SNS『Clubhouse』の盛り上がりと、つながりの再構築|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第32回

SNS『Clubhouse』の盛り上がりと、つながりの再構築|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第32回

Clubhouse

 先月、完全招待制の新手の音声SNS「Clubhouse」が日本で大ブームとなりました。端的に言うと、リアルタイムで数人で会話が出来て、それをリスナーとして聞くだけも良し、スピーカーとして会話に参加するも良し、といったサービスです。

 実際に使ってみたところ、これがなかなかの味わったことのない新体験でした。日本のラーメン屋さんと熱いラーメン談議を繰り広げたり、カナダとアメリカ、メキシコで海外のラーメン事情を語り合ったり、憧れの名店のオーナーさんとお話しが出来たりと、新たなテクノロジーの恩恵を大いに楽しんでおります。

人と簡単に繋がれる便利で軽いつながりを築けられる

 爆発的に流行した背景としては、コロナ禍で激減した雑談の代わりを担っているとか、その場限りのリアルタイムでの会話が、聞き逃したくないという気持ちを助長して中毒性を帯びているなど、いくつかの要因があるようです。

 そして大事なポイントとして、このコロナ禍で、人と簡単に繋がれる、便利で軽いつながりを築けられるという特性は、確かに時代に沿ったSNSと言えるのでしょう。

 しかし同時に、人間関係とは本質的に、深くなればなるほど面倒で濃厚なものです。便利で簡単であることは、一見して良いことのように思いますが、面倒で濃厚だからこそ強固になるものもあるのではないかと思います。近頃よく耳にする、体験価値というワードも、裏を返せば、わざわざやらなくても良い面倒な事を、あえてやることに意味や楽しみを見出すことと言えるかもしれません。

 コロナは多くの人に、改めて人生の目的や、物事の優先順位、大切な人と過ごす時間の何物にも代えがたい価値を考え直すきっかけを与えましたが、便利で簡単で、エッセンシャルなモノしかない世界とは、本当につまならない世界でしょう。

翻って、今後、飲食店は顧客とのつながりをどのように再構築していくかという課題があります。

 店内営業が出来なくなって以降、飲食店は一気にデリバリーやそれに準ずるサービスに舵を切らざるを得なかったわけですが、それらのサービスは、来店してもらって食事を提供するのに比べて、極端にお客さんとの接点が減ってしまいます。例えば、料理に対して何らかのクレームがあった際など、店内であれば作り直したりディスカウントしたりなど、その後の対応で挽回できることも、デリバリーであれば料理の一発勝負となってしまいます。

 また、対面で笑顔で交わすあいさつや、お客さんの細やかな感情の機微を推し量ってこそ、接客業の接客業たるゆえんな訳で、何度も足をはこんでくださる常連のお客さんとは、そういった関係性を構築してきたはずです。それが一転して、お客さんとの接点のほとんどがオンラインやデリバリープラットフォームを介したやり取りになってしまい、料理とサービスの両輪でまわっていた飲食店が、料理の片輪走行を余儀なくされています。

 これはコロナが収束すれば自動的に解決されるという話ではなく、コロナがもたらした行動変容や意識の変化が、コロナ収束以降も持続していくことを考えれば、顧客とのつながりの再構築は外食産業が考えなければならない喫緊の課題でしょう。それを考える上での一つのヒントになり得るのが、面倒で濃厚な、お客さんと共に作り上げていく体験価値なのかもしれません。