トロント国際映画祭との出会い(その4)|トロントと日本を繋ぐ映画倶楽部【第26回】

トロント国際映画祭との出会い(その4)|トロントと日本を繋ぐ映画倶楽部【第26回】

 コロナ禍が続く今年、トロント国際映画祭(TIFF)のために日本から渡航できるのかさっぱりわからないから昔話をしてみようか、ということで、私が初めてTIFFへ行った2009年の話をもう少し引っ張ります。

 2009年のTIFFは、9月10日から19日の開催でした。TIFFでは例年、開幕から最初の週末にかけての前半日程が特に盛り上がります。話題作の人気俳優や監督がレッドカーペットを訪れ、目玉作品が次々に上映されます。でも、そんなことを知りもしない当時の私は、9月下旬の祝日が重なるシルバーウィーク前後に休暇を取ったため、TIFFの後半日程にトロント入りしました。

 前回書いたとおり、トロント到着後に早朝からボックスオフィス前の行列に並んでTIFFの上映チケットをいくつか取ったわけですが、そもそも監督や俳優が登壇するワールドプレミアの多くは前半日程ですでに終わっており、後半日程の上映では誰も登壇せず映画が上映されるだけ、なんて作品がほとんどでした。でも、たとえ舞台挨拶がなくても、TIFFの上映はとても面白く、興奮する空間でした。

2009年のTIFFの上映チケット
2009年のTIFFの上映チケット

 まず、TIFFでは本編の上映前に、映画祭スポンサーのCMや映画祭ボランティアの協力を称える映像が上映されます。ここでもう会場内の観客が一体になります。コミカルなCMにはツッコミを入れたり手拍子をしたり。そしてボランティアスタッフを称える映像の最後には、観客みんなが大きな拍手で感謝の意を表します。本当に、トロントの一般市民があってこそのTIFFだと実感する瞬間でした。

 本編が始まると、主人公の危機には会場のどこからかため息が聞こえ、逆境に立ち向かえば応援するように拍手が起こり、会場中が息を飲む緊張感が伝わってくる。TIFFがワールドプレミアで、まだどこにも映画評が出ていない未知の作品を、熱気あふれる観客と一体になりながら先入観なく観賞する。そこには、一般公開の映画館では経験できない驚きと興奮が詰まっていました。

 2009年のTIFFが閉幕する頃には、次は開幕からこの場にいたい!来年また来よう!と、すでに決意していました。