妊娠・出産、そして育児の現実…

妊娠・出産、そして育児の現実…

先日、日本の母が送ってくれた荷物の中に、Veryというファッション誌が入っていた。Very世代になってしまったことにまず驚いたが、パラパラっと中を見てみて、ショックを受けた。一般人であるはずの読者モデル達が、保育園の送迎ファッションを披露している。誰もが若くておしゃれで、まさにその姿は私が第一子出産前に想像していた「なりたい私」だった。ところが、今日の私の保育園送迎ファッションは、Lululemonの毛玉付きヨレヨレパンツに、ユニクロのダウンジャケット。極め付けに、今日はなんと眉毛を描かずに外出してしまったのだ。ファンデーションまで塗ったのに、それ以降の化粧の工程をすべてすっ飛ばしてしまった。これが、子育ての現実である。

多くの女性にとって、妊娠・出産、そして育児は、昔からなんとなく自分にもいつか訪れる人生の一大イベントと思っていた人が多いのではないだろうか。もちろん、男性にとっても父親になるということは人生の大きな変化ではあるが、生理現象という観点から考えても「お母さんになる」ということは、特別なことだ。

日本でも地域社会の人間関係が希薄化し、少子化が進む中、妊娠や出産、育児するという環境はここ数十年で変化してきた。近所のお節介おばさんは消え、子どもの楽園であった公園も遊具が撤去されるという時代。産休・育休後に職場復帰する女性も多く、待機児童問題や保活などという言葉ばかりが注目されている。

「海外での出産&育児」、なんとなく憧れている人も多いのではないだろうか?子どもは知らず知らずに数か国語を操り、国際色豊かな家庭で育つ…なんだか響きはとってもいい。しかし、現実はそう甘くはないというのが、カナダで二人の子どもを出産し、子育て真っ最中の筆者の正直な気持ちである。

カナダでは、妊娠・出産などの医療的情報はもちろん、育児に関する情報も日本語では手に入らない。何か情報がないかとグーグル先生に頼り、行き着く先は大抵体験談を幸せそうに語るブログ。日本の情報に振り回され、カナダではなんで違うの?とイライラするものである。

カナダで出産・育児をする日本人女性の多くは、実の家族がそばにいない、頼れる友達も少ない、近所には誰が住んでいるのかすら知らない、夫の家族が近くにいても、気は使うし文化が根本的に違う、駐在員の夫は多忙で出張も多い、英語が苦手などなど、苦労話をあげるとキリがなく、日本での妊娠・出産・育児でも大変なのに、異国でとなるとそれは想像以上にストレスフルなものだ。

諦めるということ

私は最近、諦め上手になってきた。以前はどこかのブログで見たような離乳食を一から手作りし、子どもにテレビは観せず本を読み聞かせ、良い母乳が出るように大好きなチョコレートを我慢するなど、「無理」をしていた。私はもともと邪魔臭がりな性格。上手にいろんなことを諦め、効率よく生きることを考え出したら、なんだか物事が新しく見えてきたように思える。

今まで買ったことのなかった冷凍ラザニアを買ってみた。箱から出してオーブンに入れるだけ。普段は日本食が大好きな子ども達がモリモリそのラザニアを頬ばった。いつもは怒りながら子どもに「片付けなさい」と言っていたが、数日間一切何も言わず放置した。そしたら3日目の夜、3歳の息子が自分でレゴを全部片付けた。子どもの風呂が大変なので、風呂に入れず寝かせた。次の日の子ども達は特に臭くもなく、いつも通り登園した。

「手抜き」と言えばネガティブな印象だが、「効率良く」と言えば、納得して堂々と手抜きできるような気がする。それで少し空いた時間を自分の時間にあてる。それが至福のひとときだ。

頑張るお母さんのサポート役ドューラ(Doula)

「手抜き」をいくら実践しても、異国の地での妊娠・出産、そして育児は、物理的に助けてくれる人が少ないので、どうしようも無い時がある。そんな時、ドューラ(Doula)という職業があることを知ってほしい。まだまだ聞いたことすらない人も多いと思うが、最近、日本でもニュースなどで取り上げられ、密かに注目を浴びているらしい。カナダでも日本でも国家資格ではないものの、ワークショップや様々なクラスが開講され、認定という形で一職業として成り立っている。

ドューラは医療従事者でも特に国に定められた資格を持っている人でもない。ドューラのミッションは妊娠・出産・育児をするお母さん、そしてその家族を支えるという役割を持っている。特に産前産後の時期、お母さんの適切な過ごし方を伝え、時には出産に寄り添い、産後の赤ちゃんのお世話やお母さんのサポート、上の子どもの世話や簡単な家事を行う。昔の日本にはどこにでも存在した「お節介な近所のおばさん」や「実母・実祖母」的に、お母さん・赤ちゃんそして家族全体をサポートするのがドューラの役目である。

カナダで出産した場合、病院での普通分娩では1ー2日後にはバタバタと退院、3キロ前後の小さい我が子を抱き、沐浴から母乳育児、炊事に洗濯、上の子の世話など、床上げまでは養生するなどということは現実的ではない。ある程度は医療機関や助産師、行政のサポートを受けることが出来ても、不安にじっくり寄り添い、会話をしながら子育てのコツを教わり、「ちょっとシャワー浴びたいから、赤ちゃんみてて!」と気軽に頼めるという存在はなかなかいない。そんな存在を目指しているのが、ドューラ。カナダ人ドューラの中には、自宅での自然分娩や完全母乳育児など、「完全自然派」を推奨し、それをサポートするという方々もいるよう。しかし、私は様々な日本人のお母さんと出会って来た中で、ドューラの役割はこうあってほしいと思うようになった。赤ちゃんの事を中心に考える医療・行政サポートと違い、ドューラはお母さんをサポートする。そして、お母さんが安心して愛情をもって優しく子どもに接する事が出来るように手助けする。それが、私の目指すサポートの形だ。

現代の子育ては「孤育て」と言われるほど、お母さんは孤立しやすい。産後うつや児童虐待につながる危険も多く潜んでいる。少し助けてほしい、愚痴を聞いてほしい、おっぱいのあげ方はこれであっているのかをちょっと見てほしい、上の子との時間を取りたい、そんな誰にでもある不安を少しでも解消することが出来たら、きっと赤ちゃん、上のお子さん、旦那さんや義家族にも、少し気持ちに余裕を持って優しく接する事が出来るのではないだろうか?

WELLNESS KIZUNAでは、日本で助産師・看護師経験のあるスタッフ、カナダの資格を持つ看護師など、様々なバックグラウンドを持つ女性スタッフが、クライアントのニーズに合わせたサポートを提供しています。産後の母乳指導やおっぱいマッサージだけでなく、つわりの辛い時期や産後の家事サポート、妊婦健診や新生児健診で英語が不安などの場合には医療通訳の派遣、日本語でのマタニティー講座など、日本とカナダの医療制度を把握した上で、クライアントの不安に寄り添い、共に最善の解決策を考えます。

また、日本で看護師経験のある方や、カナダで子育てが一段落したという先輩お母さんなど、そんな方の雇用も積極的に行っています。カナダでDoula認定を目指す人への情報発信や、費用のサポート(奨学金支給)も行っています。

カナダに住む日本人がお互いの能力を発揮し合い、コミュニティー全体で助け合う、それがWELLNESS KIZUNAの夢です。

www.wellness-kizuna.ca
info@wellness-kizuna.ca
647-628-0023

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姜 裕子さん

McGill大学看護学部卒業後、カナダで看護師として活動した後、日本に帰国。大学院や製薬会社に勤務。2008年にカナダに戻り、6年間会計事務所のマーケティングに従事。2014年末に退職後、WELLENSS KIZUNAを立ち上げる。プライベートでは1男1女の子育てに奮闘中。