
本特集では、ナイアガラ·アイスワインの魅力を多角的に掘り下げて紹介する。
極寒の地で生まれる唯一無二のワインの歴史と製法、オンタリオならではの産地の個性、そして注目すべきワイナリーの物語と珠玉の銘柄たち。さらに、アイスワインをより深く味わうためのおすすめの飲み方や意外なペアリングなど、知れば知るほど楽しくなる情報を詰め込んだ。冷やしたグラスに注がれる、あの黄金色の一滴に込められた“物語”を、初夏の一冊として丁寧に紐解いていく。
カナダのアイスワインの歴史はまだ40年

1980年代、オンタリオ州のワイン醸造業者は自州の寒い気候がアイスワインに適しているのではないかと生産に目をつけ始めた。
そのチャレンジを実際に始めたのは1984年で、カナダ産のアイスワインが世界的に成功を定めたのは1991年。フランス・ボルドーで行われた「Vinexpo(ワインとスピリッツの国際見本市)」にて「Inniskillin」のアイスワインが大賞を獲得したのだ。
そのおかげでアイスワインはカナダの顔とも言える商品に成長し、35カ国以上の国に輸出されている。
発祥地はドイツ

ワインの歴史は紀元前6000年から4000年前ごろまでさかのぼる。それに比べるとアイスワインの歴史はまだまだ始まったばかり。
アイスワインが初めて作られた年号を探ってみると、答えは誰に聞くかによって違うようだ。1794年という人もいれば、1830年という人もいる。
急に空気が冷え込んで霜が降りた後のブドウを使い切るために作られたワインだという説や、前年のブドウがあまりにも失敗作だったため放置してウシの餌にするはずだったという話もある。
どちらにしてもドイツで偶然的に生まれた絶品のワインだという事実に変わりはない。
オンタリオ州と世界のワイン名産地との共通点

世界的に有名なワインというとフランスやイタリア、アメリカのカリフォルニア州などを連想する人が多いはず。そこにカナダが入ってくる確率は極めて低いが、実はオンタリオ州の緯度はワインの名産地と緯度が似ている。州でブドウが主に栽培されているナイアガラ半島はフランスのプロヴァンスやイタリアのトスカーナ州、スペインのリオハ、アメリカ・オレゴン州やワシントン州と同じ緯度だ。
緯度とワイン作りの関係

緯度が高いところでは太陽の光が斜めに届く。広い範囲に届く日差しは弱いため、その地域は寒くなる。この適度な寒さと十分な日差しの量がおいしいブドウを育てるために欠かせない。オンタリオのヴィンヤード(ワイン用のブドウを育てている畑)の近くにあるオンタリオ湖とエリー湖、ヒューロン湖も気温調整に貢献してくれている。アイスワインにおいては、夏は暑く、冬はマイナス8℃以下の極寒が続くことが大事。オンタリオの冬を過ごしたことがある人なら、きっとアイスワインに向いている土地だと納得出来るはず。
おいしいブドウを作るオンタリオ特有の地質

オンタリオの地質にもワイン作りに適している理由がある。
オンタリオ湖から北西部にあるヒューロン湖まで続くナイアガラ断崖(Niagara Escarpment)は氷河時代を何度も繰り返し出来たもので、砂や粘土、れき(礫)が石灰岩の上に重なっている。
排水力が高いこの地質は、ブドウが水っぽくなるのを防ぎ、実に十分な栄養とミネラル感をもたらしてくれる。
この特徴は実はワインで有名なフランスのブルゴーニュ地方の地質に似ているそう。
「マイナス8℃以下」を待つ収穫

ワイン用のブドウは通常、酸味と甘味のバランスが整う9月から11月ごろに収穫される。しかし、アイスワイン用のブドウの収穫はまだまだ先。ブドウの味は一つ一つの実が凍るマイナスの気温と暖かい気温が何度か繰り返されることで深まる。水分は糖分に比べて先に凍るため、気温が下がるほど糖度が濃縮される。
オンタリオ州のアイスワイン作りはブドウの栽培から商品の瓶詰めまで州政府のワイン卸商品質同盟(Vintners Quality Alliance)が監督している。この同盟の決まりでは、アイスワイン用のブドウは必ずマイナス8℃以下の気温で収穫されなければならない。気温がもっとも低い真夜中に、手作業または機械で収穫され、そのあとすぐに水圧プレスで絞られる。
発酵の特徴

アイスワイン用のブドウは収穫されて絞られたあと、3ヶ月から6ヶ月の間発酵される。赤ワインや白ワインのブドウの発酵期間はおよそ5日間から21日間だが、アイスワインの果汁は糖度が高いため発酵のスピードが遅く、困難なのだ。出来上がったお酒のアルコール度は10%ほど。そしてその甘さは場合によってはコカ・コーラの2倍とも言われる。
アイスワインはどうして「贅沢」な一杯?

アイスワイン用のブドウを美味しく作るには、ブドウ栽培者とワイナリーの経験と知識、そして覚悟が必要。秋に収穫されるブドウの天敵は雨。土が水を含み過ぎてしまうと、ブドウの味が薄くなってしまう。だがアイスワイン用のブドウが出来る冬には「ひょう」や強風が起こる可能性も。もちろん、実が腐る危険や野生動物に食べられてしまうリスクも負わなければいけない。
さらに、彼らには休日や祝日関係なく、真冬の真夜中の収穫に集まってくれる作業員も不可欠。無数の努力が必要なアイスワイン生産だが、3.5kgあたりの凍ったブドウで作られる量はわずか375ml。テーブルワインだと同じ量のブドウで6、7倍が瓶詰めできると考えると、どうして高価な値がつくのかがよく分かる。
アイスワインに使われるブドウの品種

カナダ産アイスワインの原料のほとんどは白ブドウ。中でも「ヴィダル」という愛称で知られるヴィダル・ブラン(Vidal Blanc)が最も有名。ヴィダルはフランスのコニャックの原料である「ユニ・ブラン」と、フランスとアメリカのブドウを組み合わせた「レイヨン・ドール」の交配種。ヴィダル種のワインにはピーチやアプリコットのフルーティな香りに加えて、キャラメルやバタースコッチなどの風味も感じられる。
ドイツ産アイスワインに欠かせないリースリング(Riesling)もカナダで人気。このブドウはフルーティで酸味が強いことで有名。その他の白バラエティにはシュナン・ブラン(Chenin Blanc)やゲヴェルツトラミネール(Gewürztraminer)が存在する。
見つけたら試してみたい!さらに珍しいアイスワイン

アイスワインというと白が圧倒的に多いが、赤ブドウのものも存在する。この場合、カナダではカベルネ・フラン(Cabernet Franc)品種が使われることがほとんど。「カベルネ」と聞くとボールドな赤をイメージする人が多いが、アイスワインになると明るい、ピンクやオレンジっぽい赤色に変わる。風味はチェリーやクランベリーなどが引き立つ。スタンダードなアイスワインの他にも、スパークリングのアイスワインが存在するのはご存知だろうか。シャンパンのような炭酸の舌触りを好む人におすすめだ。
どう楽しめばいい?アイスワインがさらにおいしくなる飲み方と食事の組み合わせ
まずは、冷やすこと
アイスワインは冷蔵庫で最低2時間はしっかり冷やすことが大事。時間がなければワインクーラーに氷と水を入れて15分冷やせばOK。水を注ぐことで氷が溶け、水温が下がるのでより効果的に冷やすことが可能。アイスワインの飲み頃の温度は10℃。
小ぶりのグラスで飲むのがおすすめ

極甘口のこのワインの粋な飲み方は、小ぶりのグラスに少しだけ注ぐこと。その量はグラスにつき44mlから60mlほど。小さいグラスがなければ、飲み口が広いチューリップ型のグラスや白ワイン用のグラスでもOK。飲み口が広いと、ワインが舌全体に広がるので酸味のあるワインでもバランスよく楽しめる。そしてボウルに丸みがあるものほど、香りをよく引き出してくれる。
飲むタイミングはいつ?

アイスワインは甘さが特徴的なためデザートワインとして振る舞われることが多いが、実はデザートまで待たなくても大丈夫。有名な食事の組み合わせを紹介しよう。
1. 食前酒として

少し塩気のあるオードブルと合わせると食前酒に最適。フォアグラや鶏レバーペースト(パテ)などを選ぶとグッと大人な組み合わせに。前菜にチーズを選ぶならブルーチーズや長期熟成されたチェダーチーズがおすすめ。ワインの酸味が後味をさっぱりさせてくれる。
2. メインディッシュと

アイスワインは意外なことにタイ料理などスパイスの効いたアジア料理との相性が抜群に良い。「ワイン=洋食」と思われがちだが、冷やして楽しむ甘いワインだからこそ、ピリっと辛い料理がよく合う。スパイス好きな人にはタイカレーやインドカレーがおすすめ。魚介類との相性が良いのでさっぱりした料理が好きな人には是非お刺身と試して欲しい。
3. 食後、デザートと一緒に

デザートでアイスワインを出す場合、気をつけたいのはワインがデザートより甘いこと。前菜同様、深みのあるチーズがよく合うほか、苦味のあるチョコレートや甘味を抑えたフルーツパイなども最適。
飲みきれなかったらどうする?

開封したボトルはしっかり栓を閉めて冷蔵庫で保存できる。3日から5日くらいで飲み切るのがベスト。糖度が高いため長持ちはするが、一回ボトルを開けてしまうと劣化は避けられない。どうしても味が合わない、または味に飽きてしまった場合はウォッカやウィスキーと混ぜてカクテルにするとおしゃれ感がさらに増す楽しみ方ができる。
上質なアイスワインってどう選ぶの?
国産ワインの品質を守る「VQA」制度
カナダでワインを買ったことがある人なら一度は目にしたことがある「VQA」という頭文字。これは「Vintners Quality Alliance(ワイン卸商品質同盟)」の略で、国産のワインの品質とブランドを守るために連邦政府が1991年に可決した「Vintners Quality Alliance Act」という法律に基づくもの。
「VQA」制度が導入されているのはオンタリオ州とブリティッシュコロンビア州の2カ所。国産ワインの基準を定めているほか、原産地呼称制度(ワインが作られた土地による差別化を認定するための制度)でもある。例えば、オンタリオで作られるワインはブドウの産地も同州であることが決まり。アペレーション(原産地の呼称)にはナイアガラ半島やプリンスエドワード郡、エリー湖北岸があり、ブドウ栽培地域によって細かく分けられている。
ワイナリーは「VQA」の基準で認証されていなくとも赤ワインや白ワインを生産することが可能。ただし、アイスワインにおいては「VQA」によって認定されているもののみ「Icewine(間にスペースなし)」と名乗ることができる。ブドウ園での栽培方法から瓶詰めの工程まで全て「VQA」の検査官が厳しく監督している。その決まりをいくつか見てみよう。
- アイスワインを作るブドウは「VQA」認定の品種でなければいけない。
- ブドウ栽培はボトルのラベルに表示された通りの場所で行う。
- 収穫されるブドウは枝についたまま、自然と凍ったものでないといけない。
- ブドウの収穫と水圧プレスで絞られる間の気温は必ずマイナス8℃以下。気温が上がってしまった場合、検査官は直ちに収穫をストップさせる義務がある。
- ワインの水増しやブドウの濃色果汁を足すことを固く禁じる。
- 「VQA」のアイスワインの「Brix」数値(ブドウの糖度を表す値)は最低35度に満たしていることが基準(赤ワインや白ワインのブドウの場合、平均は20.0から25.0度)。
- アルコールと糖度は必ず収穫されたブドウから自然発酵されたものでないといけない。
オンタリオ産のアイスワインを飲んでみよう!
オンタリオのアイスワインの産地といえばナイアガラ半島。夏休みシーズン、日帰りでワイナリーに行ってみるのも良いかも知れない。ワイナリーではツアーやテイスティングが楽しめる。お家飲みしたい人にも是非、ローカルのアイスワイン・ブランドをチェックしてもらいたい。
Peller Estates Winery

このワイナリーで有名なのは氷でできたテイスティングルーム「-10Below Icewine Lounge」。名前の通り、マイナス10度の世界でアイスワインを飲むことができる。ツアーの一環でないとこの部屋には立ち入ることができないので、参加したいツアーの内容をしっかり確認してから申し込もう。

Inniskillin Wines

Inniskillinは1975年に創業したカナダ初のエステート(Estate: 自社の畑で栽培から醸造、瓶詰めまで全てを行っている生産者のこと)。
2009年、アメリカのオバマ前大統領がノーベル平和賞を受賞した際、ディナーでこのワイナリーのヴィダル・アイスワインが食後酒に選ばれた。
ペアリングされたのはキャラメルとチョコレートがかかったバナナムースとピーナッツ味のメレンゲだった。
Reif Estate Winery

ユニークなパッケージツアーがある歴史深いワイナリー。それはプロポーズの手助けをしてくれることだ。
250ドルでプライベートツアーとテイスティング、プロポーズが成功した時に祝うスパークリングワインなどがついてくる。
婚約記念日に使えるテイスティングの無料券ももらえるので、忘れられないプロポーズを考えている人は是非ここへ!
Pillitteri Estates Winery

Pillitteriは世界で最も多くアイスワインを生産しているエステートで、カナダ・オリンピックチームの公式ワイン・パートナーでもある。
ここのアイスワインは「Reserve(リザーブ)」と表示されているものが多々。それはブリックス値(糖度)が最低38度という意味で、通常よりさらに甘い。なかなか存在しないピノ・ノワール(Pinot Noir)のアイスワインやビンテージ・アイスワインもあるのでレアものが好きな人は要チェック!
Niagara Icewine Festival


毎年1月になると開催されるNiagara-on-the-Lakeのアイスワイン・フェスティバル。いろんなワイナリーのアイスワインを飲みながら、食事や音楽を楽しめる。家にこもりがちな寒い時期に期待できる特別なイベント。
おうちで簡単に作れる!「VQA」がおすすめする
アイスワイン・カクテル
Icewine Old Fashioned
アイスワイン・オールドファッションド

材料:
- 赤ブドウのアイスワイン1oz (およそ30ml)
- カナディアン・ウィスキー 1oz (およそ30ml)
- 氷
- 飾りつけ用のマラスキーノチェリーとオレンジスライス

シンプルシロップの代わりにアイスワインを使ったカナダスタイルのオールドファッションド。作り方はとても簡単。氷をロックグラスに入れ、アイスワインとウィスキーを注ぐ。ゆっくりかき混ぜて、飾りつけを足したら完成。
Icewine Martini
アイスワイン・マティーニ

材料:
- ヴィダル・アイスワイン 2oz (およそ60ml)
- ウォッカ 2oz (およそ60ml)
- 氷(シェイク用)

シンプルでスッキリとした味わいのカクテル。氷を入れたカクテルシェイカーまたは大きめのグラスにお酒を注いでゆっくりとかき混ぜる。あればマティーニグラス、または好きなグラスににお酒をこしながら注ぐ。飾りつけに凍らした白ブドウをカクテルピックにさすとおしゃれ感アップ。
Canadian in Manhattan
カナディアン・イン・マンハッタン

材料:
- ヴィダルまたはリースリングのアイスワイン 1/2oz (およそ15ml)
- バーボン 1oz (およそ30ml)
- メープルシロップ 1/2 oz (およそ15ml)
- 氷
- 飾りつけ用のマラスキーノチェリー

ニューヨーク発祥のカクテルをカナディアンテイストに仕上げたカクテル。氷を入れたシェイカーまたは大きめのグラスにお酒とメープルシロップを入れ、かき混ぜる。冷やしたグラスに注いでチェリーを飾れば出来上がり。
知れば知るほど面白い!アイスワイン豆知識

豆知識01 「Icewine」はカナダの登録商標

カナダで「アイスワイン(Icewine)」を正式に名乗れるのは「VQA」認証マークがついているもののみ。
カナダ以外ではドイツやオーストラリア、アメリカで「アイスワイン」が生産されているが、いずれも各国において収穫ルールや糖度の基準などが定められている。
豆知識02 世界中で売られているアイスワインはほとんどカナダ産

世に出回っているアイスワインの90%はナイアガラ地域で作られている。気候との勝負であるアイスワイン作りは発祥地ドイツでさえ難しいと言われている。
豆知識03 アイスワインは日本でも作られている!?

日本では北海道池田町の十勝ワインでアイスワインが作られている。なんとカナダ同様、自然に凍ったブドウで作られている。原料のブドウは町が独自に開発した「山幸」という品種。北海道以外では山形や山梨、長野でも作られているが、ブドウは人工的に凍らせたものだ。
豆知識04 カナダ国外では偽物のアイスワインに注意

中国で偽物のアイスワインがニュースになり始めたのは2004年ごろ。2011年には中国で発売されているアイスワインの80%がフェイクだと報道があった。
その作り方は水と砂糖、蜂蜜を混ぜたものとかなりずさんで、「良い偽物」でも白ワインに砂糖を足したものだそう。
豆知識05 フェイクと本物のボトルを見分けるコツ

カナダ国産のアイスワインは必ず綴りが「Icewine」と表記されている。そして「VQA」のロゴが付いている。
「VQA」認証のアイスワインには必ずブドウの品種と生産者が書かれてあることも覚えておこう。
おわりに

既に高価でラグジュアリーの象徴であるアイスワイン。しかし気候変動の影響でこれからさらに希少になる可能性がある。
2019年から2022年の間、オンタリオ州でのアイスワイン生産は激減。2021年から2022年の間だけでも40万リットル減少した。暖冬と大寒波、どちらが先に来るか分からない最近の気候の変化はこれからのアイスワイン産業を変えていく可能性も。

世の憧れであるアイスワインだが、飲む機会があれば地球温暖化のない世の中こそ本当のラグジュアリーだということをきっと気づかせてくれるだろう。

