ニューファンドランド・ラブラドール州(1)世界遺産グロス・モーン国立公園|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』

カナダにある18の世界遺産のうち4つがニューファンドランド・ラブラドール州にある。うちヨーロッパでも知名度が高く訪問者も多いグロス・モーン国立公園(Gros Morne National Park)は代表的な世界遺産だ。トロントから行くにはディアー・レイク(Deer Lake)空港が便利。

テーブルランドを走るHWY431

華やかに観光地化されたカナダの西海岸とは異なり、東部海岸地域の生活は過酷な自然との闘いに根づいており、海岸線をドライブしているとそれが今でもひしと感じとれる。しかし夏でも凍り付くような海や人を寄せ付けない荒野は想像を絶するほどの比類なき美しさをもち、旅するものをはっとさせる。もし大自然にもワビとかサビという言葉が使えるのならここがそれであるような気がする。

ニューファンドランド島は西部、中部、東部、アヴァロンの4つの区域に分かれていて西部は南北に長細く伸び、北端近くのSt.Barbe港からフェリーに乗れば2時間弱でラブラドールへ行ける。フェリーが着く港はケベック領だが。1800㎢の広さをもつグロス・モーン国立公園はこの長芋状の西部の中央にある。見どころはTableland, Trout River, Norris Point, Western Brook Pondなど、どれも南北に走る国道430号線から楽にアクセスできる。大きなホテルはなく、B&Bやコテージかインが主流。

ウェスターン・ブルックポンドへ行く3kmのハイキングコース
テーブルランド独特のカンラン岩に刻まれた模様

4~6億年前の海底が地殻構造の移動で押し上げられてできたのがテーブルランド(Tableland)。普通の山と違うそれを目前にした時の感動は忘れられない。人類誕生以前にあった海底がテーブル状の平らな山頂と化し、それを下から見上げている我々人間は深海の溝にいる塵のようなもの。 車から降りて赤茶の土を踏み山を登ってみる。歳月をかけて焼き上げられた奇怪な模様の岩石が目立つ。このカンラン岩という特殊な岩石は地下1〜8万㎞の深さのさらに下のマントルという地層のものと同じと言われ、植物にとって有害なため茶色の山肌に木は育たない。

トラウト・リバーの大型ロブスター

静寂のなかで山のてっぺんから溶けた残雪が岩間をぬってあちこちに流れ、4億年後の新世界の夏の到来を告げているようでスリアルな感じがした。テーブルランドは430号線から分岐した山並ハイウェー431号にそそり立つ。分岐点には貴重な情報源のディスカバリー・センターもある。シーニック・ドライブを充分楽しんだあと431号線は人口600人の小さなロブスター漁村トラウト・リバー(Trout river)で終わる。

村にはほったて小屋風の雑貨店があり、金物、日用品、食料品、釣道具など所狭しと並べられ、メーカーの選択肢はなくてもこれだけ有れば生活ができるのだ、と納得。都会は選択肢が多すぎる。村はずれの高台からフィヨルドが湖化したトラウト・リバー・ポンド(Trout River Pond)が一望に見渡せる。

有名なウェスターン・ブルック・ポンド(Western Brook Pond)もフィヨルドが湖と化したところ。430号線に入り口があり、路上に駐車して片道3㎞の比較的平坦な道をハイクしていく。このコースは写真に興味がある者にとってはまさに天国だ。漂白した老木、過酷な天候に変形して繁殖する木々、沼地の藻や足下に咲く花々。 観光船は天候によって回数が変わったり急にキャンセルになったりするので宿泊は最低2日は取る。

ロブスター漁で生計をたてるトラウト・リバーの集落
ボン・ベイ湾のノリス・ポイントが一望できる展望台

宿泊施設、レストラン、レンタルショップ、ギフトショップがあって観光客でにぎわうのが人口約1000人のロッキー・ハーバー(Rocky Harbour)。私たちのお気に入りはテーブルランドが眺められる10分先のノリス・ポイント(Norris Point)にある小さなコテージ。Bonne Bay湾に面し、メモリアル大学の海洋研究所兼海洋博物館があり、 生物の北限・南限を調査しに 海外からも学生が訪れる。

公園の北部にSt.Paulsの集落があるが、見逃し易いサインはそこにある小さな岬、ブルーム・ポイント(Broom Point)だ。ガイドブックに載っていて、地図には載っていない。かつて漁業を営んでいた漁師たちの手製の道具、船、網等の展示小屋があり、零細漁業の姿を今に伝える。海岸に目をやれば、浮き沈みしながら波間に揺られて遊ぶ黒い点々がみえた。アザラシ達の頭だった。