2023年、観光ウェブサイト「EnVols」の「世界で最もクリーンでエコな街ランキング」でカルガリーが世界一の座を取ったのはご存知だろうか?経済雑誌「The Economist」の「世界で最も住みやすい街ランキング」でも常に10位以内をキープし、バンクーバーやトロントと並んでカナダを代表する都市として知られている。今回はそんなカルガリーの魅力を掘り下げていきたい。
1. まず、カルガリーってどんなところ?
カルガリーに住む人の平均年齢は37歳。若い人の街のイメージが強いが、1人当たりの所得と一人当たりのGDP(国内総生産)がカナダの主要都市一高い。生活費は国内で2番目に低いほか、アルバータ州は州·売上税がないので貯金を増やしたい働き世代にはもってこいの都市と考えても良いだろう。市に住む人の41%がマイノリティでオンタリオのように人種のダイバーシティに溢れている。
2. 人と地球にやさしい街
カルガリーは地球温暖化対策に力を入れており、2050年までにネットゼロ(温室効果ガスの排出ゼロ)を目指している。路面電車システムの改良や市全体による再生可能エネルギーの使用、電気自動車の増加、樹木を植えるなどの取り組みを目標に入れている。
これらを実現させるため、必然的にエネルギーやテクノロジー、インフラ業界の企業が雇用を増加。つまり地球環境を守るための仕事、「Green Jobs」が多いのだ。
3. 経済成長が注目されている都市
アルバータ州全体は石油産業やガス産業、農業が盛んな州として有名だが、カルガリーではエネルギー業界とテクノロジー業界の企業が若い世代の雇用を牽引している。他にも航空宇宙産業やアグリビジネス(農業関連産業)が人気で、現在カルガリーは経済発展が期待される都市として国内のトップ5に入っている。この一年で「IBM」や「Garmin」など大手テクノロジー企業6社がカルガリーにオフィスを新しく構え、これからの成長が大いに期待されている。
DOWNTOWN CALGARY
ダウンタウンを楽しもう
カルガリーのダウンタウンにはトロントの地下通路システム、PATHに似たPlus 15 Skywalkが存在する。このスカイウォークは雨の日や雪の日にインドアルートを使って街を探索するのにとても便利。16kmもあるこの通路システムは1969年に開通した。ローカルのようにカルガリーを歩いてみたい人は利用者の多い平日に利用することがおすすめ。
一度は行っておきたい写真スポットといえばCalgary Towerや路面電車の通り道の上に建てられ話題を呼んだ中央図書館(Calgary Central Library)。ダウンタウンのすぐ北にはBow Riverが流れており、玩具のフィンガートラップをイメージした赤い網のようなデザインが有名なPeace Bridgeから自然と都会が交わる風景を見ることができる。そしてスピーカーなどの音楽機材を連想させる建築が特徴的な国立音楽センター(Studio Bell, Home of the National Music Centre)の中にはカナダの音楽史にまつわる様々な展示が見られる。行ってみると実はカナダ人だと知ってびっくりするアーティストもいるかも知れない!?
Calgary Stampede
夏の巨大イベント!
Calgary Stampedeは世界最大のアウトドア・ロデオ。7月に10日間かけて行われるこのイベントは1912年以来毎年行われている。今年の開催日は7月5日から14日まで。ロデオやカウボーイ文化以外にもミュージシャンによるパフォーマンスが盛りだくさんだ。カントリー音楽だけでなく様々なジャンルの大物アーティストが来るので要チェック!
そしてここで欠かせない食べ物といえばパンケーキ。十日間のあいだ毎日違うパンケーキを味わえるほど街中が揃って朝食を用意しており、無料か数ドルを寄付することで食べられる。この伝統はなんと1923年から存在するという。昨年のStampedeでは開始から8時間で17,182枚の出来立てのパンケーキが客に振る舞われ、ギネス記録に登録された。イベント全体では合計20万枚のパンケーキが食されたそう。ぜひこの伝統を味わってみたい。
子連れならWinSport Canada Olympic Park
1988年冬季オリンピックの開催地だったカルガリー。当時建てられたオリンピックパークはスポーツを一年中楽しめるWinSportというレジャー施設に生まれ変わっている。
夏の間、ここでは子供でも大人でもマウンテンバイクのプライベートレッスンが受けられる。他にもホッケーやDryslopeと言われる雪のないスノーボードやスキーのレッスンも行われている。
1日からでも入れる子供用のサマーキャンプがたくさんあるのでアウトドアを冒険するのが好きな子がいるファミリーは要チェック。通常ならばジップラインやボブスレー体験もできるのだが、今年の夏は残念ながら改装工事のためにキャンセルされている。
All Photos by Tourism Calgary
カルガリーはビール好きにはたまらない
カルガリーで初めてビールが作られたのは1893年。Calgary Brewing & Malting Companyの成功に始まり、今では50軒ほどビール醸造所が存在する(アルバータ州全体ではなんと170軒以上!)。ビールを中心に観光がしたいという人におすすめしたいのはAlberta Ale Trailという観光サイト。ブルワリーのロケーションをベースにホテルやレジャー、レストランなどが紹介されているので観光プランに役立つこと間違いなし。
「自転車を漕ぎながら街とビールを楽しめる」をコンセプトにしている観光ツアーに参加したい人にはPedal Pub CalgaryとUrban Pedal Toursがおすすめ。
1ルートにつき2、3ヶ所バーやレストランを巡ることができる。どちらも団体で予約する場合は8人から15人まで。卒業旅行や夏の思い出づくりに最適だ。一人または少人数で参加したい場合はUrban Pedal Toursの相乗りオプション、Social Toursがおすすめ。ビールを飲みながら運動もできて、新しい出会いも探せるかも?今回は特別にUrban Pedal ToursがTORJA読者のためにディスカウントコードを用意してくれたので、オンライン予約で「TORJA10」を入力すると10%の割引がもらえる。
「Ginger Beef」と「Caesar」の発祥地
カルガリーには「Ginger Beef」という有名なチャイニーズ・カナディアン料理がある。この品は、1970年代にカルガリーのチャイナタウンで働いていた中国人シェフ、ジョージ・ウォングによって発案された。
1975年にジョージの妻リリーと彼女の妹によって開業されたSilver Inn Restaurantで、彼らはお酒のつまみとして「Ginger Beef」を提供。
以来カルガリー、そしてカナダ全体で人気になった。牛肉はアルバータ州の名産品でもあるので一度は本場で食べてみたい。
この街でもう一つ有名なのが「Caesar」という名前のカクテル。アメリカの「Bloody Mary」に値する飲み物で、ウォッカ、クラマトジュース(トマトジュースと貝類のエキス)、ウスターソース、ホットソース、スパイスなどが入っている。
1969年にイタリア料理のレストランで3ヶ月かけて完成されたこのレシピは今ではカナダを代表するカクテルとなっている。なんとカナダでは1年間に平均4億杯以上のシーザーが消費されているそう!
やっぱりカナダといえば大自然
車なしでもOK!バンフ国立公園
カナダ国内を旅行するなら一度は見てみたいのが世界的に有名な大自然の風景。アルバータ州には5つの国立公園があるが、中でも特に人気があるのがバンフ国立公園とジャスパー国立公園だ。バンフの街はカルガリーから車で1時間半ほどの距離にある。自分で運転したくない人は民間のシャトルサービスが便利。街に入ってからもバスやシャトルサービスで観光名所を訪れることができる。
バンフの街を中心とした巨大な敷地の中には「カナディアンロッキーの宝石」とも言われるルイーズ湖(Lake Louise)がある。ゴンドラに乗って山を登り、展望台や山頂のレストランから景色を満喫できる。公園内にはアウトドアアクティビティに限らずたくさんのレストランやお店、温泉、娯楽施設などがありゆっくりとした時間を楽しめる。
All Photos by Banff & Lake Louise Tourism
星空が綺麗なジャスパー
さらに遠くへ冒険してみたい人にはジャスパー国立公園がおすすめ。ジャスパーの街はカルガリーから車で4時間半の距離にある。「VIA Rail」や「ロッキーマウンテニア号」などカナダを横断する鉄道の線路が通っているためカルガリーでない街から移動する場合は鉄道で行くことも可能。バンフに比べて半分ぐらいの人口(およそ4,600人)が住んでおり、主要都市から遠いことが理由で観光客もバンフより少ない。レストランやバーなども少ないので全体的に静かで穏やかな自然を楽しめる。
美しい湖はもちろん、ジャスパーは星が綺麗な街としても有名。「ダークスカイ保護区」に認定されているだけに夜になると真っ暗になり、星いっぱいの夜空が一望できる。そして10月には「ダークスカイフェスティバル」が毎年開催される。街には一年中開いているプラネタリウムもあるので天体観測が好きな人にはたまらない場所だ。ジャスパーにもスカイトラムというゴンドラがあり山を上ることが可能。ガラス張りの遊歩道を歩きながら大自然を見渡せるColumbia Icefield Skywalkも見逃せないスポットだ。
All Photos by Tourism Jasper
バンフに関わりがあった日本人
世界的に有名な本、「武士道」の著者であり1920年から1927年まで国際連盟の事務次長を務めた外交官、新渡戸稲造が生前最後に務めた仕事が1933年にバンフで開かれた第5回太平洋問題調査会議だった。彼は当時70歳だった。
新渡戸氏は生涯を閉じるまで世界平和を訴えかけ、「太平洋のかけ橋」としての役割を果たしたことで知られる。彼の肖像は旧5,000円札に使われていたので馴染みがある人もいるかもしれない。
BC州ビクトリアで亡くなった彼の記念庭園がブリティッシュ・コロンビア大学内にあるので、バンクーバーに行くことがあれば是非チェックしたい日本庭園だ。
Indigenous
カルガリーの先住民たち
カルガリーを語る上で欠かせないのが先住民族と彼らの歴史だ。市内近郊のBow Valleyエリアではなんと紀元前10,300年前から人が暮らしていたことが発掘調査で明らかになっている。白人らがカルガリーを訪れ、交易市場が創られたのは1875年のこと。Bow RiverとElbow Riverの交わる場所に出来た。それまでBlackfoot部族の先住民たちはバッファローの狩を中心に生活していた。料理から住居、衣類にまで使えるバッファローは彼達に欠かせない存在だった。西洋人が来てからは馬の扱い方やライフルの使い方を学び、狩をさらに充実させ裕福な部族へと成長していった。だが、やがてバッファローの数も減り、貧困、戦争、そして疫病の流行により先住民の人口は半分に減少した。
エリア名、「Treaty 7 Territory」とは?
力が弱まったBlackfoot部族は他の部族と団結。カナダの建国後、政府は鉄道建設のために先住民から土地を奪おうとしていた。そのために先住民と交わされた一連の条約が今でもカナダ西部の土地の名称として使われている。カルガリーのある「Treaty 7」はその7つ目にあたる。先住民はてっきり平和条約を結ぶのだと信じて合意したが、言葉と文化の違いで話の損得に気づくことができず、先住民らは土地を政府に乗っ取られてしまった。政府が先住民のために割り当てた土地は全く不毛で、農作業のノウハウさえ知らなかった彼らにとっては大きな損失となる条約だった。のちに先住民同化政策が広まり子供たちは宿舎に入れられ、先住民文化はさらに薄れることとなった。
現在のカルガリーはBlackfoot Confederacy(Siksika、Piikani、Kainai First Nationsが集まってできた連合)とMétis(ヨーロッパ人と先住民両方の血を引く人々)、Stony Nakoda(Chiniki、Bearspaw、Wesley First Nations)、Tsuut’ina First Nationの土地に建っている。2016年度の国勢調査によると、カルガリーの先住民人口は全体のわずか2.9%だった。
All Photos by ©Indigenous Tourism Alberta / ROAMCreative
先住民文化を感じられるカルガリー
毎年7月恒例のCalgary Stampedeでは先住民文化を味わえる催し物が盛りだくさん。Elbow River Campという会場には26ものティピー(移動用住居)が建てられ、ジュエリーやアート、ジャムなど手作りの作品を購入できる。大規模なパウワウ(踊りの祭り)も開催される。カルガリーエリアの過去の風景を知りたい人にはHeritage ParkやBlackfoot Crossing Historical Parkがおすすめ。Heritage Parkでは先住民の住居の様子に加え、1800年代後半から1900年代にかけての西洋人の暮らしについても知ることができる。
カルガリーエリアは先住民観光が豊富。街の中心から離れて、日帰りツアーを通じて先住民の暮らしや伝統についてもっと詳しく知ることができる。Earthcode Toursはカルガリーやバンフ、ドラムヘラーでツアーを行っている。先住民の祝いの儀式に興味がある人はSpotted Eagle – Native American Blackfoot Culture Toursがおすすめ。それから自然やハイキングが好きな人にはZuc’min Guidingのツアーを勧めたい。他にもたくさんの種類のツアーやアクティビティがあるので、先住民観光について知りたい人は是非Indigenous Tourism Albertaのウェブサイトをチェックしてほしい。
ちょっとディープなカルガリーエリアの小さな町とその名所
Canmore: Canmore Cave TOurs
洞窟を探索する「Caving(ケイビング)」というアクティビティをご存知だろうか?少人数でもできるこの活動は、基本的にはチームスポーツとも呼ばれているほどリーダーシップやコミュニケーション、問題解決などが試される。Canmore Cave ToursではRat’s Nest Caveを探索したい初心者のためのケイビングのワークショップがあり、ケイビングの基礎を学んでから実際に体験できる。ハイキングほど気軽にできるものではないが、冒険好きな人にはたまらない体験かもしれない!?
Rowley: ゴーストタウンでピザとキャンピング?
ゴーストタウンが多いことで知られるアルバータ州。廃墟好きな人なら興味をそそる情報かも知れない。Rowleyという町は、Drumhellerから車で約30分のところにある。1919年にカナディアン・ナショナル鉄道がRowleyで停車するようになった後、店や病院、教会、映画館などができるほど栄えていた。しかし500人ほどいた町の人口は今ではなんと8人。ゴーストタウンというと悲観的なイメージが強いが、この町はそれを敢えてアピールポイントにして月末の土曜日に行われる「Pizza Night」を盛り上げている様子だ。ホテルはないがキャンプグラウンドがあるので、ちょっと珍しいアルバータ州を体験したい人はRowleyに行ってみてはいかが?
TOrrington: World Famous Gopher Hole Museum
ダウンタウン・カルガリーから北東に車で1時間半のところに自称「世界的有名」なとても小さな博物館がある。「World Famous Gopher Hole Museum」というこの場所はGopher(ホリネズミ)の剥製に衣装がつけられ飾られているのだが、まるで漫画のワンシーンかのようにコミカルにディスプレイされている。それを15分ほど観覧するためだけに毎年夏になるとたくさんの人が駆けつけるのだとか。自ら「World Famous」と言っている時点で面白そうなこと間違いなし。
Drumheller: Little Church & Royal Tyrrell Museum
ドラムヘラーにある二つの観光スポットはその大小のコントラストが興味を惹く。一つ目は名前の文字通り本当に小さい教会、「Drumheller’s Little Church」。一度に6人までしか入れないこの教会はユニークなインスタ映えスポットに最適。かわってその近くにあるRoyal Tyrrell Museumには世界最大の化石のコレクションが収蔵されている。カナダで唯一古生物学専門の博物館であるこの場所は恐竜好きおすすめだ。
おわりに
夏と冬で全く違う景色が味わえるカナダだからこそ国内旅行は行ける時に行ってみたいものだ。あまりアウトドアが得意でなくても、運転ができなくともバンフやジャスパーなどの国立公園に気軽に、そして身軽に行けるのはカナダの冒険のハードルを下げてくれるのでは?ぜひチャンスがあれば次の休みにカルガリーとその近郊の町を探索してほしい!