ポストコロナに向けたビジネスの取り組み|カナダ・ニューノーマルの時代

 経済再開が少しずつ緩和されてきているとはいえ、さまざまな規制がなくなることは想像しがたいのが現状だ。パンデミックによって人々の行動やライフスタイルも大きく変化している。そのような状況の中でビジネスシーンでも新たな取り組みが試されている。

01.
AIを利用して感染を感知

 トロントに拠点を置くAI企業「Predictmedix」が開発した機械が注目を浴びている。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、コロナウイルスをはじめとする病気への感染を感知する機械を開発。見た目は空港の荷物検査などで見かけるゲートのようで、小売店やレストランなど、様々な施設にて利用されることが期待されている。

また、この機械だけでなく、ショッピングセンターやイベント会場など、より大きなスペースにて人の行動を計測することが可能なシステムも開発。「フィジカル・ディスタンシング」の規則に従い、他人との間に2メートルの距離を保っているか否かなどを計測することが可能だという。

このシステムは比較的簡単に防犯カメラに搭載することができるため、多くの施設で浸透することが期待されている。

02.
人気タイ料理店の食材が手に入る「市場」

 トロントで人気のタイ料理屋「PAI」がコロナウイルスの感染拡大を受け、新たなビジネスモデルに挑戦している。

 コロナウイルスの感染拡大を受け、一時期は休業していたものの、4月末に営業を再開。現在は、食事のテイクアウトとデリバリーに加え、タイの「市場」を模した店内に変化を遂げている。コロナウイルスの感染が拡大する以前もまるで現地の「市場」のようにタイの食材やレストランで使用されている材料などを販売していたPAI。しかし、当時は店内で飲食する客のみに提供していたという。

 今回の状況を受け、これらの食材をオンラインで販売開始したというPAIのオーナー。さらに、PAIの人気メニューを注文して、自宅で作ることができる「ミールキット」の販売も開始。自宅で本格タイ料理を楽しみたい方にはうってつけだ。

03.
結婚式会場の「ニューノーマル」

 トロントにある由緒あるホテル、フェアモント・ロイヤル・ヨークはコロナウイルスの感染拡大以来、コミュニティーに貢献すべく数々の変化を遂げている。普段は宿泊客で満室のホテルだが、現在はこれらの部屋を病院で勤務する医療従事者に解放している。自宅にいる家族への感染を防止する策として多くの医療従事者が利用している。

 また、以前は多くの結婚式や宴会が行われていた会場も今は閑散としているという。そんな中、フェアモント・ロイヤル・ヨークは上限5名までの宴会や式の開催を許可。人数は少ないものの、花やシャンパン、さらには写真撮影など式には欠かせない様々な要素が盛り込まれているそうだ。コロナウイルスの感染が拡大して以来、このプランを利用して既に1組のカップルが結婚式を開いたという。

04.
「Zoom」で営業!人気パブが完全オンライン化

 トロントのダウンタウン中心に店舗を構える人気バー「インペリアル・パブ」がビデオ会議サービス「ズーム」を利用した「バーチャルバー」を開店したことが話題になっている。

 営業時間を全て「オンライン化」した「インペリアル・パブ」。営業を開始して以来75年経つが、このような営業形式は初めての試みだという。毎日、午後3時から午後11時まで8時間なんとオンラインで「営業」。さらに、「ズーム」を介して店から注文すると30%オフというキャンペーンも行なっている。注文は店舗にてピックアップ可能。

 また、「ズーム」で各自が映像の「背景」を変更できる機能を使い、店内の写真を自分の背景に設定することが可能。まるで店内にいるような気分にさせてくれるのも粋な計らいだ。

05.
B to BからB to Cへとモデルチェンジ

 今までメキシコ料理店などに食材を提供していた「ソンブレロ・ラテン・フーズ」が提供先のレストランの休業を受け、個人宅への宅配をスタート。チーズ、トルティーヤ、ソース、スパイスなどメキシコ料理に欠かせないものを網羅しているサプライヤーならではのチャレンジだ。

 報道によると、販売を始めた当初は、トロントに暮らしている中南米系の消費者を主なターゲットにしていたという。しかし、販売を始めるや否や、市場はそれ以上に大きいことが判明。今では人気のサービスで、従業員を一人も解雇せずに現在も営業を続けているという。彼らのように、コロナウイルスの感染拡大を受け、B to BからB to Cへとビジネスモデルを変えたビジネスは少なくないそうだ。

 マギル大学では小売店がいかに「ニューノーマル」に挑んでいくかをサポートするべく様々なプロジェクトを始動し、似たような動きも多く見られているという。

06.
独自のデリバリーサービスを開発する飲食店

 「ウーバー・イーツ」をはじめとするフード・デリバリー・サービスは便利であるものの、飲食店に高額のサービス料を請求しているのも事実。

 そんな困難に立ち向かうべく、トロントのピザ店「Pizzeria Du」は自身のデリバリーサービスを現在開発中だという。オーナーによると、トロントに多くある個人事業主が協力し、街に数多くある小規模な飲食店の「ネットワーク」を構築するのが狙いだという。協力しながら、配達にかかるコストを出し合っていくのがモデルだそうだ。これにより、配達料はフード・デリバリー・サービスよりも少額に抑えることが可能。現時点では、デリバリーは飲食店にとって唯一、もしくは最大の収入源と言っても過言ではない。

 また、「これから先、短期的・中期的に見てもそれは変わらないのでは」とPizzeria Duのオーナーは心配そうに語る。そうした変化に対応するためにも、このようなビジネスモデルが必要になるという。現在、参加に興味を持つ飲食店を募っている最中だそうだ。

07.
パズルで遊んで地元のビジネスをサポート

 印刷会社「Flash Reproductions」が作成するパズルが話題になっている。地元の小規模の事業主をサポートするべく始めたこの「パズル」企画。片方に休業を余儀なくされた多くの事業主、もう片方に家で「やること」を探している消費者がいたことに気づいたことがきっかけ。さらに、通販サイトなどでパズルの売り上げが急上昇していることも受け、印刷会社としての強みを生かし、「パズル」の販売を開始したという。

 彼らが立ち上げたウェブサイト「wepiecetogether.com」に事業主が各々の飲食店や小売店などの写真をあげることで、その写真をパズルにしてくれるこのサービス。消費者がそのパズルを購入し、その「画」を作り上げる、という仕組みだ。さらに、このパズルが一枚売れるごとに15ドルがそのパズルの画を依頼した事業主に入る。サイトに行くと、お馴染みの店などのおしゃれな絵や写真が掲載されている。消費者は、好きなのを選び、パズルを購入することが可能。ビジネスだけではなく、アーティストの作品もあるので、お気に入りの一枚を探してみるのも面白い。

08.
「完全自動化」に見る飲食店の「ニューノーマル」

 トロントのクイーン・ストリートに店舗を持つ人気のジェラート専門店「Kekou Gelato」が営業を再開して以来、接客方法を一新。注文のシステムを完全無人化にした。入るや否や、店の奥にあるセルフレジに行き、そこで注文する仕組みになっている。セルフレジは3つ。「A・B・C」に分かれていて、それぞれに対応した受け取り口が設けられている。自分が注文したレジに対応する受け取り口に行けば、注文を受け取れる仕組みだ。

 また、人気の中東料理店「Paramount Fine Foods」では完全自動化された店舗が注目を浴びている。「Box’d by Paramount Fine Foods」と呼ばれるこの店舗では、オンラインで注文をした後、店内に設けられた棚の中に注文した品が提供されるという。これらの飲食店に限らず、コロナウイルスのさらなる感染拡大を防止するためにも、これから「自動化」をテーマにした店舗は各地で増えていくことだろう。

09.
フィジカル・ディスタンシングをしながら楽しむ脱出ゲーム

 「フィジカル・ディスタンシング」の中で楽しむ新しい形の脱出ゲームが今夏誕生する。多くのゲームセンターや娯楽施設が閉業を迫られている中、7月16日から9月27日までの営業を予定している「Smash Escape Room」は、なんとコンテナの中に設けられた、「破壊」をテーマにした脱出ゲームだ。
 物を「触る」ことが多い脱出ゲーム。ただ、接触による感染が恐れられている今、以前のように営業を続けることは難しい。これを受け、各チームが遊び終わった後、中にある物を全てを「破壊」することにより、感染を防ぎながら楽しむことができる。

 トロントを拠点に活動する数々のアーティストが作った「ピニャータ」やダンボールでできた装置を主に作成されている「Smash Escape Room」。また、この脱出ゲームにより集められた収益の一部は「Black Lives Matter Toronto」と「Nia Centre」に寄付されるという。

10.
地元の小売店をサポートするオンラインショッピング

 外出自粛期間が続き、オンラインで買い物をする消費者が急増している今、彼らを地元の小売店と繋げるサービスが始動している。今回開発されたサービス「Near Shop」は、消費者の現在地を元に、近くにある小売店の商品を一か所にリストアップ。運営チームはメディアの取材に対し、「様々な小売店から商品を集め、比較しやすくするために一つの場所にまとめている。一番安い価格を探すためにいくつものウェブサイトを調べる必要がない」という。このように、オンラインでショッピングを楽しみながら地元の小売店をサポートすることが可能になる。

 消費者は希望の商品をオンラインで購入することもできるが、店舗を訪れて現地で購入することも可能。現時点ではオンタリオ州のバリーとキングストンへ配送を行なっている。