物価、高すぎ?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

物価、高すぎ?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 カナダに住んでいる皆さんは物価高に直面し、嘆いている人が多いのだろう。3月の物価は前年比6.7%上昇で1991年来の記録となった。多分、4月の統計も高いものになるだろう。この物価、いったいどうしてこうなったのか、そして収まる気配はあるのか、覗いてみよう。

 日本から来た皆さんにとって「物価高」というのは聞いたことがあるかもしれないが、経験するのは初めてだろう。日本も4月には2%を超えるインフレになると予想されているが、アメリカの3月のインフレ率は実に8.5%だ。

北米でこの1年強、急激な物価高に見舞われたその原因から探ってみよう

 いまから1年前と言えば北米でコロナからの脱出が取りざたされていた頃だ。だが、オミクロン株という想定外の広く薄くまん延するコロナ変異ウイルスが世界中に広まり、人々の我慢を更に長引かせることになった。

 この間、我慢できない人たちはお金を使える分野を探し、うっぷんを晴らすような金払いを見せた。それは不動産取得であり、ボートであり、自動車であったかもしれない。旅行も限定される中で行けるところに無理やり行くような感じだった。

 ところがコロナで企業はスタッフを絞り込んでいた。そこに顧客が雪崩のように押し寄せれば商品やサービスの提供は追いつかなくなる。おまけに車購入を求めた人々も半導体不足で中古自動車が市場から消え、新車は1年待ちという状況だ。自動車ディーラーに行けば彼らは「商売、上がったりですよ、だって、売る商品がないんですから」ということになる。

 半導体不足は現代のほぼ全てのガジェットが計画通り提供できないということだ。冷蔵庫など家電一般から自動車まで当面はこの供給制限に苛まれる。多分、あと1年半は半導体供給は追いつかないはずだ。

 次に中国がこれほど悲惨になるとは想像しなかった。そう、コロナによる都市封鎖である。都市が封鎖されれば工場も動かず、船荷は出来ず、出荷もできない。米中関係がいかに悪くなろうともそれでも北米は中国からの製品を待ち望んでいるのだ。だが、来ない。コンテナ船は太平洋を渡るのに2週間ちょっとだ。だが、実際にはアジアの港でコンテナを積んでからカナダで通関を経て輸入業者が商品を手にするまで3カ月かかる。理由の一つは人手不足だ。つまり、中国のような企業が製品を供給できず、荷捌きやそれを運ぶ人たちも足りない。

 このように人々の需要に対してモノが来ない状態を供給不足によるコストプッシュ型インフレと専門的にはいう。人々は特別なものを望んでいるわけではない。10年乗った車を買い替え、壊れた家電を買い替え、処理スピードが落ちたパソコンを買い替えるだけだ。

 食べ物もそうだ。特段高いものを求めているわけではない。普段通りの生活だ。ガソリンを使ってどこか遠出に行くわけではない。いまだにコロナの心理的影響があるせいか、外には出にくい雰囲気がある。つまり、我々は何一つ、贅沢をしているわけではない。だが、物価だけはするすると上がっていくのだ。

ではこの物価高、いつまで続くのだろうか?

 私の見立ては多少、沈静化するが、2%以下のインフレには当面戻れない、とみている。

 理由はいくつもある。最大の理由はSDGsが打ち出した代替エネルギー問題だ。地球から化石燃料を消そうとしたのが2021年。COP26はまさにその最大の盛り上がりであった。だが、我々はそれが絵に描いた餅だったことを悟る。風力発電や太陽光発電では安定性がなく、一部の代替は出来るが、全面依存が難しいのだ。故にフランスは原子力発電推進に舵を切った。日本も多分、1、2年のうちにそうなるはずだ。

 ロシアのウクライナ侵攻は余計だった。これでロシア産の原油、ガスのあてが外れた。そのため、原油やガス価格は暴騰する結果となった。ウクライナの復興費用は天文学的数字だ。

 半導体は一旦不足するとそれを補う工場新設まで2年以上の時間を要するため、23年までは厳しいだろう。

 物流は中国のゼロコロナ政策次第だ。中国はある意味、欧米の物価高を高みの見物のように思っている。わざと厳しい都市封鎖をしているのではないかと勘繰りたくなるほどだ。

 そして最後は我々労働者の勤労意欲だ。これが恐ろしく落ちている。さまざまな理由があるだろう。コロナ禍で2年間は働く側からすれば比較的ゆとりある時間を過ごせた。だが、突然、元のお仕事モードになれと言っても「楽な時」を一度でも味わうとそこに戻るのは鬼のような厳しさになる。

 アメリカの労働生産性は22年1〜3月期に7.5%も下落した。1974年以来だ。私の分析は北米の失業率が必要以上に改善しすぎたため、労働市場に質の良い労働者が残っておらず、それでもその人たちを雇用するために高い賃金をオファーするためだとみている。「猫の手も借りたい忙しさ」だけどそれじゃ「猫に小判」というものだ。

 これが私の見るコスト増の最大の理由だ。物価は高すぎる。そして企業はそのうちに給与を上げられなくなるはずだ。理由は企業利益が圧迫してきているからだ。そうなれば人々は消費を抑える行動に移るだろう。企業はより売り上げが下がる。倒産が出るかもしれない。これがスタグフレーションだ。

 私はこの状況になることは望んでいない。アメリカFRBのパウエル議長もそれを否定した。だが、今の株価の暴落ぶりは皆さんの資産価値の減少にもつながっている。我々は良い夢を見過ぎたのかもしれない。