マグダレン諸島 ケベック州の離島、シーフードの宝庫|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』

面積約200㎢の広さではこの島が世界地図に載ることはあまりない。セントローレンス湾のど真ん中にあって、ケベック州に属していながら一番本土から遠くにあるシーフードの宝庫、それがÎles de la Madeleineだ。仏語でイル・デウ・ラ・マデレンと読む。英語ではマグダレン諸島(Magdalen Islands)だがカナダの英語の公式ガイドにはMadeleineと原語が使われている。日本語ではマドレーヌ諸島やマグダレン諸島の名称で知られる。大西洋標準時(Atlantic Time Zone)でトロントと1時間の時差がある。

果てしなく続く白い砂浜

赤茶色の岩壁が島の特徴。 沈殿によって出来た砂岩の上に酸化鉄の層ができてそれが赤茶色となる現象だ。海と空の青の間で原色の赤茶色が観る者を魅了する。砂岩は浸食すると、海水に砕かれ赤い色がぬけて白い砂と変化し、砂丘やビーチを形成していく。海水浴や散歩に適したビーチは1.5㎞から22㎞の長さまで数カ所にあり、全長で300㎞にのぼる。ゴミ一つないエコな砂浜が限りなく続き、慌ただしい都会の生活を忘れさせてくれる。先住民のミックマック族は魚やアザラシの狩猟をしていたといわれるが今は総人口、1万2200人の殆どがアケーディアン(Acadian)。かつてヨーロッパの植民地下のAcadiaから迫害を逃れて来た人たちや難破船の生存者の子孫が多い。人口の5%が少数派のスコットランド系だ。

左:はまぐりの殻 右:赤茶色の砂岩の岩壁が目につく

いうまでもなく漁業が主産業。ロブスター、カニ、ホタテ、タラ、サバ、ヒラメ、鯛、ニシン、牡蠣、ムール貝やハマグリなど収穫時期によって異なるが、捕れないものはないほどシーフードは豊富。旅行中の食事時が楽しくなる。民家や村の佇まいが素朴な割にはレストランはみなお洒落だ。ムール貝が食べたくてあるレストランに入った時のこと。捕獲シーズンでなかったので店が一日にメニューで出せる貝の量が決められていてその日は終了したばかりだった。でも私達の物欲しそうな様子をみて気の毒に思ったのか、特別にと言って出してくれた。この日のフィナーレだった。

マグダレン諸島は砂丘で繋がれた六つの主な島からなり、全体として半月の弧を描くように列んでいて五つの島は完備された道路で連結されている。全長約100㎞という距離も、のんびり島巡りをしながら自然やレクリエーションを満喫できる長さだ。夏期は9月までカヤック、カヌー、ウィンドサーフィング、乗馬、ゴルフ等が楽しめる。ギャラリーやミュージアム、アザラシ観察ツアーなど、年齢に関係なくエンジョイできる夢のデスティネーションといえる。

牡蠣工場の仕分け作業

マグダレン諸島の中枢になっているのがカップ・オ・ムール島(Île du Cap Aux Meules)。行政の中心地で病院、学校、電力会社などが集中している。漁港としては一番大きく、漁獲船だけでなくレジャー用のボートも停泊する。プリンス・エドワード・アイランド(PEI)のスーリ(Souris)港から出る大型フェリー船も5時間の航海後ここに碇を下ろす。空港は隣のアーブル・オ・メゾン島(Havre aux Maisons)にあり、ケベック州の主要都市と空路で繋がっている。

カップ・オ・ムール島で私達家族が泊まったB&Bの御主人が牡蠣工場を経営していたので、見学させていただいた。地元のご婦人方が手作業でサイズの選り分けをしていた。ここからケベック州の市場に出荷される。 私達の娘は3.11の震災直後東北の牡蠣業者に同行してフランスの牡蠣業界を訪問した経験から牡蠣の生産に関心が深い。そんなわけでスタッフの人達と思いがけない交流ができたのはボーナスだった。お土産に牡蠣の殻剥きナイフを3本いただいた。

シーズンをおえたグランド・アントレ島のロブスター船
セントローレンス湾を見下ろすB&B

北のグランド・アントレ島(Île de la Grande Entrée)はケベック州のロブスター・キャピタルとも言われ、年間250万㎏の捕獲量があるという。5月になると130隻近いボートが一斉に漁に出る。私達が訪れたときはシーズンは終わっていたが、手入れの行き届いた漁獲船が見事にずらりと陸に列べられていた。その光景は海に賭ける漁師達の果敢な魂の陳列にもみえ、夕陽に静かに映えて眩しかった。