People. 15 vol.2 写真家 中田樹さん「0から1にすることの大切さ」|カナダワーホリを超えた今

0から1にすることの大切さ

 自分のルーツについて語る番組に出演することになればトロントに行って、あのオレンジ色の看板の一番安いピザを食べながらセカンドカップでコーヒーを飲んで、「ちょうどここで丸一日いながら友達としょうもないことばっかりしてた」って喋りたい。2週間ぐらい住む家がなくて友達の家を転々としたり、やっとの思いで見つけた住む場所に空き巣が入ったり、ルームメイトのメキシコ人の恋人が家に来た翌朝は絶対ふたりでタコスを作っていて、それを盗み食いしたりしたのもぜんぶ良い思い出。

 俺にとってカナダにいかないときっと出会わなかった考え方は「0から1にすることの大切さ」で、それは「思ってることを声に出して世に放つ」てことだった。人生ってのは足し算で進んでなくて掛け算ですすんでいくらしい。

 ある日コーヒーを飲んでいたら、隣に座っていた現地の人にシャツを褒められて(着ているもの褒められてどこで買ったかすごく聞かれるのが海外あるあるだと思う)ひょんなことからインスタグラムを交換した。そいつのプロフィールがいわゆる “スラッシャー”(肩書きごとにスラッシュをつけてそれがめちゃめちゃ多い人)ってことに気づいてそのわけを聞いてみると、「自分が少しでも興味あることは名乗るべきだし、いつチャンスが舞い降りてくるかわからない。俺は何になるかわからないけど、でもそのチャンスってのは突然現れるんじゃなくて、自分の投げたボールがいつかチャンスになって跳ね返ってくるんだ」って。

 そのとき俺の中でビッグバンが起きた。いままで他人からの評価を受けて初めて自分の存在を認めているってことに気づいた。将来やりたいことを決めるためにカナダにやってきたのに、俺はまだボールさえ投げてないって。見栄を張るがために自分の思いを具現化する一番最初のことさえできていなかった。

 だからカナダで「お前、写真とれよ」って言われたのがきっかけで写真にのめり込んで、みんなに写真家になることを言いふらしてた。写真とるってことが好きって「思う」だけだったら絶対にいまこうやってこんな文章は書いていないと思う。次は最終回みたいなので、カナダから帰ってきてからの思いを呟きます。