カナダ人とコミュニケーションできますか?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

カナダ人とコミュニケーションできますか?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 我々はカナダに住んでいる。周りは必ずしも生粋のカナダ人ばかりではないが、少なくとも英語を介して社会ルールを理解し、世の中の動きや流れに敏感で、コミュニティーに溶け込んでいる人が多い。ではわれわれ日本人はどうだろう?日本人ばかりで集まっていないだろうか?日本語の時に妙にほっとしていないか?カナダに住む我々が心得ることは何だろう?

 先日、旧知の韓国系と台湾系カナダ人とランチで寿司をつまみながら盛りだくさんの話題で盛り上がった。韓国系のKは11月に当地の地方選挙に出馬する。前回は国政に打って出たが落選してその反省からじっくりと戦略を打ち立てているようだ。「どうだい、勝算は?」と聞けば「今度は大丈夫」と。前回は応援の寄付をしたが「落選してごめんなさいカード」が忘れられた頃に送られてきた。今回も駄話をするために遠路はるばるやってきてくれたのは友情だろう。

 もう一人のYはバンクーバー地区の台湾系ビジネス団体の代表で7月に3万人規模のイベントを主催すべく準備に忙しい。「日系の団体も協力できるかい?」「もちろんだよ」。私はイベントの存在すら誰にも言っていないが、彼のために一肌脱ぐかな、と思っている。どうやって日系団体にこのイベントに絡ませるかと思い始めると、こちらの方がワクワクしてしまった。

 2週間ほど前、ビジネスに絡み、どうしても承諾を取らねばならない会合があった。相手は偏屈英国人B。こちらは私とインド人の専門家W。打ち合わせの前日にWと戦略を練った。私から言ったのは「英国人は屁理屈をこね廻すけどボトムラインでは理論立てて説明すれば必ず説得できる。だから今回、究極の落としどころを押さえて欲しい」と指示を出した。会合の時、案の定、Bが会合のリードを取り始めた。こうなると屁理屈三昧だ。ここで私がリードを取り返し、Wとロジカルなポイントで押し返したらBは黙った。結局、Bは承認し、その後はハッピーエンドだ。

カナダ人とディールするためのビジネス交渉術

 私は当地に来た時からクライアントが99%非日系、取引先や協力会社もほぼ非日系だったのでいわゆるビジネス交渉術は学んだと思う。私は残念ながら流ちょうで美しい英語はしゃべれない。30年もいるのに才能がないからだろう。だが、カナダ人とディールはできる。これは体得したからだ。絶対的テクニックはないけれど気をつけていることはいくつかある。

 1つ目は自分の面白い話や駄話の引き出しをたくさん持っておくこと。これは会話をしている際、相槌を打つだけではなく「俺の話も聞いてくれよー!」と似たような話題を持ち出し、相手と共鳴させるのだ。これで相手は心を一気に開く。

 イエス・ノーをはっきり言うのが北米だと教えられただろう。だが、カナダ人は面と向かって明白なノーを言わない国民性とされ、裏で結構ブツブツ言うことが多い。二枚舌的なところともいえる。それ故にノーと明快に言ったときは相手に「なるほど」と思わせる論理構成が必要だ。これが2番目のコツ。

 「明日は雨だぜ」「そんなわけない。こんなに天気がいいじゃないか?」という会話では、大抵は「天気予報がそう言っていた」というだろう。だがこれは説得力がない。理由は天気予報はコロコロ変わるからだ。「みろよ、この湿ったなま温かい風。これは湿度が上昇している証拠だからこれから雲がモクモク出てくるぜ」といえば「おー、そうだな」ということになる。

 3番目にあまり意固地にならないことだ。必ず「だめならこういうのもあるけどどうかな?」とオプションを提示することだ。カナダ人は選択肢がないのが一番嫌がる。All or nothingは最悪の提示方法だ。それ故、ビジネスなどの交渉の時は心の中でボトムラインと共にオプション1〜3ぐらいまでを用意しておき、落としどころを決めるやり方をお勧めする。

ダメもと精神

 日本人の方がカナダ人から何か言われて「どうしよう」と立ち行かなくなったケースはよく見かける。それは相手と話をした時、ある提示をされた際、自分の意図と違っていると、どうしたらよいのかわからなくなるためだ。

 そういう時は大阪人根性で「ダメもと精神」で当たってみたらよい。価格交渉なら単にまけろ、まけないの交渉ではなく、切り口を変えるのだ。例えば契約期間を延ばすから価格はこれでどうだ、といった具合だ。

 私の事務所のリース契約更改がつい先だって行われたのだが、2年更新ながらもかなり気を使った良い条件を提示された。普通ならこれでサインするだろう。だがひねくれている私は「あなたの今回の提示条件はとても素晴らしかったので2年ではなく3年契約でどうだ」と返した。すんなりOKだったのは私がむしろ驚いた。契約期間が長いと物価上昇分を考えるので普通はリース料が上がりやすいからだ。

 カナダ人、あるいはこちらの人と英語などでやり取りする場合、最も大事なのは相手の顔を穴があくほど眺めながら目と口で表現し、笑顔とシビアな顔を使い分けることだ。日本人の悪い癖はどんな悪い話や悲しい話でも笑ってしまう人がいる。恥ずかしさを笑ってごまかすためなのだが、これほどキモイ話はない。笑顔というのはガバッと笑うことだし、怒ったり悲しんだりする顔は言葉以上の表現力となる。

 そうか、ならば皆さん、英語学校なんか行かず、劇団で練習すれば、英語も上手になるのかもしれない。役者になったつもりで演じるのはコミュニケーション上達の最速方法だからだ。