【第15回】国際結婚と財産:親からのギフトは誰のもの?|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

【第15回】国際結婚と財産:親からのギフトは誰のもの?|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

 夫婦が別居するときには、婚姻中に作った財産を同等に受け取る権利があります。日本ではこれを財産分与といいますが、夫婦双方が権利をもつ財産を別居に際し清算するわけなので「婚姻財産の清算」と呼ぶべきなのかもしれません。

 しかし、この婚姻財産の清算は、別居問題の中で弁護士のサポートを最も必要とする分野です。財産問題は多岐にわたりますが、今回は「婚姻中に親から受けたギフトが夫婦の財産であるかどうか」についてエキスパート弁護士ケン・ネイソンズに聞いてみました。

婚姻財産

 婚姻財産とは、結婚してから別居するまでの間に作った財産のことです。夫婦の財産の精算方法は少々複雑ですが、とりあえず「婚姻中にふたりで作った財産の総額を折半する」と理解しておいてください。

 婚姻財産を割り出すには、相当の時間と労力を必要とします。すべての預貯金や有価証券、さらには不動産や車や宝石、ビジネスバリューなど、金銭的価値を割り出すのに専門家の査定を要するものも含まれるからです。

 また、何を婚姻財産とみなすかについても要注意です。たとえば、結婚後に立ち上げた会社の査定額は、すべてが婚姻財産です。しかし、結婚前に夫婦のどちらかが始めた会社については、結婚日と別居日の査定額が必要になります。価値が上がっていればプラスの金額が、下がっていればマイナスの金額が、婚姻財産に含まれます。

結婚日と別居日の定め方

 したがって、婚姻財産を算出するためには「結婚日」と「別居日」が大切になります。これが結婚した日(同居を開始した日)を結婚日、別居の意思が明確になった日を別居日としてセパレーション・アグリーメントに明記される理由です。

 昨今の不動産価格の急激な変動によって、夫婦間で別居の日付が争われることも珍しくありません。そのため「別居日」は「夫婦としての生活を送っておらず、どちらかが別居の意思を相手に告げた日」であると定義されています。経済的理由などで同居を続けていた場合でもこの定義が採用されます。

婚姻中に相続した財産は婚姻財産?

 ところで、夫婦のどちらかが、婚姻中に相続した財産は、婚姻財産なのでしょうか。繰り返しますが、婚姻財産は「婚姻中に作られた財産」のみですので、それ以外は婚姻財産ではありません。つまり相続財産は、婚姻財産と見なされないのです。

 しかし、相続した財産を自宅のローン返済や改装費用に充てた時点で、それは婚姻財産に変わります。自宅は常に婚姻財産です。たとえ夫婦のどちらかが結婚前から所有していた単独名義の不動産であっても、それが自宅なら夫婦の財産として扱われます。

 これは相続財産のみではありません。親の存命中に受けた金銭贈与(ギフト)も同じです。

自宅の頭金は親からのギフト?

 若いカップルの新居のために親が一肌脱ぐことは珍しくないでしょう。頭金を用立てたり、ローンの支払いを手伝うことなどは、ごく一般的です。しかしこれも「自宅は夫婦の財産」ルールの例外ではありません。

 自宅のためでなくとも、親から子へのまとまった金額の贈与は、別居の際に大きな争点になりかねません。前述のセオリーに当てはめるなら、親が我が子に贈った金銭は、夫婦の財産ではありません。しかし、それが夫婦ふたりへのギフトであったと主張されたらどうでしょう。ギフトを受け取る時には、送り主の思いが正しく反映されるような対策を講じておきたいものですね。

 相続財産やギフトの行方について、マリッジ・コントラクトで決めておくことができます。エキスパート弁護士が、それぞれの状況に特化したコントラクトを提案いたします。結婚前だけでなく、すでに結婚している方々もお問い合わせください。

 ところで、現行のオンタリオ州の家族法で婚姻財産の清算が法的に定められているのは法律婚の夫婦のみです。事実婚の配偶者は、配偶者サポートの対象にはなりますが、2020年12月現在、共有名義の財産以外への法的権利は認められていません。事実婚の配偶者を守るためにも、マリッジ・コントラクトは役立ちます。

ケン・ネイソンズ: B.C.L, LL.B, LL.M(Family Law)

 日本人の国際離婚を多く手掛ける。ていねいに話を聞く姿勢は 移住者女性に好評。ネイソンズ・シーガルLLP設立パートナー。趣味はモデルカー収集。

野口洋美: B.A. M.A.

 ヨーク大学で国際離婚とハーグ条約に関する研究に携わる。国際結婚に関する執筆多数。ネイソンズ・シーガルLLP所属。趣味は日本語ドラマ鑑賞。