ニューノーマル時代のカナダ・ローカルビジネス「不動産」|カナダ・ニューノーマルの時代

 第二波の懸念はあるが、売買件数は減少、平均売買価格に関しては去年同様、もしくはインフレ率相当の値上がりと予想。すでにコロナ渦でも不動産売買を可能にするシステムが確立したので、不動産取引に与える影響はそれほど大きくない。

シリーズ: ニューノーマル時代の・カナダ・ローカルビジネス
 カナダでもCOVID-19パンデミックによって人々のライフスタイルや働き方、価値観などが大きく変わってきている。ニューノーマル時代に合わせてローカルビジネスも大きな変革を求められている。本企画はシリーズとして様々なローカルビジネス・企業・業界に目を向けて彼らの取り組みや考えに迫っていく。

ーコロナが落ち着きを見せつつありますが、不動産の物件選びや内見、購入・賃貸の方法などはコロナ前・後でどのように変わりましたでしょうか?

オンライン化が浸透

 幸い、不動産業界は元々テクノロジーの利用が奨励されており、近年では契約書などもDocuSignなどを使って、オンラインで署名したり、オファーについても従来のように三者(売り手・売り手エージェント・買い手エージェント)が会って、契約内容の交渉をするやり方から、メールでのやり取りが増えてきていました。ただ、従来は不動産購入を考えているお客様とは、まずは会ってお話をしていましたが、コロナ後はソーシャルディスタンスのため、すべてメールや電話またはズームなどのオンラインでのコミュニケーションと書類のやりとりとなりました。

 また、不動産の弁護士は、従来は不動産購入に関するす書類は、購入者が弁護士事務所に出向いて、そこで署名する必要がありましたが、コロナ後は弁護士もオンライン面談で購入者の身元を確認し、書類も宅配でのやり取りが可能となりました。

新しい見学方法「バーチャルショーイング」

 また、今回のコロナによる影響で、ソーシャルディスタンスの問題や不動産見学の立ち入りを規制しているコンドミニアムなどもある状況下では、「バーチャルショーイング」という新しい見学方法が可能となりました。これは、購入者とそのエージェントがオンラインでつながり、一緒に3Dで家の見学をしながら、コミュニケーションが取れるツールです。もちろん、従来の見学同様に予め見学予約をして、その日時にのみ使用できるコードを与えられて、オンライン内見をすることになります。

 今のところ「バーチャルショーイング」はまだ試運転状態で、すべての市場物件にこの方法が対応できるわけではありませんが、今後はさらに開発がすすみ、使用可能物件も増えると思います。ただ、住宅購入の際、実際に家に行き、内覧をする必要性はなくならないと思いますので、あくまでも、物件を絞り込むための便利なツールとして利用されていくのではないかと思います。また、実際に家に行き内覧をする場合は、あらかじめコロナに感染していない旨の同意書に署名し、見学時はマスクや手袋などをしてできるだけ早く終わらせるようにされています。このコロナの影響で、オンライン化がかなり一般に浸透しましたので、不動産の購入についても、今後はさらにオンラインによる面談、書類の署名が増えると思います。

ーモーゲッジについて融資や審査が厳しくなったと聞きましたが、実際はどのようになっているのでしょうか。

「CMHC」の審査基準の変更は、独自の判断で財務省からの要請でないため、他オプションがある限り影響は限定的

 6月4日、カナダ政府のクラウンコーポレーションで、住宅ローン保険を提供する、「CMHC(Canada Mortgage and Housing Corporation)」が、融資資格審査基準を厳しくするという発表をしました。この新しい基準変更では、総債務返済率の引き下げやクレジットスコアの引き上げなどを含め、従来より厳しい審査基準で2020年7月1日より施行されます。

 頭金が20%未満で住宅を購入する場合、融資先のリスクを減らすため、住宅ローン保険が必要になります。この住宅ローン保険の審査基準の変更により、今後はそれが必要となるケースが多く、ファーストタイムバイヤーの融資取得が難しくなるのではないかとの懸念があります。

 しかし、今回の「CMHC」の審査基準の変更は、独自の判断によるもので、財務省からの要請ではありません。「CMHC」以外で同様の保険を提供する、「Genworth」と、「Canada Guaranty」は、「CMHC」に付随することなく、従来通りの基準を変えないという判断をしているので、こういったオプションがある限り、「CMHC」の審査基準引き締めの影響はさほど大きくないと思います。

近年モーゲッジの審査は厳しくなっている一方で、レートは非常に低い設定

 ただ、近年モーゲッジの審査は、厳しくなっています。現在の住宅価格では、ある程度頭金がないと十分な額のモーゲッジが組めないのも現状です。その反面、最近のモーゲッジレートに関しては、非常に低いレートですので、その点は借りる側には嬉しい状況です。

ー5月の統計では不動産価格は下がるどころか上がっていました。現在コロナは落ち着きを見せつつありますが、今年の夏や第二波も懸念される秋・冬に向けてマーケットはどのようになっていくでしょうか?

マーケットは4月が最悪期で、すでに上向きに移りつつある

 トロントを含むGTAの5月の統計では、売買件数では4月の約50%増し、平均価格では、前年比約3%増しとなりました。3月中旬に発令されたオンタリオ州の非常事態宣告後、数週間は、売買が必須な売り手と買い手によって不動産売買をするにとどまっており、その影響で4月度は、売買件数が前年比67%減にまでなりました。

 しかし、5月の統計を見ますと、売買件数・平均価格ともに、上向きとなっており6月の数字はまだ出ておりませんが、自社で使用しているシステムによる見学の予約状況やオファーの数ともに週ごとに増えています。そのデータから判断すると、この4月が最悪状況で、すでに不動産市況は上向きに軌道修正の段階に来ているといえるでしょう。

例年落ち込む夏のマーケットも今年は売買が継続的に行われる予想

 通常、7月・8月の夏の間は、不動産売買件数は下がるのですが、今年は一番活発な春の市場がなかったことや、休暇で家を空ける人も少ないことから、この夏も引き続き不動産売買は続くと思います。ただ、件数としてはもちろん例年より少なくなるでしょう。

 今後のコロナの第二波についても予想されていますが、今回でかなりのソーシャルディスタンスを保ちながら、不動産売買を可能にするシステムが確立し、対応できるようになりましたので、第二波の際には、今回ほど、不動産市況に与える影響は大きくないと思います。

ー賃貸市場はいかがでしょうか?

トロントでは上昇していた賃金が下がっている

 賃貸市場に関しては、大きな影響が出ております。まず、「Airbnb」などの短期賃貸禁止となったため、今まで「Airbnb」 に出していた物件が長期の賃貸物件として、市場に出たこともあり、賃貸の市場物件が増えてきました。反面、予定していた海外からの移民、学生などもしばらく来ない状況となりましたので、現在では供給の割に需要がなく、今まで上がり続けていたトロントの家賃が下がるという現象が出ています。

 夏頃までは政府支援金やCERBやローン返済の猶予があるため人々の生活も安定していますが、それ以降は景気減速や雇用不安もあり多くの人が金銭面でも不安を抱えていると言われています。それらを受けて不動産の価格減少や購入者の減少などに繋がるのでしょうか。

需要と供給の安定性が保たれている現状では、価格減少の可能性は低い

 このパンデミックは、健康危機で1989年の不動産バブルや、2008年のリーマンショックのような経済危機ではありません。もちろん、コロナによるビジネスの停滞や、解雇などの経済における影響はありますが、経済の根本は保たれていると思います。もちろん、不動産市場は、消費者の信頼感が戻らないと、活発にはならないと思いますので、それまで例年のような活発な動きはないと思います。

 ただ、需要と供給の関係を考えた場合、5月の統計でも売買件数の伸び(需要)と、市場物件数(供給)は安定を保っていますので、この関係が崩れない限り、価格減少はないと思います。この売買件数と、市場物件数の割合は不動産市場の方向性を見る上で、重要なポイントですので、今後もこの動きは常に把握しておきたいと思います。

ー在宅勤務が一般化し、アメリカなどでは郊外の一軒家が非常人気だそうですが、今回のパンデミックを受けてカナダでも似たようなトレンドや何か新しいトレンドはうまれましたでしょうか?

コンドミニアムと一軒家の価格差が縮まり、一軒家が再注目され始めている

 トロント地区の住宅に関しても、今後は在宅勤務が一般化したことによる購入者の物件タイプ、地区を選択するうえで影響はあると思います。ただ、それがトレンドとして実際に数字に表れてくるのは、しばらくしてからになるでしょう。

 コロナの影響とは言い難いですが、トレンドとしてはセミディタッチも含めた、一軒家の売買件数が増えています。トロント地区は、過去5年間で、コンドミニアムの平均価格は、年間平均10・88%上昇しています。一方、一軒家は過去5年間で、年間平均7・74%の上昇率です。2017年4月に、非居住者購入者税の15%の課税を含む、オンタリオ州の「16ポイントハウジングプラン」が導入された後、一時的に不動産市場が停滞しましたが、その後もコンドミニアムは、値段的にまだ手軽ということで人気があり、値段も下がることなく上昇していきました。そして、コンドミニアムと一軒家の価格差が縮まってきましたので、一軒家がまた注目され始めたようです。

ーコロナによって不動産市場など先が見通せないことを理由にグーグルがハーバーフロントのスマートシティ計画から撤退したことは記憶に新しいです。ニューノーマル時代を迎え、中長期的にはトロント及び近郊の不動産事情はどのようになっていくと思われますか?

トロントは近年、北米で最も人口成長した都市

 グーグルの姉妹会社のサイドウォークラブスが、トロントのウォーターフロント東部のキーサイドプロジェクトの開発計画から撤退しましたね。サイドウォークラブスは、トロントの不動産市場の不安などを撤退理由にしていますが、このプロジェクトは元々色々な問題があり、スマートシティは、知的財産権侵害だとの批判もあり、開発の取り掛かりも遅れていました。ただ、ジョン・トーリー市長は、トロント市は引き続き新しいパートナーを見つけ、このトロントのキーサイドの重要な未開発地域開発をすすめる意向を表明していますし、この地域も近い将来、開発はされるとは思います。

 ライアソン大学が最近発表した調査よると、トロントは2019年の7月までの12ヶ月の間、北米で最も人口成長した都市ということです。GTAで、一年間に12万以上の人口が増加しています。コロナの影響で今年から来年にかけカナダの入国は制限されていますので、移民予定者もしばらくは入国できないことから、しばらくは人口増加が抑えられると思いますが、基本的にカナダの移民政策は今後も移民受け入れを続ける方向ですし、やはりトロントは人気の都市です。

 安定した人口増加、経済の安定、雇用の安定が備われば、不動産は長期的に見ても今後も伸びていくと思います。今年の今後の不動産市況の予想は、コロナの第二波の状況にもより、難しいところもありますが、現状から見ると、売買件数は、減少、平均売買価格に関しては、昨年同様もしくは、インフレ率程度の値上がりではないかと思います。

ー不動産を売りたい人も買いたい人も現在は様子を見ているという話もありますが、アフターコロナ時代にどのようなタイミングや準備が必要でしょうか?アドバイスをお願いします。

不動産売買はできるだけ長期的見解で売買の時期などを考慮することが大事

 まず、不動産を売る・買う目的を明確にしていただくことですね。購入の場合、投資を考えての購入と、現在賃貸でマイホームを持ちたい場合とは、アドバイスが違ってきます。

 例えば、今は賃貸で頭金も用意されていて、安定した収入もあるのであれば、今のうちに購入をすすめることをおすすめします。現在は、バランスの取れた市場ですので、一時期の競売続きで、家の購入がなかなかできない状況ではありません。特にマイホームということであれば、たいてい長期的に住まれることが多いと思いますので、早めにランドロードのモーゲッジを払うことをやめ、ご自身のモーゲッジの支払いを始めていただきたいですね。

 投資であれば、そのタイプ・エリアにもより色々と状況が違います。まず、不動産の知識のある専門家にご相談されてください。

 また、売りたい方はその目的として、今売らなければならないのか、それとも買い替えを考えているかなど、その方の状況によりますが、現在の家のタイプや地域により、売れ行き状況の差が出ています。

 例えば、現在2ミリオン以上のいわゆるハイエンドの家は売りが滞っています。そのような家で、今売らなくてもいいのであれば、もう少し消費者の信頼感が戻ってきてから市場に出すことをおすすめします。逆にセミディタッチなどで、1ミリオン程度のトロント市内の家は競売にもなるように人気がありますが、まだまだリスティングの数が少ないので、売り時でもあります。

 いづれにしても、不動産売買はできるだけ長期的見解で売買の時期などを考慮されることをおすすめします。トロント地区の不動産(住宅)価格は、過去40年で市場の変動はありましたが、平均では年間6.7%の率で上昇しています。この傾向は今後もよほどのことがないと変わらないでしょう。

不動産ブローカー 服部 江理子

eriko@royallepage.ca
直通 416-371-0224
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