People. 15 vol.3 写真家 中田樹さん「トロントで起きたビックバン」|カナダワーホリを超えた今

 自分語りも3回目になって、「ワーホリを終えたいま」というタイトルに、ワーホリから帰ってくるまでのストーリーを2回分も使ってしまった。与えられた文字数で何を残すかを考えていたら1週間も経ってしまった。なんてこった。カナダから帰ってきてもうすぐ7年が過ぎるいま、自分は何を考えて生きているんだろう。最終回にしていまの考えを巡らせてみたいと思う。

 将来のことを考えるためにカナダに渡って、写真で生きていきたいと考えるようになり、自分の思いを形にするようになった。「i-D」というファッションメディアで2年間働いた。そこで現在の師匠と出会い、弟子入りすることができた。多分そのどれもが正攻法ではないのだけど、やっといま大学生で夢を見ていたような大きな輪っかの中に入れている気がしている。きっとどれもが欠けてしまったら、こうやって自分の肩書きで恩師からコラムを書いてくれなんて言われていないと思う。

 時代は移り変わっていま。俺はずっと憧れていた写真家に弟子入りをしながら自分の活動も並行している。好きなことを仕事にしたけど、写真っていうのはそれはいつでもやめることができる、限りなく「私事」と「仕事」が曖昧なもの。だから日本に帰ってきて写真を仕事にする、続けることがどんなに大変なのかも学んだ。表面的な「好き」って感情だけで写真はもう撮っていないかもしれない。きっともっとドロっとして摩擦を感じるような感情がシャッターを切る衝動に変わっている。もっと深くに、もっと鋭く物事をみていきたい。

 大学生が抱いた初期衝動と悪あがきがトロントに行ってビッグバンを喰らって写真家になった。先輩に言われた「マラソン」はゴールの見えない目隠し障害物走に変わっていた。学生時代に漠然と思っていた大人像とはかなり逸れているけど、あの頃よりも楽しいし、何より自分がわかる気がする。トロントで起きたビックバンがこんなふうになるなんて思ってもなかったよメーガン。魔法みたいな言葉だし、これからも大事な言葉。この文章が誰かのビックバンになれたら嬉しいな。