃棄物とされているものでもそれを使い、必要なものを作り、生活もそして自然もより良いものにしていくというのが彼のやり方だ。

 彼は今も、廃棄物を新しく、より良い何かに変えているが、そんな中でもより少ない労力でそれを行っていくにはどうすれば良いかを試行錯誤している。

少ない労力で理念を実現していくためにはどうすれば良いか

 レストランでは、ガラスの廃棄物も出る。ガラスをコンポストに入れると1万年かかるため、入れられない。そこで、彼は「Silo」の上に工場を作り、そこでガラスの廃棄物をワインボトルへと生まれ変わらせることにした。

 レストランでは人件費がかなりかかってはいるが、食材費を抑えているということ、そして仲介業者を使っていないというところで、通常かかる不必要な経費を抑えることができており、結果として経営としては上手く回っているそうだ。

 「Zero Waste」に向けて、今までのサイクルを変えることは大変で、大きな変化であればあるほど簡単なものではない。マクマスター氏の取り組みは、日々失敗との格闘だ。やっていることのうち、成功はわずか2%であるため、そのたびに廃棄物もでる。その時には、その廃棄物は全てとっておき、「Zero Waste」への道はまだまだ道半ば、という戒めにしているとのことだ。