「戦中に日系人が経験したことを共有することで悲劇を繰り返させないように」カナダ・トロント STORY.10 ジェームス・ヘロンさん インタビュー

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ジェームス・ヘロンさん

ジェームス・ヘロンさん

日系文化会館で館長を務め、日系コミュニティの更なる発展だけでなく、日本文化をカナダに浸透させることでカナダ社会も発展するための活動を続けている


最初に日本に興味を持ったきっかけを教えてください。

 一番最初は12歳くらいの頃、テレビで『ゴジラ』や『007は二度死ぬ』といった作品を観たことが日本に興味を持つきっかけになりました。ちょうど東京オリンピック直後くらいのことでしたので、日本の伝統と同時に化学的に進歩している姿は12歳ながらにとても印象深かったです。当時は勿論インターネットは無く、本を読むか写真を見るかでしか異文化に触れあうことができないため、日本はある意味遠い存在に感じていました。

 そして時が経って1980年頃に私の友人が貸してくれた本の中に剣道が出てきたのです。その本を読み進めながら剣道のことが更に気になっていき、実際の競技を見てみたくなり、イエローブックで探したところ日系文化会館が出てきました。日系カナダ人じゃない私でも参加して大丈夫かを確認したところ問題が無いようでしたので実際に見学に行ったところ、その魅力に取りつかれて次の週には申し込みをしていました。剣道にのめりこむようになってから日本食、文化にも興味が広がっていきました。

 剣道を始めてから1年、自然と日本に行かなくてはいけないと思うようになりました。当時は大学を卒業して銀行に勤めていましたが、銀行の仕事にもそこまで情熱を感じていませんでした。そこで、日本で英語を教えるという仕事を見つけたため、1年の契約で静岡県で英語を教えることになりました。その1年間が気が付けば11年になり、英語の先生だけでなく私を派遣した企業でマネジメントや翻訳等様々な仕事を通して会社と共に成長していくことができました。

日本在住中は剣道に打ち込み、二段の腕前を持つ

 カナダに帰ってきてからは日本での経験を活かし、日本のビジネスに関するコンサルティングを何年かしていたのですが、18年前、日系文化会館館長のポジションの募集がされたのでだめもとで応募してみたところ採用されました。

館長になってからとそれ以前では日系コミュニティーやカナダ社会への考え方への変化はありましたか?

 日本は思いやりや謙虚さ、という価値観を社会全体で共有しているユニークで洗練された国だと思います。ですがそれだけでなく、実際に住んでみると茶道や書道といった伝統的な側面以外の魅力もたくさん詰まっています。私の今の仕事は、できる限り日本文化の多様性を知ってもらうことじゃないか、と日本に住んだ経験を踏まえて思うようになりました。カナダは多民族国家ですから色々な文化が入り混じっています。日本はその中の素晴らしい文化の1つで、我々がより日本文化をカナダに浸透させることができればよりよい社会づくりに貢献していけるのではないかと思っています。

館長になられてから印象深かった出来事はありますか?

 一番は天皇皇后両陛下が日系文化会館を訪問された時です。私が館内をご案内し、日本語で6分間のスピーチをさせていただいたのですが、人生の中で一番緊張した6分間でしたね。スピーチをしている時、自分は本当に素晴らしい活動をしていると思うことができました。

2009年に天皇皇后両陛下が日系文化会館をご訪問

 もう1つは東日本大震災の後、募金を呼び掛けたのですが1.5百万カナダドルもの募金が集まったことです。募金していただいた皆様のおかげで、震災孤児100名あまりが大学まで勉強することができ、今でもあと8年間は活動を継続していくだけの金額が残っています。

日本文化をトロントからカナダへと広げていくために今後取り組んでいきたいことを教えてください。

 よりコンテンポラリーな文化をもってくることです。特に、日本のポップミュージックをトロントでも楽しんでいただけるようにしていこうと動いています。

 また、我々が開催しているトロント日本映画祭からもわかるように、アート系の作品だけでなく、冒険物やコメディー等「今」の日本を反映している映画を引き続きトロントで上映できるようにしていき、トロントに住む皆さんに日本の伝統的な一面とはまた違った所を知っていただきたいです。

戦中に日系人が経験したことを共有することで悲劇を繰り返させないように

今後日系コミュニティーとカナダが発展していくために期待することはありますか?

 20年程前は日系文化会館は日系人のためだけの施設というイメージがありました。ですが、より良い文化施設にしていくためには新移住者やワーホリの方、皆さんにここをホームだと思っていただけるようにすることが必要だと思います。その一歩として、トロント新移住者協会がJCCCと合併し、理事会にもメンバーが加わりました。日系文化会館は日系人が創設しましたが、その未来は新移住者や若い世代の人たちが握っていますので一緒に頑張っていきたいです。

俳優のオダギリジョーさんとトロント日本映画祭にて

 また、カナダをより良い国にしていくためには日系カナダ人の歴史を博物館で伝えていくことが大切です。カナダの歴史の中で悲しい過去ではありますが、その記憶を受け継ぎ、他のコミュニティで同じ悲劇が繰り返されないよう抑止力になっていく必要があります。

TORJA読者へのメッセージ。

 もしまだ日系文化会館に来たことが無ければまずは一度来てみてください。歴史を学んだり、特別講演や映画をみたり、ここではたくさんのことができます。きっと日本人、日系カナダ人であることに対して誇りを与えてくれるはずです。ボランティアも募集しておりますので、色々な形で一緒に日系文化会館を作り上げていきましょう。


トロント日系文化会館

(JCCC−Japanese Canadian Cultural Centre)
1964年に会館創立以来、お正月会や四季の祭りなどに代表される様々な文化プログラムを通して多くの人々に日本文化を紹介するとともに、日系カナダ人の歴史体験を伝え、学ぶ機会を提供している。
www.jccc.on.ca/jp/