【夏公開予定『Good Boy』】トロントで日本人が「自分らしく・男らしく」Kennedy Kaoさん×乃木朋彦さん

【夏公開予定『Good Boy』】トロントで日本人が「自分らしく・男らしく」Kennedy Kaoさん×乃木朋彦さん

2023年夏に映画祭に出品し、オンラインで公開予定の短編映画『Good Boy』。トロント大学で学ぶ日本人留学生が、異国で恋愛や人間関係、自分らしさに悩む様子を描く。監督を務めるのは、トロント大学を昨年卒業したKennedy Kaoさん。2020年に開催されたモントリオール・ニュー・シネマ国際映画祭では彼の作品『Danica’s Mom』がグランプリを受賞するなど、若手ながら注目の映画監督だ。

今回Kennedyさんとタッグを組み『Good Boy』のプロデューサーを務めるのは、2018年にワーキングホリデーでカナダに来た乃木朋彦さん。現在はカメラマンとして活躍している。

今回のインタビューでは、カナダで暮らすアジア人の孤独に焦点を当てた『Good Boy』の見どころを聞いた。

ニュージーランドで映画を学び、日本で働いたのちカナダへ
写真や映画制作に携わる夢と海外への憧れが原動力に

Q 乃木さんの経歴について教えてください。

乃木さん: 2018年11月にカナダに来ました。ニュージーランドの大学で映画を勉強しましたが、映画に関わる仕事があまりなく一旦日本に戻りました。東京で映像会社のADとして働きましたがとても忙しい会社だったので数か月でそこは離れ、その後はコールセンターで翻訳の仕事をしました。ただ、写真や映像、物語を書くこと、映画に携わりたいという思いがありましたし、違う国に行ってみたい気持ちもありました。そこでワーキングホリデーでカナダに来ました。

写真や映像に関わるフリーランスとして働き他の仕事はしないと決めていたので、最初の3、4か月は職がなかったです。ただ、コネクションをつくるイベントには参加していました。幸運にも業界の友人をすぐにつくることができましたが、フリーランスとして職を得て給料を得るにはなかなか時間がかかりました。仕事は企業に4~6か月雇われることもあれば、1回きりのミュージシャンのコンサートに写真を撮りにいくこともありました。

©『Good Boy』公式ホームページより

Kennedyに出会ったのは2018年に行われたトロントでの映画業界でのイベントです。

この映画で、私は初めてプロデューサーを務めています。予算の管理や広報等も行っています。お金に関わる部分を担当するのは初めてですが、ただ売り込むのではなく「なぜこの作品が面白いのか」「なぜこの作品を広める必要があるのか」を説明するのが私の仕事だと思っています。

カナダで暮らす日本人の孤独を描く『Good Boy』
背景にあるのは監督自身のバックグラウンド

撮影に使われたシアター

Q 『Good Boy』の制作に至る経緯について教えてください。

Kennedyさん: 映画は、トロント大学で学ぶ日本の留学生が、恋愛やコミュニティーなど、繋がりをつくることに苦労している様子を描いています。この物語の背景には、私が実際にトロント大学で学び、その中でたくさんの日本人の友人と過ごした経験があります。彼らが全く異なる国、新しい生活スタイルで日本にいる家族や友人を恋しく思い、言語の壁も苦労しながら乗り越えようとしていたことを覚えています。そういった様子を描きたいと思い、今回の映画の制作に至りました。

トロント大学はキャンパスも広くとても大きな大学です。たくさんの人が世界中から集まっているので、絆や人との繋がりをつくるのがとても難しいのです。映画は、そういった中で得られた経験に基づいています。

トロント大学の機材部屋

Q 俳優の方は実際のトロント大学の学生さんでしょうか?

トロント大学構内のカフェ
トロント大学

Kennedyさん: シンジ役の俳優は、トロント大学の卒業生です。私は映画に精通していない方をキャストに迎えるのが好きで、近しい友人たちをキャストにして映画を作りました。俳優の方もいます。

Q なぜ今回の映画ではアジア人の孤独をテーマにしたのでしょうか?

Kennedyさん: 私はカナダで生まれましたが、イタリア人のコミュニティーの中で育ちました。違う文化、違う人の中で育ち、私は唯一のアジア人でした。私は自分の文化のバックグランドとのつながりがなかったです。その中で、映画をつくることは自分のアイデンティティを掘り下げるための良いツールになりました。

最初につくった映画は自分のフィリピン人の母親に関する映画で、自分のアジアのアイデンティティを模索するのに役立ちました。私の個人的な経験、抑圧されたアイデンティティを探したいという思いがアジア人をテーマにした理由だと思います。

私は映画製作について自分で学びました。もちろん最初につくった作品はひどかったですけれど、そのプロセスも踏まえて楽しかったです。アジア人に関する映画を作る前はコメディ映画を作っていました。ただ、2019年に母親に関する映画をつくったあとに、自分がどのような映画をつくるべきなのか気づきました。主流のメディアでは表現されていない部分なので、そのときから北米のアジア人に関する映画を作っています。

「男らしさ」とは何なのか
カナダと日本、西欧と東洋の性に対する考え方

Q カナダは日本と比べればセクシャルマイノリティに対する理解が進んでいると思いますが、カナダのセクシャルマイノリティについてどう思いますか?

Kennedyさん: カナダはセクシャリティに関してとても先進的です。特にトロントで過ごしていれば新しい文化も受け入れやすい。カナダはセクシャリティに関してオープンだし、それはいいことだと思っています。

乃木さん: 日本は多様性という観点で遅れていると思います。HeやSheなど自分を表現する代名詞は、カナダは日本に比べてはるかに多様です。私の日本人の友人はゲイですが、彼には「カナダなら受け入れてくれる」という視点があります。

Q 『Good Boy』では主人公のシンジが「男性らしさ」に悩む様子も描かれています。「男性らしさ」に焦点を当てたのは初めてですか?

Kennedyさん: 男性らしさを探求したのは初めてです。ただ、「男らしさ」を扱うというのは慎重になりました。私は、「男らしさ」という考え方には問題があると思っています。ストーリーの中で、シンジはどうしたらもっと男らしくなれるかということに悩んでいます。最も大切なことは、どう振る舞うべきかではなく、どうすれば最も居心地よくいられるかだと思っています。男らしく、女らしくいなければいけないということはない。

Q 日本とカナダ、それぞれの「男らしさ」についてどう思いますか?

乃木さん: 私自身も「男らしさ」について考えたことがあります。私の父親は冗談が好きな人だったので、自分にとってはそれが理想の姿のようなものでした。しかし、実際に冗談をいつも言って私自身はそれに満足していたのですが、「冗談ばっかり言ってないで、もっと男らしくふるまったほうがいいよ」と言われたことがあります。

Kennedyさん: 「男らしく振る舞え」という点で、東と西で共通点もあると思います。特に西欧では、男性は積極的でリードするような独立している姿が求められます。日本人のシンジの場合、彼は口数が少ないんです。友達から、何を考えているのかわからないと言われてしまうような人で、消極的です。そのような性格に至った要因はいくつもありますが、そのうちの一つは東の男らしさというカルチャーから来ていると思います。

乃木さん: Kennedyが話すように、カナダでは男性が男らしさや独立していることが求められるのと同時に、女性も独立して強くあることが求められていると思います。日本を含めた東側では、まだ伝統的な価値観が根強く、男性が家計の収入の大半を稼ぐべきで女性は家事や育児をするべきだというとても保守的な意見を耳にすることが多い。それは、西と東の性に関するカルチャーの違いなのかなと思います。

Kennedyさん: ただ、映画監督として、必ずしも何か問いに答える必要はないのかなと思います。私は問いに答えることよりも、問いを投げかけることに責任があります。実際私は「男らしさ」の是非などに対して、答えは持っていません。ただ、そういった人々の様子をただ純粋に描くことが最大の使命であると思っていますし、だから映画を製作しています。

Q シンジの孤独感や苦しみはどこにありますか?

Kennedyさん: シンジは「自分がどうあるべきか」「自分をどのように表現するべきか」という点において苦しんでいると思います。彼はとても孤独なキャラクターですから。「男らしさ」にも苦しんでいるとも言えると思います。ただ、その下にあるのは、彼は彼らしく自然にどうあるべきかという苦しみです。この悩みは世界共通のものだと思います。文化的なバックグラウンドは、私自身にも大きな影響を与えました。彼の苦しさは、男らしさという一つの側面に限ったことではないと思います。

アジアの人々はもちろんですけれど、バックグランドに限らずすべての人がシンジの苦しさに共感してくれることを願っています。

アジア人の抱える孤独の探求は続く海外のクリエイティブ産業への挑戦

取材中の様子

Q Kennedyさんの映画の特徴は何だと思いますか?

乃木さん: 彼は多くの時間を制作に使います。映画に直接出てこないような細かい設定やバックグラウンドも彼は時間をかけてつくります。その彼の映画に対する愛や楽しさが観客にも伝わるのではないかと思います。

Kennedyさん: 一つ言えるのは、私は映画の制作を楽しんでいるということです。他の映画監督と話すと、自分の映画を見るのは変な感じがするという意見もありますが、私はときどき自分の映画を楽しむために観返したりします。映画監督としての責任は映画を愛することです。

映画の制作は、私にとって人々や自分自身の難しい側面を探求するものです。北米にいるアジア人にとって孤独はとても重要なものだと思いますから、今回のようなアジアの孤独についてこれからも探求していきたいです。

乃木さん: クリエイティブ産業でフリーランスとして働くというのは、日本でも海外でも大変なことです。ただ、日本人は他の国に受け入れられやすかったり差別を受けにくかったりと、有利な位置にいます。日本はもちろん居心地のいい国ですが、そこから飛び出て挑戦するのもまたいいのではないでしょうか。

“Good Boy”のプロモーション・ショートフィルム『Shinji and Akiko Spend an Afternoon Together』をYouTubeでチェック!

■ 『Good Boy』公式Website: https://www.goodboyfilmproduction.com/
■ Gofundme: https://gofund.me/e7c7c578
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