アニレボ奮戦記|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

アニレボ奮戦記|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 バンクーバー最大のアニメ関係のイベント、アニメレボリューション、通称アニレボが7月末に3日間開催された。年々規模が拡大しているが、コロナで2年間休みがあったこともあり、久々の開催にファン層は興奮の渦に包まれたようだ。私も出店者として3日間張り付いたそのイベントを通じてアニメファンとは違う観点の気づきをお伝えしよう。

 「お前は確か、不動産事業者ではなかったか?」とか「確か、もう還暦を過ぎたおっさんだろう」と言われるが、私の事業欲はマグマのように熱く、どんなものでもあくなき興味を持ち続け、コツコツと自分のものにしていくのをライフワークにしている。

 マンガについては特に悲惨な人生を送った。親が見せてくれなかったからだ。目が腐るとか病になるとか、まぁいろいろ言われ続けたこともあり、テレビはいくらか見たが、コミック雑誌はごく短い時期に少しだけ拝見するにとどまった。そして、止められなくなるほど面白いと思ったこともなかった。

 1971年から73年にかけて仮面ライダーカードが入ったカルビーのスナック菓子が大ブームとなり社会現象というより社会問題化した。一袋20円のこのお菓子の中のカード欲しさに箱ごと買うクラスメートがいて、しかもカードを抜き去ったあとお菓子を丸ごと捨てていたことが発覚し、PTAで大騒ぎになったことがある。私は仮面ライダーはたまに見たが、カードには全く興味がなく、お菓子をいつもタダでもらってうまそうに食っていた口だ。

 つまり、私は恥ずかしいぐらいアニメにもマンガにもコミックにも疎い。エバンゲリオンを見ようとは思わないがエバンゲリオンの歌を高橋洋子が歌っているのは好きで、カラオケでもよく歌う、そんな程度だ。

アニメビジネス

 私の会社の一部門では日本の教科書や書籍を販売しているが、ある時パッとひらめいたのだ。カナダでは直木賞でも芥川賞作品でもない、書籍を読まない日本人向けでなく、書籍が読めない非日本人向けにアニメビジネスで行きなさいと水晶玉の奥にそのメッセージを見てしまったのだ。ヤバヤバ!

 そんなわけで右も左もわからないまま、バンクーバー最大のアニメコンベンションに3日間参加するとなればさて当日何を着ていくか、と考えてしまった。ドラえもんの着ぐるみはこの夏には暑いし、お面でも手に入れようかと思っていたら「お前はそのままでもギャグだろう」と神の声が脳天にグサッと差し込んできた。

 いざ、会場に行けばマンガから飛び出してきたような全身パーフェクトなコスプレ族に「オーマイガー!」、せめて髪型だけでもチックで固めてくればよかったと後悔。それにしても白人がコスプレするとなぜか本物のように見えるのはアニメそのものが日本人顔ではないからかもしれない。でっかい目とか彫の深さはどう見ても白人系の顔立ちだから余計似合うのだろう。

開店早々瞬く間に売れたのは「BL」

 さて、3日間、一日8時間、店番という名の万引き防止のガードマン役のようなものだったのだが、明らかに言えるのは売れ線がばらけるということだ。スラムダンクが好きな人は鬼滅の刃にも呪術廻戦にもなびかない。どの客もバラエティに富んだラインアップからアフリカの猛獣が獲物を見定めるがごとく自分のお気に入りアニメキャラをパッと見つけ「わぁー〇〇あるよー!」とその瞬間にその本を握りしめ、抱きしめ、興奮の渦へと化すのだ。

 私はその瞬間、「開いててよかった」ならぬ「置いててよかった」と感動を共有させて頂いた。ある白人女性客が「あのー、〇〇ありますか?」と囁くように聞いてきた。「ん?」と聞き返すと「あのー、BLなんだけど」と言われ「ごめんなさい、開店早々瞬く間に消えたのがBLだったのよね」と謝りながら、仕入れの読み違いに「こりゃ、奥行きが深いわい」と奇妙な闘志が湧くのである。

来年も出たいと思う魅力

 バンクーバー、ひいてはカナダは娯楽が少ないと言われる。確かにアジア的な派手さも豪華さもファッショナブルな感じもない。それもあるのだろう、このイベントの3日間通しチケットを買った客が一日何度も出店の前をウロチョロ。そして、イベントは夜中の12時まで続き、会場のコンベンションセンターの床に疲れて座り込んだり、眠り込んだりする熱狂的ファンも翌朝は朝一番から元気いっぱい同胞を求めてご出勤される。そういう意味では通常のコンベンションとは全く違うエネルギーを感じるのだ。

 還暦を過ぎたアニメと無縁のおっさんが10代、20代の若者に紛れていればこちらも元気の源を貰った気になり、「これ、めちゃ楽しいやん」とステージでやっているアニメエアロビに商売そっちのけでくぎ付けになっている自分にはっとするのだ。「俺も溶け込むぞー」と意気揚々。

 そこにやってきた大会関係者が「来年の参加のご案内です。今日、〇時から〇時の間に申し込めば特別割引でスペースを確保します」と。時間になって急いで行ったら既に多くのベンダーさんが「お宅も来年参加?」という感じでベンダー同士でお友達状態の盛り上がり。

 これ凄いと感じたのはコンベンションは商売にならないと思っていたのに「来年も出たい」と思わせた魅力は参加者とイベント提供者、ベンダー、パフォーマーが一体となったお祭りだからであろう。何故か知らないが、日系の会社はほとんどいない。だけど参加者は皆、日本の大ファンだ。「僕たち、日本の会社でーす!」と胸を張って自信を貰った3日間は夏の日の忘れ得ぬ想い出といえよう。あー楽しかった!