子どもの頃の冬への憧れと情熱から生まれた小さなイグルー。今では44部屋を有する特別なアイスホテルへと成長しました。そのアイディアがどこから生まれたのか、アイスホテルはどのように作られるのか、本当に氷のホテルは快適なのか、様々な秘密に迫りました。
冬への憧れと好奇心が生んだアイスホテル
アイスホテルは私個人の冬に対する情熱から生まれたものです。子供の頃から冬がとても好きで、様々なウィンター・アクテビティーをしてきました。その中でイグルー(先住民のエスキモーがつくる雪の家、日本のかまくらに似ている)の作り方を学び、それ以来毎年イグルーを作り、雪の家の中で遊んだり、寝たりすることが冬の定番になりました。今では私の息子たちと一緒に作り家族全員で楽しんでいます。
そんな中私は一度職を失いました。そして「仕事がないなら創るしかない」と思い、旅行者の為のイグルー村をケベック郊外で作り始めました。それはイグルーで暮らす先住民の生活体験を提供するものでした。その仕事を始めた1年目の冬の終わりに、スウェーデンにあるアイスホテルの話を聞いたのです。いい意味でとても衝撃的でした。すぐにスウェーデンに飛び、経営者や関係者と話をし、その技術を学び、ケベックにオープンする話をつけました。
毎年生まれ変わるアイスホテル
毎年新しく建設するアイスホテルのテーマは約1年かけて計画されます。しっかりと時間に余裕を持つことで、これらのテーマがアイスホテルの建築デザインなどにもしっかり反映されていきます。2015年は15周年記念として「A Place of Time」というテーマで造っていきます。アニバーサリーを意識したデザインとして、現在という時間軸の中心で時の流れを意識してもらえるように、近未来的な部屋、中世ヨーロッパ風の部屋、そして日本の侍時代をイメージした部屋といった感じでお客様がちょっとしたタイムトラベルを味わえるように現在・過去・未来その全てを氷の魔法で表現していきます。
アイスホテル建設の秘密
アイスホテルの建設開始時期は通常1週間以上-5℃以下の日が続く頃から造り始めます。それは自然に大きく左右されますが平均として11月末から12月半ば頃です。ケベックの雪は粉雪なので水分が足りず形を作ることが難しいので、まず始めにスノーマシンで特別な雪を作ります。全体量として約3万トン以上の雪を使い、セクション毎に建設していきます。雪を金型に積もらせ圧縮し、ドームを造っていきます。雪の壁は約1.2メートルから2.4メートルほどの厚みがあり、数日間置くことによって雪が固まったら型を抜いて次のセクションを造っていきます。氷に関しては純水から氷を作っている業者に発注し、約100kgのブロック、またはシートの形で搬送されてきます。全体で500トン以上の氷を使い、家具や小物雑貨、氷像、そして壁を切り出していきます。これらの氷はアイスホテルにとって非常に大切な要素で、雪で作られたドームや部屋を支え、装飾する役割を担っています。この氷がイルミネーションなどで彩られ幻想的な雰囲気を演出してくれます。
アイスホテル建設は気候との勝負
アイスホテルにとって最大のチャレンジはやはり天候・気温です。もちろん雪像や氷像を作ったり、雪で建物を建てる中で難しい局面もありますが、その技術は毎年向上しています。ですが、例えば11月25日ぐらいから造りはじめるのと、12月10日ぐらいから造りはじめるのではやはり緊張感もプレッシャーも大きく変わってきます。私たちは雪や氷を扱うプロフェッショナルですが、それらを野外で扱うので、コントロールできない天候は今後とも私たちにとって困難として立ちはだかることは多々あるでしょう。
アイスホテルの楽しみ方
私が皆さんに考えて欲しいアイスホテルの形はただの「ホテル」ではありません。何か特別なことを体験できる「イベント会場」、特に日中は大きな「ギャラリー」なのです。午後12時から5時半までの間はガイド付きのツアーでアイスホテルを見学でき、客室は午後8時まで一般に公開されています。宿泊客は午後9時からそれぞれの部屋に入ることができます。少し遅いですが、この1時間が宿泊されるお客様の為に部屋にウィンターマジックをかける時間として必要なのです。
アイスホテル滞在でのポイントは着込み過ぎないことです。汗をかいてしまうと冷えてしまいますので、替えの肌着や靴下をしっかり用意して頂きたいです。室内は平均で-5℃から-3℃ほどに保たれています。寝る場所は氷の上ではありません。氷で出来たベッドフレームにマットレスが設置してあります。また用意される寝袋は-30℃でも問題なく眠れるものですのでとても快適に過ごすことができます。
日々のウィンターマジックを守るため
アイスホテルは雪と氷、つまりは全てが水分で造られた生きた建物です。シーズンを通して様々なメインテナンスを行っています。特に氷像や家具などは何度か作り直したりします。また一番重要なのは床です。人の往来で滑りやすくなってしまうので毎朝新しく粉雪を敷き、整備をしています。アイスホテルの強度に関しては心配はありません。3月にシーズンが終わっても最低2週間以上は安全性が確保されているので、シーズン中のまだ寒い時期のアイスホテルはとても安全です。閉館後ホテル内にある電機の配線やベッドのマットレスなど雪と氷以外のものを全て取り出すために1週間ほどかかりますが、これも最低2週間以上余裕を持たせたスケジュールにしています。寒い冬ほど建物の管理は簡単で、暖かい冬には苦労することも多少増えますが、私たちは十分に雪と氷、そしてケベックの冬を理解しているので問題ありません。
読者へのメッセージ
日本にも四季があり、緯度も日本北部とあまり変わりませんので、皆さんが怖がるほどケベックの冬は厳しくないと思います。寒いからと室内にこもらず、しっかり暖かい服装をして、冬にしか楽しむことのできないアクテビティーを満喫してください。他の場所では体験できないことがアイスホテルではできると思います。私たちのウィンターマジックをぜひ体験してください。どうしても寒さが気になるならアイスバーで私のお勧めアイス・マティーニを飲んでください。氷のグラスに入っているのでしっかり冷えていますが、美味しくて体もポカポカになりますよ。
Hotel de Grace(Ice Hotel)
9530 Rue de La Faune, Québec 418-623-2888今シーズンで15周年を迎えるHotel de Grace。毎年多くの観光客が、この氷で造られたホテルに泊まろうと世界各地からやってくる。全部で44ある客室はもちろん、ホテル内にあるレストランやバーも全て氷でできている。また、氷でできた教会では結婚式を挙げることができ、他にもアイススライダーや犬ぞり体験など冬ならではのアクティビティーも充実した、大人も子供も楽しめるホテルだ。
2015年のシーズンは1月5日から3月22日まで。家族向けやロマンチックな恋人たち向けなど、自分にあったプランが選べるのも魅力的。
今年は15周年を記念してアシカの赤ちゃん観察ツアー付きのプランもあるのでホームページを要チェック!!
Jacques Desbois
子供の頃からケベックの冬を愛し、様々なウィンター・アクティビティーを行ってきた。1996年にイグルー村建設を始め、エコツアー会社を興した。間もなくスウェーデンのアイスホテルのことを聞き、ケベックでの建設を決意。数年の準備期間を経て2001年に2001年にカナダで初のアイスホテルをオープンした。