第42回 ジャニー喜多川問題と日本人の英語力の関係|カエデの多言語はぐくみ通信

第42回  ジャニー喜多川問題と日本人の英語力の関係|カエデの多言語はぐくみ通信

ついに国連が故ジャニー喜多川氏の児童性加害問題に乗り出すと発表がありました。なぜ、日本の大手メディアは今まで沈黙を守り、日本政府もこうなるまで何もしなかったのでしょうか。それには、日本人の英語力が関係するのではないでしょうか。

日本の児童性虐待に国連が乗り出す

今年3月イギリスBBCが、故ジャニー喜多川氏による少年たちへのおびただしい数の性加害に関するドキュメンタリーを公開し、その後被害者が次々と名乗り出て、SNS上ではちょっとした騒ぎとなりました。しかし、当のジャニーズ事務所は沈黙し、日本の大手テレビや新聞メディアもそれらの告発をほぼ無視し、日本政府も動こうとはしませんでした。ジャニー喜多川問題に関しては、実は1999年に週刊文春が大々的に特集を組み、東京高裁が性被害を認めたにも関わらず、その時も日本政府や大手マスコミは無視し続けました。

今回も、頭を低くして嵐が過ぎるのを待っていたようですが、ついに国連の人権理事会が来日して聞き取り調査に乗り出すと発表され(2023年7月12日)、日本政府の事なかれ主義と日本大手メディアのジャーナリズムの欠如を浮き彫りにしました。

カナダで、大物政治家に厳しい質問を投げかけたり、未だに放置されている先住民差別問題を繰り返し報道するジャーナリズムに慣れていると、日本の、ジャニーズ事務所を叩くと人気タレントをテレビに送ってくれなくなるので糾弾できない構図は、何とも情けないと思わずにはいられません。海外のジャーナリズムがすべて正しいとはもちろん思っていませんが、私は、日本のジャーナリズムが、なぜここまでグローバルスタンダードとかけ離れているのか興味を持ちました。その理由の1つに、日本の記者たちが、世界のニュースを英語で読めないことがあるのではないかと思います。

#MeToo運動も対岸の火

私は、ハリウッド大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる性加害の一連の報道は英語で読んでいました。そして、次々に名乗り出る被害者たちを取材した告発記事も読みました。しかし、日本主要メディアをいくら探しても、出てくるのは上辺だけの内容で、結局日本では、#MeToo運動は自分たちには関係のない対岸の火のような印象でした。

一方、日本国内では、元TBS記者に性被害を受けた伊藤詩織さんや自衛隊内で被害に遭った五ノ井里奈さん、そして元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんたちが、まず外国特派員協会で性被害を告発しました。日本のジャーナリズムには期待できないからです。世界の性被害に対する意識は#MeToo運動で一気に変わったのに、日本のほとんどの記者たちはその動きになんら触発されることはなかったのです。

今回、国連が聞き取り調査をすると発表するに至ったことで、人権に対する倫理観、特に子どもの人権に対して敏感な世界のスタンダードに、日本はまったく追いつけていないことを露呈しました。

海外特派員でも英語を話せない

35年前のパリ留学時代、日本の大手メディア特派員の知人がフランス語も英語もできず、どうやって取材するのか不思議に思っていたら、日本語が堪能なフランス人助手に全面的に頼っていました。今でも、「ほとんどの海外特派員は英語ができないから、ロイターやAP、AFPの記事を現地助手にピックアップしてもらい翻訳してもらって記事にしている。特派員は取材先で満足な質問もできない」と、元新聞社海外支局長だった長谷川幸洋さんがYouTubeで話していました。海外特派員でもその程度なので、日本在住の記者が英語ができず、海外ジャーナリズムのスタンダードに無頓着なのは推して知るべしです。

国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」が発表した2023年の「報道自由度ランキング」で、日本は180か国中68位、G7として最下位でした(カナダは180か国中15位)。海外でメディアは、権力に忖度せず追及することで存在意義を示そうとします。しかし、日本では、大物政治家にちょっと厳しい質問をした記者やキャスターは、記者クラブから締め出されたり、番組を降板させられます。日本の記者たちはそれに反発したり、報道の自由を勝ち取ろうとは思わないようです。

受験戦争を勝ち抜き一流大学を出て、日本の大手といわれるマスコミに就職したけれど、海外で揉まれることもなく先輩たちのやり方を踏襲してきた記者たちは、海外では取材ができず通信社と助手頼み、日本国内でも記者クラブで一方的に与えられる政府公式発表をただ紙面に写すだけの仕事を繰り返します。これでは、世界標準のジャーナリズムの倫理を知らなくて当然かもしれません。

英語は世界スタンダードへのチケット

情報収集を日本語だけに頼ると情報の量と質がかなり落ちます。日本語で「コロナ」、そして英語で「Covid」と検索すると、英語だと日本語の約10倍ヒットします。私は、大人になってから英語とフランス語を勉強し、気になるニュースは必ず複数言語でニュースソースを検証します。そうすることで、記者(または所属している新聞社やテレビ局)の偏見や日本語のフィルターを排除した生の情報を読んだり聞いたりすることができるのです。

カナダ永住の日本人の友人が、英語ができなくてもテレビジャパン(日本の番組を北米で放送する有料チャンネル)があるから大丈夫と、頑なに英語を勉強しませんでした。しかし、与えられる情報を鵜呑みにするのはたいへん危険です。情報源を多面的そして多言語で検証することは、世界スタンダードに近づくためには必要不可欠です。