アメリカは壊れたのか?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

アメリカは壊れたのか?|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 トランプ氏の最後のあがきは何だったのだろうか?バイデン氏はアメリカをどういう方向に導きたいのだろうか?元祖民主主義国家であるアメリカで一体何が起きているのか、そしてこの影響は世界に伝播するのか考えてみよう。

2021年1月6日ワシントン議会

 1月6日にトランプ氏の支持者がワシントンの議会になだれ込んだ。開催されていたバイデン氏の大統領への認定の手続きというタイミングで起きたこの事件はニューヨークで起きた911のテロ事件と被るものがある。これは被害者の数ではなく、ワールドトレードセンターや議会というアメリカの象徴を背景にした事件だということだ。もう一つは議会で最も重要な行事の一つである大統領認定という儀式の最中にいとも簡単に占拠されたという事実である。

 アメリカは最新鋭の防衛設備、武器、戦闘機、ミサイル…の世界最大の開発者であるのにわずか数百人の先鋭化したほとんど武器を持たない素手の人間にあっさりその場を明け渡したこの脆弱性には驚きを通り越して、間抜けと断じてしまってもよいだろう。

 トランプ氏は先の大統領選で7400万票を集めたとされる。対するバイデン氏は8000万票で共に史上最高を記録した。なぜ、ここまで得票数が伸びたのかと言えばSNSでのYES-NO判断への盛り上がりがそうさせたのだろう。二大政党というのは二つに一つしかないため、能動的に選ぶ場合より消去法的選択、つまり、どちらかが嫌いだからこちらを選ぶという手法を取りやすくなる。

 大統領を選ぶポイントは何か、と言えば一つひとつの政策や主張よりも選挙民個人の利益と候補者のイメージがもたらす判断の方が大きい。多くの一般人にとって10の政策を掲げられても自分に直接影響し、選挙の判断になるのは一つか二つしかないはずだ。また、オバマ氏からトランプ氏に変わった一つの理由は優しいアメリカから強いアメリカへの賛美の声が大きくなったからだろう。トランプ氏が敗北したのは49人の圧倒的支持者と51人の絶対に受け入れられない人の壁がかつてなく分厚くなったからだ。

 そしてもう一つは白人の低学歴層の取り込みだろう。批判を覚悟で申し上げるとアメリカの外交政策や国内経済の小難しい話を多くのアメリカ人がどれだけきちんと理解し、意見を述べることができるだろうか?そんなことよりもストーリーを極端に単純化し、アメリカの敵はロシアだ、中国だと決めつけてしまった方が簡単だ。同様に「バイデンも最低だ、不正選挙だ」と言い続ければファン層は沸き立つ。

ただバイデン氏も私は正直、いかがなものかと思っている

 発言が単刀直入、言葉も姿勢にも品位はない。つまり、アメリカの方に向かって申し上げるのは気が引けるが、要はどっちもどっちであろう。敢えて違いを述べるなら、トランプ氏は自分で勝手にどんどん決めるがバイデン氏は民主という枠組みを重視するために難しい判断にてこずる大統領になりそうだ。

 日本人にわかりやすい例えをすると安倍元首相は自分で決める人、菅首相は頑固すぎて方向性にずれがある人、小池百合子都知事は決められず、他人に判断を任せて、それを批判する人と言ったらわかりやすいだろうか?人の本質的な性格などはちょっと見ればすぐわかるもので政治家のように露出度が高い人はすぐにわかってしまう。

 アメリカが今後、どういう方向に進むかはアメリカ人が考えることだが、この判断は年層ギャップが大きく影響する。70歳台から上は保守で昔の開拓者精神を持つアメリカが正しいと信じている。50〜60代はベトナム戦争をまじかに経験しており、保守の中の平和主義という微妙な年代だ。そしてそれより若い世代は戦争そのものに無縁であるため、マネー第一主義で高学歴と効率化でいかにうまく儲けるかが主題となる。最後に取り残された人々が自分たちの生活レベル改善のために集団化する社会を形成するだろう。

 つまりその絵図はバラバラだ。どう考えてもまとまらない。貧富の差もあるが時代の変遷が早すぎて様々な基盤思想が同居している同床異夢社会と申し上げたらどうだろうか?日本の場合は昭和の人、平成の人、令和の人といった具合だ。日本のくくりは社会学的に実にわかりやすく双方がお互いを侵害することが少ないため、問題があまり出ない。一方、アメリカではそのギャップが社会を二分するほどの亀裂となっているということだ。

世界は迷走する

 では最後にこのアメリカのドタバタ劇は世界に伝播するのか、であるが、答えはYESである。そもそもの背景が社会の変質にある。農業から製造業、そしてサービス業へ、タイプライターからパソコン、そしてスマホへ、かつてニューヨークは地方都市からの「おのぼりさん」の街とされ、エンパイアステートビルの上を見上げた瞬間スリにあうと言われた。今はアメリカの片田舎の若者が世界を股にかける時代だ。

 グローバル化は人の移動だけではなく、モノとマネーと情報を瞬時で動かすことができるようになった。それに対する受け入れ許容度は年齢層や社会的位置づけにより影響を受ける。そしてそれはアメリカだけではなく、英国や欧州も日本もそして中国ですら同様の問題は起きつつある。

 人のマインドを動かすのは今や、SNSを介した情報であり、そのエサはマネーである。人間はそれを受動的にゲットしながら、確実に各自の頭の中に自分の好みを描きつつあるはずだ。

 世界は迷走する。それが2020年代の予言かもしれない。