5年連続の快挙!2023ミシュラン一つ星に輝く「金色不如帰」店主 山本敦之さんインタビュー|特集「海外で食をひろめる飲食人シリーズ1」

海外初出店のカナダ・トロントから目指すは海外50店舗

ミシュランを獲るため設計された究極の味作りで進化を遂げるハマグリ・ラーメン

金色不如帰 sobahousekonjikihototogisu.com
KONJIKI RAMEN konjikiramen.com

 ミシュランガイド東京2019年度版から5年連続1つ星を獲り続けている金色不如帰。山本さんが監修するKONJIKIブランドは、カナダ・トロントに初めての海外出店を果たし、現在ではカナダ4店舗を含む海外15店舗を展開している。そんな至高のラーメン金色不如帰の店主・山本敦之さんが新型コロナによるパンデミックがあけたトロントに3年ぶりに訪れ、ディナーイベントや新作ラーメンのメニュー開発に時間を費やした。壮絶な修行を乗り越え、研究を繰り返し、洗練されたラーメンを作り上げる山本さんのこれまでの歩みと自身が生み出すラーメンへの強い信念を語ってもらった。

結婚を決めた矢先に会社を辞め、ラーメン店で一から修行

 10代の頃は、英語の専門学校に通い、卒業後は世界で働く商社マンになりたいと思っていました。ですが、会社員として人に頭を下げてゴマをすって仕事をもらうというスタイルがあまり自分に向いていないと気づき始めました。サーフィンがとても好きで続けたかったので、当時アルバイトをしていた内装工事を請け負う会社にそのまま就職しました。

 一方で、食べ物巡りも好きだったので美味しいごはんのために遠出することもありました。ある時、お客さんから「美味しかった」と頭を下げられている店主の姿を見て「かっこいい!」と衝撃が走りました。お客さんに感謝される飲食業の魅力に惹かれ、中でも特に好きなラーメン店をいつか自分で開こうと決めました。

 やるからには真剣に挑みたかったので、都内で最も厳しいと評判のラーメン店に弟子入りしました。休みは月に3日、その休みも完全な休みではありません。休みの日も店に顔を出して数時間仕込みの手伝いをしてから、「すみません。お休みいただきます」と店主に言ってからようやく休日がもらえるという生活でした。4歳から高校卒業までずっと剣道をしていた経験から精神も鍛え上げられていたので、「これを乗り越えられなければ次はない」という気合いでやっていましたね。

 当時、新婚でしたが妻との時間もろくに取れず、いつしか食卓に離婚届けが置かれるような日常になっていました。私もですが、妻も相当つらかったと思います。ですが、そこで気持ちが折れるわけにはいきませんでした。

ミシュラン1つ星までの道のり

 大変厳しい環境の修行先も5年修行を続ければ、店主から暖簾をもらい独立することができるチャンスがありました。ですが、自分が研究を重ねたオリジナルの味を試すことを我慢できなかった私は4年半で退職し、2006年に晴れて自分の店「SOBA HOUSE 金色不如帰」をオープンしました。

 最初の2年間は本当に厳しかったです。特に、オープンしてすぐは1日5食程度しか売れない日もありました。1度まずいと思われたらお客さんは二度と戻ってこないのが競争の激しいラーメン業界です。ブレを無くすことに努め、ずっと同じ味でも飽きられてしまうので、常にミリ単位、グラム単位で改良し続けました。その結果、3年目には1日40~50杯、4年目は土日なら1日100杯出るほどになりました。

 さらに高みを目指すことが必要だと思い、それまで手を出してこなかった自家製麺に挑戦するために、幡ヶ谷の小さな店舗から新宿に移転し、これが好機となり2019年に初めてミシュラン1つ星を獲得することができました。

金色不如帰といえばハマグリのスープ

 スープに基礎にハマグリを使おうと思ったのは、第一に私がハマグリを好きだったことに尽きます。アサリを使っているラーメンはありましたが、「ハマグリはこんなに美味しいのに、その出汁を活かしたラーメンはないんだ?」と、修行1年目から貝が持つうま味成分を活かしたラーメンをずっと考えていました。

ラーメンの研究は「科学実験」

 心から美味しいと思えるラーメンを作るために、何度もなんども試行錯誤して、化学的に掘り下げて研究していきました。うま味成分として知られるアミノ酸系・核酸系・有機酸系をどのように組み合わせ融合させるかを研究し、スープを完成させます。例えば、核酸系のうま味成分イノシン酸は煮干しに多く含まれていますが、グルタミン酸と合わせて使うとその相乗効果は何倍にもなるので、それをどう舌で感じられるのかを一つ一つ何度も舌で試し味を覚え整えていきます。

 ここまで味覚を磨いてこれたのも、毎週1〜2日店に泊まり、失敗しても諦めずに、時間をかけて少しずつ食材のもつ旨味成分を研究して来た結果だと思っております。人が何を美味しいと感じるのか、どのようなうま味成分の融合に相乗効果が生まれるのか、食材1グラム、1ミリリットル単位まで細かく見極めています。

本気でオンリーワンの味作り

 ラーメン作りの1から10まで店舗で行うことを徹底し、現在では60種類以上というラーメン店では考えられないほど多様な食材を使用しています。「最後の一滴まで飽きずに美味しく召し上がっていただきたい」というコンセプトのもと、その味わいを実現するため水にもこだわり、スープを取るのに最適な水素イオン濃度を調整するなど工夫を重ねているほか、器にもこだわり、微量の遠赤外線が放射される特殊な「有田焼」を使用しています。もちろん麺にも最大限のこだわりをみせ、しなやかで風味豊かな麺を目指し、小麦粉の品種や成分などについて学び、国内産小麦100%にこだわり、毎日店舗内で製麺を行っています。

 ラーメンという食べ物は全部が交わり合って1つの料理になります。麺とスープ、食材だけではなく、水や器も含めてこだわらないと、美味しさは極められないでしょうし、そこまで突き詰めているからこそミシュランなどに評価してもらえたのだと思います。

山本さんとトロント

 2017年12月、初の海外店舗としてオープンしたのがここトロントでした。現在ではノースヨーク、ダウンタウン、マーカム、ヨークデールモールの4か所に展開しており、世界では15店舗になりました。次はドバイでの出店を予定していますが、目標は海外で50店舗を目指しています。

 海外店舗では、その土地で入手できる食材を使用し、土地・人に合うようなラーメンを考案・監修するのですが、今回はイベントで提供した鶏白湯など鶏系のほかに、ベジタリアンやヴィーガンのラーメンも開発しました。もともと私は洋食材を多く使いますし、トロントのような寒い地域の人たちは濃い味やこってりしたものが好きな傾向があるので、味の構成に活かしています。

「美味しいラーメン」とは

 私にとっての「美味しいラーメン」は、「食べた時に作り手のストーリーが分かるようなラーメン」です。食はジャンル問わず幅広く好きなのですが、適当に作られたものはやはり何も感じませんし、食べたら分かります。繁盛しているラーメン屋が必ずしも美味しいとは思いません。私が作り手なのでなおさら分かるのですが、どれだけ美味しいものを使っていても、作る人が適当に作ったラーメンにはそれが表れてしまいます。

 その裏返しで料理人の思いや店の歴史が感じられると、美味しいと納得できます。極論ですが、汚い厨房で汚い丼でラーメンを出されても、そのラーメンたった1杯への思いが感じられたら、それは美味しいラーメンだと思います。結局、「人」が作るものなので、単純に言えば愛情100%のものなら、私は美味しいと感じます。