オンタリオ: ウェランド運河(Welland Canal)|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』

 季節ごとに変化する自然の色彩に魅せられることも一つだが、私はそれに人工の巨大構造物も加えたい。先人たちのロマンがあったから出来上がった技術の結晶を。今回はあの運河にまた会いたくてナイアガラ方面へ走った。

ウェランド運河(Welland Canal)

ポート・ウェラー・ハーバーからオンタリ湖に出て行く船
ポート・ウェラー・ハーバーからオンタリ湖に出て行く船

 トロントから2時間弱でエリー湖岸の港町、ポート・コルボーン(Port Colbourn)に着く。この町とオンタリオ湖側のセント・キャサリンズ(St. Catherines)を水路でつなぐのがウェランド運河。正確には、運河のために造られた細長いポート・ウェラー・ハーバー(Port Weller Harbour)が北端だ。大型船がエリー湖から下ってくるのが見えた。〝下って〟と言ったのはエリー湖の水位がオンタリオ湖より100m高く、船は8個のロック(Locks)に入り平均約14m程水位を下げてもらいながらオンタリ湖に入るからだ。反対にエリー湖に向かう場合は水位が上げられる。

 ウェランドを中心に19世紀から運河の開発が繰り返され1932年に開通した全長43㎞の4本目が現在の運河だ。ロックは当初長さ24m、幅7m。現在は233m、24mと拡張され、数も木製の40箇所からコンクリート製の8箇所へと船のサイズとともに技術改良されて来た。

 橋のたもとにいると船が真近に見える。静々と通過する200m級の船体を目前にするとそれが船なのか得体の知れない黒い壁が動いているのかわからなくなる。人間の創造物である運河を、同じく人間が設計した最大2万6000トンまでの貨物船や重量機運搬船が通過していく。そして当たり前と思える今の私たちの生活に大きな貢献をしているわけだ。

運河のアクションを見学する

ミュージアムに入ると第3ロックがよく見学できる
ミュージアムに入ると第3ロックがよく見学できる

 ウェランド・カナルズ・パークウェイ(Welland Canals Parkway)を走ると各ロックの様子を垣間見ることができる(船さえ来ていれば)。家族で安全に見学するにはセント・キャサリンズ・ミュージアム(St. Catherines Museum & Welland Canals Centre)にある第3ロックのオブザベーション・プラットフォームが最適。高台からロックの役割が確認できる。

オンタリオ湖から第1ロックに入る準備をする船
オンタリオ湖から第1ロックに入る準備をする船

 第1ロックは道路横の小高い土手から見る。水が水門の下から激しく吐き出ている。エリー湖へ向った船が去った後、オンタリオ湖から来た次の船のためにロック内の水面を下げているからだ。待機中の船は狭いロックに正確に滑り込めるよう、船首を水門と垂直にする。船長の姿など見えない。巨体が勝手にあたかも自分の意志で自らをコントロールしながら信号待ちしているようだ。水の濁音が急に静まり水門がゆっくりと開く。信号は青。スルスルと200mの巨体はわずか数分間でロックに吸い込まれて行く。

ウェランド・カナルズ・トレイル (Welland Canals Trail)

QEWの下を抜けるウェランド・カナルズ・トレイル
QEWの下を抜けるウェランド・カナルズ・トレイル

 ポート・コルボーンの運河歩道にフィッシ・アンド・チップスの懐かしい匂いが漂う。サンドイッチを持参していた私も誘惑に負けた。釣りたてのプリプリのカマスにシャキシャキの衣。テイクアウトのコーヒーと一緒にベンチでピクニック。散歩中のお爺さんさんが「僕のは?」とひょうきんに声をかける。笑顔で答える私。

ポート・コルボーンの新鮮なカマス
ポート・コルボーンの新鮮なカマス

 その名の通り、ウェランド運河はウェランド(Welland)の町を通る。初期の運河は現在ボートレースに使われ、巨大船舶はメリット島(Merritt Island)の反対側の運河を通っている。しかし全長42㎞のウェランド・カナルズ・トレイルは美しくエレガントで歴史に富んだこの町の旧河岸線を今もなお包み込んでいる。

細長いハーバー沿いのジョージ・ニコルソン・トレイル
細長いハーバー沿いのジョージ・ニコルソン・トレイル

 ポート・ウェラー・ハーバー(Port Weller Harbour)に足をのばすなら岬まで挑戦しよう。船舶修理工場以外、店もトイレもないので要注意。
 ウェランド・カナルズ・トレイルの一部であるジョージ・ニコルソン・トレイル(George Nicolson Trail)のサインのあるところからスタート。長いハーバーに沿って林の中を約45分歩く。第3ロックで見送った船が後から追いかけてきた。船体がハーバーを出てオンタリ湖に放たれた瞬間、船員たちは歓声を上げただろうか、私のように。どこまでいくのだろう。セント・ローレンス川を北上してモントリオールを目指すのか、それとも遥か大西洋へ出るのだろうか。私の空想は点になって行く船とともに地平線まで続く。