ミッドナイト・マッドネスのビーチボール|トロントと日本を繋ぐ映画倶楽部【第38回】

ミッドナイト・マッドネスのビーチボール|トロントと日本を繋ぐ映画倶楽部【第38回】

 私にとって3年ぶりの現地体験となった今年のトロント国際映画祭(TIFF)。現地の模様を書いた先月号を見て、我ながらミッドナイト・マッドネス(MM)部門にページを割きすぎじゃないか?と反省しました。でもMMこそ、私にとって最もTIFFに帰ってきたと実感させられるものでした。

 MMは、会期中の毎晩23時59分から、SF、ホラー、コメディなどのジャンル映画が上映される部門。熱狂的なファンが主人公の活躍に拍手喝采、スプラッター映画で首が飛んでも拍手喝采と、いつも自然発生的に応援上映になります。熱気に包まれた会場内では、上映前にビーチボールが飛びます。TIFF Bell Lightboxの1番スクリーンに入ってすぐの通路に展示されているMMのビーチボール。これが自分のところに飛んできたらトスを上げ、見知らぬ観客同士がトスをつなぐ。2019年までMMの上映会場だったRyerson Theatreでは、これが恒例でした。

 コロナ禍で限定的な開催となった2020年には、MM開幕作品『シャドウ・イン・クラウド』がドライブ・イン・シアターで上映されました。現地からの配信動画では、観客が拍手代わりに車のクラクションを鳴らして大盛況でしたが、ビーチボールは確認できませんでした。2021年には、この年初めてTIFFの会場となったRoyal Alexandra TheatreでMM開幕作品『TITANE チタン』が上映されました。このときもビーチボールの有無はわからず、コロナ禍で不特定多数が触るビーチボールの復活は難しいだろうか、などと思いながら、私は日本から現地の写真を眺めていました。

 今年、まだコロナの影響は無視できないし、と思いながら入った会場で、上映前の客席にビーチボールが飛ぶ光景を目にしたとき、それまでのどの瞬間よりもTIFFに戻ってきたことを実感しました。ビーチボールが不意に後頭部に当たるのも、みんなが何度も高く上げたビーチボールが2階席に届いたときの会場内の一体感も、最高のMM体験。これを読んで興味を持った方がいたら、ぜひ来年は現地で体感してほしいです。