先住民族ウェットスウェテン(Wet’suwet’en)支援の抗議が露呈するカナダの根深い先住民族先住民族差別|特集「カナダの光と闇」

 「カナダ社会はカリカチュアとしての先住民族は好きだが、社会に挑戦するために彼らが声を挙げると途端に暴力的に沈黙を強いる」と、先住民アニシュナベ族のジャーナリスト、タラ・ハウスカ氏はAljazeera誌にて述べている。

カナダへの入植者が先住民族に及ぼしてきた被害は計り知れない。英仏人は先住民族が暮らしていた土地へ入植し、大量虐殺を行った。1700年代に起こった先住民族殺害への報奨金制度から、子供に寄宿生活を強要するレジデンシャルスクール制度、独自文化継承禁止政策、今日でも続く医療や経済活動へのアクセス欠如、警察の対応など、先住民族破滅を目的とした政策は現在も多くの先住民族の人々に影響を与えている。

ブリティッシュコロンビア州北部に計画されているガスパイプライン建設

現在、カナダ西部のブリティッシュコロンビア州北部に計画されているガスパイプライン建設をめぐり、先住民や支援する市民の抗議がカナダ全土に広がっているが、同計画も入植者の植民地支配精神の現れである。

コースタル・ガスリンク・パイプライン敷設工事のプロジェクトは、TCエナジー社(旧・トランスカナダ社)の子会社であるコースタル・ガスリンク社の約66億カナダドル(約5500億円)の計画である。

先住民ウェットスウェテン族の土地である土地を通過し、ブリティッシュコロンビア州の内陸から太平洋に面した港まで約670キロにわたるパイプラインを建設し、内陸のアルバータ州から太平洋沿岸まで1日当たり、89万バレルの原油を送れるようにするという内容だ。

コースタル・ガスリンク社は先住民からの理解を得て建設を進めていると主張しているが、先住民の間には長年根強い反対があり、今も続いている。先住民族の指導者らは建設に同意せず、2月初旬に建設許可をめぐって同州の環境当局に異議申し立てをしていた。

また、3月6日に先祖代々の土地を守ろうと抗議を続けていたウェットスウェテンの人々に対し、連邦警察(RCMP)が重装備で排除に乗り出し、10人の抗議者を逮捕して土地から追い出したことで、多くの人々の怒りが爆発した。これに対応して全国で連帯抗議が勃発し、そのいくつかは主要な鉄道路線を閉鎖した。先住民を土地から追い出す際に連邦警察が乗り出してきた過去、そして先住民族を暴力的に抑圧してきた植民地支配の歴史と重なって、今も各地で先住民や環境活動家らが抗議を繰り広げられている。

コースタル・ガスリンク社による50件以上の違反

論争の的になっているコースタル・ガスリンク社は、今年2月にブリティッシュコロンビア州政府によって設定された条件を50回以上違反していることが明らかになっている。ウェットスウェテンの団体が異議申し立てにより、ルールが何年間にも渡って破られていたことが裁判所に書類が提出され、初めて明らかになった。

「コースタル・ガスリンク社はこれらの条件を繰り返し軽視し、また、私たちをも侮蔑してきました」と、先月の声明にて、ウェットスウェテン・ラクサムシュ(the Laksamshu)族の首長、ディニ・ゼ・スモゲルゲム(Dinï ze’ Smogelgem)首長は述べている。

同首長は、連邦警察による襲撃の数日前、ブリティッシュコロンビア州最高裁判所に嘆願書を提出し、パイプライン会社に環境証明書の延長を与えた際にブリティッシュコロンビア州がコースタル・ガスリンク社のバラツキのあるコンプライアンス記録を考慮しなかったことを主張した。嘆願書は裁判官にブリティッシュコロンビア州によって下された決定を覆すよう訴えるもので、環境アセスメントオフィス(EAO)による再審査を求めるという内容だ。

また、同嘆願書は、2018年と2019年にコースタル・ガスリンク社の検査中において州が数十件もの違反を発見したことをも指摘している。同社は保全要件を順守できなかったことが判明しており、現地のカリブーや古い成長林を保護するという期限までに保護するという決められた期日に間に合わず、絶滅危植物を保護するための生息地調査も完了していなかった。そのため、EAOに調査が完了するまで絶滅危植物から200メートル以内に何も建設しないように命じられていた。

さらに、嘆願書には同社によって先住民族が土地にアクセスするのを阻止し、汚染土壌を封じることに失敗していたことも指摘している。違反行為のリストには、同社が熊がアクセスできる場所に人間用の食べ物を置いたという複数のケースも含まれていた。同社は野生生物を保護するために電気柵を購入する規定を定められていたが、EAOが規則が破られたことを指摘するまで電気柵を設置していなかったことも分かった。

だが、これらの50の違反に関する申し立てに対して、ブリティッシュコロンビア州気候変動戦略省は直接回答せず、「各プロジェクトには独自の課題と要件がある」との曖昧な声明を出している。抗議行動が広がるなか、外国訪問中だったトルドー首相にも批判が集中し、外遊を中止すると表明した。また、首相は先住民の代表や州首相らと連絡を取っていると明かしたが、事態打開のための対策については具体的な言及を避けたことからも批判の声が挙がっている。

反先住民の人種差別と暴力の増加

全国で先住民を支援する抗議が広まるにつれて伴い、反先住民族の差別と暴力が増加している。差別者による攻撃を受けているのは抗議者だけではなく、無差別な暴行実験が多発している。今月のCBCの報道によると、バンクーバー在住のスカーミッシュ族の女性、ウェンディ・ナハニーさんは14歳の息子キオナを学校まで車で送り届けたところ、人種差別的な中傷をする男に出くわした。

「彼は『お前は愚かなインディアンだ、お前たちは人々を傷つける。今度はお前を傷つける番だ』と言いました」とナハニーさんはCBCに説明した。

彼女の車はファーストネーションズのモチーフで飾られ、二人の外見から先住民族であることは明らかだったことから、彼女は自分のアイデンティティを理由にターゲットにされたと述べている。男は中傷を叫び続け、手で首を切る動きをした後にプラスチック製のワゴンを車に叩きつけ、車を破壊した。彼女はバンクーバー警察署に犯罪現場の写真と証人の電話番号を提供し報告をしたが、まだ犯人は捕まっていない。

また、デネ族の男性スティーブン・ノーンさんはまた、バンクーバーの通りで反原住民差別による暴力を受けた。外見からして先住民族だとわかる彼は、食料品のある交差点で信号を待っていたところ、いきなり武器で顔を殴られたという。「彼は私の右目を殴りつけました。私の眼鏡は完全に破壊され、眉の上部に4針、フレームの下部に2針の縫い目があります」と述べている。「誰もこんな目にあうべきではありません」と彼は続けた。

ネット上に広がる先住民族への殺害の脅迫や怒りのコメント

先住民族への殺害の脅迫や怒りのコメントはネット上にも広がっている。連帯行動の写真を「#WetsuwetenStrong」と「#LandBack」というハッシュタグをつけて投稿するデモ参加者の受信ボックスには、迫害者たちによる脅迫が後を立たない。バンクーバー在住のセラピストでNuu-chah-nulth族のキャセイ・エドガー・ジョージさんは、インスタグラムに「抗議者が無事であることを祈ります。土地の保護者である彼らに愛を送ります」と投稿したところ、600件以上の殺害の脅迫と差別的な投稿がされたという。

「その中には、消毒液を飲むか、早く自殺しろいう内容もありました」と彼女はCBCに述べた。彼女は、先住民族以外の人々も被害にあう者のために立ち上がり、オンラインで声をあげていくことが大事だという意見を示している。

「私たちの祖先の力強さと、未来の世代のものたちに希望を見いだすことが大事です。私たちの力を知りつつ、押さえつけようとするオンライン上のコメントではなくて」と彼女は説明した。