日本のコロナ鎖国が解かれ、ほぼ3年ぶりに海外から日本への里帰りを果たした人、またはこれから一時帰国を計画している人も多いのではないでしょうか。私も昨年秋に3週間日本に帰りました。そして、カナダに移住して20年以上が経ち老後も視野に入ってきた自分が、日本とカナダを今までとは違った視点で見ていることに気付きました。
日本に住めない日本人
20数年前、30代後半でカナダ人の夫と幼い2人の子どもと一緒に日本を離れた理由は、「日本では自分の良さが出ず自己肯定感が下がり続けるだろう。また、娘が女性ということで将来不利益を被るだろう」という結論に達したからです。カナダに住みたいとはそれまで一度も考えたことはありませんでした。
当時、日本での女性の地位が低く(今でもですが)、女性の役割を問答無用に押し付けられるのが嫌でした。自分の意見を言うと実家族や会社から叩かれ、男性社会での処世術を身に着けた女性部下にも妬まれていました。子育てしながらワークライフバランスも無視で夜遅くまで残業することにも疲れ、また、バブル崩壊後の不況の影響がじわじわと見えていて、日本経済の回復に時間がかかるだろうと判断したことも理由の1つです。
今回の一時帰国では、家族や親せき、友人ととても良い時間を持てました。日本人の思いやりや感情のきめの細やかさに感動し、また、男性も昔に比べて優しくなったと感じました。しかし、家族と日本女性の地位や女性活動家やLGBTQなどの話をしても、意見が全く噛み合いませんでした。言葉の定義から始めなければならないくらい、自分の海外基準と日本の基準が違っていました。テレビを観ても、依然ふんわりイメージの女性アナウンサーがにこにこと男性キャスターの補佐をし、家では、男は家事をしなくてよいと育てられた40代の甥が、食事を作ってもらっても「ごちそうさま」も言いません。ただ、3週間という短い期間なら、自分の意見を隠し日本の習慣に合わせてその場を丸く収めることができました。
帰途、カナダの航空会社の機中でお年を召した女性乗務員に対等に話しかけられた時に、日本の航空会社の髪をピシッと整えた若い女性乗務員に丁寧に笑顔で対応された時よりホッとしました。女性が(少なくとも建前では)年齢で差別されない社会がここにあると感じました。そして、やはり自分はもう日本には住めない人間だと再確認しました。
カナダ人なりたくない自分
カナダに長年住み、働き、子どもを育て、カナダに馴染んだかと言えば十分馴染んでいますが、カナダを自分の国とは思えません。カナダに移住してまだ5年か10年くらいだったころは、「自分はこれからもっとカナダ人っぽくなっていくのだろう」と思っていました。
アイスホッケーやクリスマスが好きになり、カナダ人の友人をたくさん持ち、英語のスラングやカナダ文化をもっと吸収し、反対に日本語がだんだん出にくくなっていくのだろう、と考えていました。しかし、それから10年以上経ってもそういうことは起きませんでした。
仲良くしたいと頑張った夫の兄弟とは白人優位的考え方が気になり疎遠となり、カナダ人の友人も増えていません。英語は上達しましたがスラングはそれほど覚えず、日本語もこうやってTORJAに寄稿しブログを書いていることで衰えていません。お正月は今でも大事で家族皆でお祝いしたいけれど、クリスマスは特に何もなくても平気です。
カナダ在住日本人の友人で、カナダ文化を自分のものにして楽しんでいる人もたくさんいますし、カナダ国籍を取った人もいます。しかし、私にとってカナダは、愛する家族が居て生活する場所という位置付けです。日本は2重国籍を認めていないため、日本国籍を捨ててまでカナダ人になろうとも思えません。しかし、老後に日本に帰りたいという気持ちも全くありません。自分が歳を取るということは、家族や友人も歳を取り、いずれいなくなっていくところに帰っても仕方ありません。
中途半端な自分を受け入れる
日本に収まらない日本人であるけれども、カナダ人にもなりたくない中途半端な自分のアイデンティティをどう扱ったらよいのか。もちろん、「郷に入れば郷に従え」で、カナダ人の価値観や文化を尊重して自分も同じように行動しています。自分の子どもたちが日本人である以上にカナダ人であることも受け入れています。日本ではこうだからと言う気持ちもありません。ただ、自分がカナダ人になりたいとは全く思えないのです。
幸い、カナダは多民族国家であることを誇りにし、移民それぞれの文化を尊重してくれる社会風土があります。お隣のアメリカのように、移民やその子どもたちに自国の文化を捨てアメリカ人になることを強要しません。私の周りにも民族の文化を受け継ぎながらカナダで生活している移民はたくさんいます。カナダで働き税金を納め、カナダの国に貢献するだろう人材を育てたことで義務は果たしたと思うので、カナダ人になりたくない自分を受け入れようと思います。
今後また気持ちは変わるかもしれませんが、しばらくは「カナダで生きる日本人」というラベルを自分に貼って生きていこうと思います。
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