カナダ出身の著名映画監督|特集「ハリウッド・ノース-カナダと映画」

カナダ出身の著名映画監督|特集「ハリウッド・ノース-カナダと映画」

 大ヒット作の裏にカナダ人あり!ハリウッドをはじめ世界中で活躍している映画監督にカナダ出身者が多いことはご存知だろうか。世界的大ヒット作『タイタニック』『アバター』で知られるジェームズ・キャメロン氏をはじめ、『ゴーストバスターズ』のライトマン氏、ネットフリックスで話題になった人気ドラマ『ストレンジャー・シングス』のショーン・レヴィ氏などのカナダ人監督が目覚ましい活躍を遂げている。

Atom Egoyan

Photo by Canadian Film Centre
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Photo by Bruno Chatelin
Photo by Bruno Chatelin

 エジプトのカイロで生まれ、バンクーバーで育ったアトム・エゴヤン氏。アルメニア系エジプト人の両親のもとに生まれる。「アート・ハウス」と呼ばれる、芸術的かつ実験的である映画ジャンルを代表するカナダの監督として知られている。

 監督としてデビューを果たしたのは1984年。1987年に公開された『ファミリー・ビューイング』という映画はトロント国際映画祭(TIFF)で初公開され、賞を受賞するなりすぐに話題作になった。1994年に公開された『エキゾチカ』は、カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟により授与されているFIPRESCI賞を受賞。これをきっかけに、彼は国際的にも名を知られるようになった。

 ストリップ・クラブを舞台にしたこの作品は、子供を亡くした父の姿が描かれている。撮影もトロントで行われたのだとか。また、この作品には、ここでも紹介しているサラ・ポーリー氏も女優として出演している。中でも彼の有名作品として知られるのは1997年公開の『スウィート・ヒアアフター』。この作品はカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞、さらにアカデミー賞では脚色賞と監督賞を受賞するという偉業を成し遂げた。トロント大学を卒業したエゴヤン氏。大学では国際関係を勉強していたのだとか。

David Cronenberg

Photo by George Pimentel
Photo by George Pimentel

 トロント出身のデビッド・クローネンバーグ氏は国際的にも知られている映画監督だ。一般的な映画館などでは流通しない「アンダーグラウンド映画」というジャンルの映画において経験を積んだクローネンバーグ氏。デビュー作は1969年に手がけたサイレント映画。皮肉なことに作品名は『ステレオ』だ。制作当初、この映画には音声が含まれる予定だったものの、カメラが立てる音が大きすぎたため、サイレントになったという逸話もある。

 以来、50年ものキャリアを歩んできたクローネンバーグ氏は、ハリウッドでも活躍。中でも人間の体に焦点を当てた「ボディ・ホラー」という独自のスタイルの映画で知られている。1996年に公開された『クラッシュ』は彼の作品の中でも物議を醸す作品として広く知られている。この作品は、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。この賞は、受賞作品がないという年もあるまさに「特別」な賞であり、『クラッシュ』はその「大胆さ」を評価され受賞に至ったそうだ。

 クローネンバーグ氏自身もまた、1999年のカンヌ国際映画祭で審査委員長を務めた。2006年には同映画祭より功労賞受賞。カナダ国内においても、国に多大なる貢献をした人として「カナダ勲章」の「オフィサー」を2002年に、そして同勲章の最高位にあたる「コンパニオン」を2014年に受賞している。

Denis Villeneuve

Photo by Gage Skidmore
Photo by Gage Skidmore

 ドゥニ・ヴィルヌーヴ氏は、ケベック州出身。ケベック大学モントリオール校を卒業している。大学に在籍していた当初は科学の勉強をしていたものの、後に関心を失い、大胆にも映画へと方向転換したのだとか。彼の長編映画の作品第一号である『Un 32 août sur terre(August 32nd on Earth)』は1998年に公開され、カンヌ国際映画祭でも上映された。2013年公開の『プリズナーズ』や2015年公開の『ボーダーライン』もアカデミー賞にノミネートされるなど、どの作品も国際的に高く評価されている。

 すっかりアカデミー賞の常連であるヴィルヌーヴ氏。2017年に公開され、日本でも話題になったハリウッド作品『メッセージ』はアカデミー賞の最優秀作品賞にノミネートされた。この作品には、エイミー・アダムスやジェレミー・レナーなど、人気俳優が多数出演している。人気SF小説が原作となっている『ブレードランナー 2049』もまた人気作だ。この作品ではカナダ出身の人気俳優、ライアン・ゴズリングが主演を務めている。

 現在、ヴィルヌーヴ氏は『デューン(Dune)』を製作中。新型コロナウイルス感染拡大により、彼自身の制作活動も中断されたのだとか。インタビューでは「撮影スケジュールが完全に崩れた」と戸惑いを隠せないでいたと同時に、モントリオールとロサンゼルスにいるスタッフの間でリモートで作業を進める難しさを指摘した。『デューン』は今年の12月に公開される予定だ。

James Cameron

Photo by Gage Skidmore
Photo by Gage Skidmore

 世界中でその名を知られている映画監督、ジェームズ・キャメロン氏はオンタリオ州出身。1981年に『殺人魚フライングキラー』で長編映画監督としてデビューして以来、『ターミネーター』シリーズや『エイリアン2』(1986)など誰もが知る名作を多数手がけてきた、映画界の巨匠だ。1997年に公開された『タイタニック』はその中でも歴史に残る名作なのではないだろうか。それまでに打ち立てられた興行収入の記録を次々に塗り替えた『タイタニック』。1998年のアカデミー賞では、なんと14もの賞にノミネートされ、そのうち11もの受賞するという偉業を成し遂げた。

 その後、キャメロン氏は制作の軸をドキュメンタリーへとシフト。中でも、「海」に関するドキュメンタリーを多く手がけるようになった。『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』(2003)では実際のタイタニック号の残骸の検証をしたり、当時の客船の内部をCGを駆使して再現するなど、テクノロジーを使って当時の事故を検証している。また、2005年に公開されたドキュメンタリー『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』では、海底に住む奇妙な生物に焦点を当てている。

 その後、2009年に公開された『アバター』もまた、様々な記録を更新し、世界的にも社会現象となった。2022年には『アバター2』、そして2024年には『アバター3』が公開される予定だ。

Jean-Marc Vallée

Photo by Alan Langford
Photo by Alan Langford

 ジャン=マルク・ヴァレ氏はケベック州出身の映画監督。フランス語の映画と同時にハリウッド作品も手がける、マルチリンガルな映画監督だ。また、ヴァレ氏は短編映画の達人としても有名。中でも、1990年代は特に短編映画で脚光を浴びた。

 彼の長編映画デビューとなった作品は1995年に公開された『Liste Noire(Black List)』だ。自身の初めての長編映画でありながら、カナダの中でも特に名誉ある映画賞、ジニー賞にノミネートされたこともあり、当初から注目を浴びていたことがよく分かる。自身の経験をもとに制作された2005年の『C.R.A.Z.Y.』は国際的にも認められ、アカデミー賞でも外国語作品賞にノミネートされた。2005年のTIFFにて初上映され、さらには賞も受賞している。この作品はケベックで撮影され、15年経った今でも、ケベックで制作された映画の中で特に成功を収めた作品として歴史に残っている。

 また、2014年に公開された『ダラス・バイヤーズ・クラブ』は彼の作品の中でも特に知られている。1980年代を舞台にしたこの作品は、マシュー・マコノヒー演じる主人公がエイズを患い、まだエイズが広く理解されていない世の中でもがき苦しむ姿が描かれている。この作品は、アカデミー賞の主演男優賞、助演男優賞、そしてメイク・ヘアスタイリング賞の三つの賞を受賞。また、映画の他に、HBOのテレビドラマをも手がけるなど、まさにマルチな監督だ。

Sarah Polley

Photo by Ross
Photo by Ross

 トロント出身のサラ・ポーリー氏は女優として活躍していた母親のもとに生まれる。幼少期は子役として活躍し、その後に映画監督へと転身した経歴を持つポーリー氏。子役としてのデビューは彼女が6歳の時で、役者としての活動を含めると、彼女のキャリアは30年以上に及ぶ。子役の頃はディズニーの映画に出演した経歴もあり、ここでも紹介されているアトム・エゴヤンやデヴィッド・クローネンバーグの作品にも出演した経験があるそうだ。

 女優としても活躍していたポーリー氏が監督業を本格的に始動したのは1999年のこと。同年に公開され、監督としての二作目である『Don’t Think Twice』ではトロント国際映画祭でプレミア上映された。2001年に公開された短編映画『I Shout Love』もまた、同年のトロント国際映画祭にて上映され、2003年にはジニー賞を受賞。2008年には『アウェイ・フロム・ハー』(2006)が8つのジニー賞を受賞し、さらにはアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされるなど、監督になってからもメキメキと成長を遂げていることが明らかだ。

 2012年に公開されたドキュメンタリー『Stories We Tell』はトロント国際映画祭をはじめとする数多くの国際映画祭で上映され、カナダにおける映画賞も多数受賞した。女優としてのキャリアも捨てることなく、2009年には女優として『ミスター・ノーバディ』に出演。マルチな才能を持つ彼女の活躍はこれからも期待される。

Shawn Levy

Photo by Gage Skidmore
Photo by Gage Skidmore

 ショーン・レヴィ氏はモントリオール出身。日本でも大人気のコメディ映画シリーズ『ナイトミュージアム』を手掛けたことでも知られる。『リアル・スティール』(2011)や『インターンシップ』(2013)も彼の作品だ。

 そんなレヴィ氏は、イェール大学を卒業。1986年から俳優としてのキャリアをスタートしたものの、後に裏方の監督業に興味を示し、南カリフォルニア大学の大学院で勉強を始めたのだとか。監督としてデビューしたのは1997年のこと。以来、前述の作品を筆頭に多数のヒット作を出している。

 また、ここでも紹介している他のカナダ人の監督とも複数回にわたり手を組んだ経験もある。ドゥニ・ヴィルヌーヴ氏が監督を務めた『メッセージ』(2016)にはプロデューサーとして制作に携わっている。さらに、レヴィ氏はニコロデオンやディズニーとも手を組み、子供向け作品の制作にも携わっていることで知られる。

 最近では、ネットフリックスの大ヒット作品『ストレンジャー・シングス』のエグゼクティブ・プロデューサーも務めている。同じくネットフリックスの中でも少ないエピソード数やエピソードあたりの時間の短さなど、テンポの良さで知られる『ノット・オーケー』でも監督とエグゼクティブ・プロデューサーの両方を務める、人気監督だ。

Ivan Reitman

Photo by Canadian Film Centre
Photo by Canadian Film Centre

 ユダヤ系でチェコスロバキア生まれのアイヴァン・ライトマン氏。第二次世界大戦後、反ユダヤ系の勢力から逃れるべく、家族と共に1950年にカナダへ移住した。オンタリオ州ハミルトンにあるマクマスター大学を1969年に卒業し、1971年に監督としてデビュー。しかし、デビュー当初の作品はどれも評価が高くなかったという。

 そんなライトマン氏がようやく名を知られるようになったのは1979年のこと。『ミートボール』という名のコメディ映画がアメリカで大ヒット。当時、カナダで制作されアメリカで公開された映画の中で最高の興行収入を記録した。この作品はジニー賞をはじめ、複数の映画賞も受賞している。この作品には若き頃のビル・マーレイも出演。彼が有名になるきっかけとも言える作品なのではないか。ビル・マーレイはその後も、ライトマン氏が手掛けた映画に多数出演。1981年公開の『パラダイス・アーミー』や1984年公開の『ゴーストバスターズ』なども含まれる。

 その中でも『ゴーストバスターズ』はライトマン氏が手掛けた中でも特にヒットした作品だ。その年の北米における興行収入で1位を記録し、20年以上経った今でも続編が公開され続けている。なお、2021年には息子のジェイソン・ライトマン監督による『ゴーストバスターズ/アフターライフ』が公開される予定だ。

Norman Jewison

Photo by Canadian Film Centre
Photo by Canadian Film Centre

 カナダ出身の名監督としてその名を知られる、ノーマン・ジュイソン氏。1962年に監督デビューして以来、50年にも及ぶキャリアで20以上の作品を手がける。

 当初はテレビ番組の裏方で勤務していたというジュイソン氏。映画監督として彼の名前が知れ渡るようになった作品が1967年の『夜の大捜査線』。1968年のアカデミー賞で7つの賞にノミネートされ、作品賞や主演男優賞をはじめとする5つの賞を受賞するという偉業を成し遂げた。その他にも、アンドリュー・ロイド・ウェバー原作の有名ミュジーカル『ジーザス・クライスト・スーパースター』の映画版(1973)や『屋根の上のバイオリン弾き』(1971)などを手がける。『屋根の上のバイオリン弾き』も3つのアカデミー賞を受賞。ジュイソン氏は自身の作品でアカデミー賞に40回以上もノミネートされ、12回受賞している。

Photo by Canadian Film Centre
Photo by Canadian Film Centre

 また、彼の作品には世界的にも有名な名優も多く出演。中には、アル・パチーノ、ブルース・ウィリス、デンゼル・ワシントンなどの名前も含まれている。さらに、自身のキャリアと国への貢献を称えられ、1982年にはカナダ勲章の二番目のランクにあたる「オフィサー」を受勲。同勲章の最高ランクの「コンパニオン」をちょうど十年後に受勲している。

Deepa Mehta

Photo by  DONOSTIA KULTURA
Photo by DONOSTIA KULTURA

 ディーパ・メータ氏はインド系カナダ人の映画監督。主に、ドキュメンタリーを専門に手がける。インド出身のメータ氏は、結婚したのをきっかけに、1973年にカナダへ移住。1991年に初めて手掛けた長編映画『Sam & Me』はカンヌ国際映画祭で上映され、同映画祭の新人監督賞にあたる「カメラ・ドール」では2位を獲得するという偉業を成し遂げた。

 現在も多くの長編ドキュメンタリーを手がけ、中でも『Fire』(1996)『Earth』(1998)『Water』(2005)の三部作で知られる『Elements』は特に有名な作品。この三部作は、三作合わせて9度もジニー賞にノミネートされた。一作目の『Fire』はトロント国際映画祭でプレミア上映された。見合い結婚から抜け出せない二人の女性の姿が描かれている。二作目の『Earth』では、インドの独立や異なる宗教の摩擦など、緊張感ある時代を背景に人間関係が描写されている。三作目の『Water』ではイギリスの統治下にあったインドを舞台に、社会的地位が低いとされている未亡人の姿が描かれている。

 『Earth』と『Water』の二作はそれぞれアカデミー賞の国際長編映画賞にノミネート。『Water』はトロント国際映画祭のオープニングの作品として上映されるなど、三部作を通じて高い評価を得たことが窺える。以来、トロント国際映画祭でも彼女の作品は多数上映されている。