元気が出てきたトロントの食!だけど…あれもこれも、どこまで“上がり”続ける?|特集「海外で食をひろめる飲食人シリーズ1」

 パンデミックがひと段落し、レストランを含めフード産業に活気が戻りつつある。最近では業界として人手不足が叫ばれていることもあり、それほど今のレストラン業界の雰囲気が盛り上がりつつあると言えるだろう。一方「上がる」といえば、物価上昇の勢いも止まらない。私たちのお財布事情に大きな影響を与えているだけではなく、フード産業全体も大きなダメージを受けているのが現状だ。そんなダブルの意味で“上昇中”のフード産業を、さまざまな角度から数字で見ていこう。

1.① 20年で75.7%アップ!シビアな物価高

 物価について見ていくとき、一般的には消費者物価指数(CPI)という数字で比較される。Statistics Canadaの2000年から2022年までのCPIデータを比較すると、物価がずっと右肩上がりなのがわかる。グラフは2002年を基準値100として各年のCPIを示しているが、最新2022年9月にはCPIが153を記録しており、2002年よりなんと53%も物価が上昇していることになる。去年から今年にかけた1年だけでもCPIは6.9%上昇しており、物価上昇の波がカナダを襲い続けていることは明白だ。

 各項目別では、衣服(靴含む)を除く全ての項目で少なくとも20%以上物価が上昇している。

 中でもダントツの増加率を誇るのがアルコール飲料や大麻の項目。そして2番目に物価高の影響が出ているのが食品だ。20年で75.5%も物価が上昇したとは、なかなかシビアな現実がある。食品の物価は2021年1月(CPIは154.1)から急激な上昇気流に乗っており、2022年9月(CPIは175.5)までの約1年半で実に13.9%の価格高騰を達成していることがわかる。

1.② ステーキ219%↑ じゃがいも211%↑ 止まらない高騰

 より細かく、食料品1つ1つの項目で見ていこう。データは同じくStatistics Canadaが発表した2022年2月までの月ごとの価格推移だ(44品目)。その中で最も価格上昇が激しかったのは、ブレードステーキと呼ばれる牛肉(1kg単位)。もともと牛肉は高価ではあるが、この20年で約219%の価格上昇(13.4ドル)を経験した。

 次いで大幅な価格上昇を見せたのは、じゃがいもだった。2022年2月には10.33ドル(5.44kg単位)という価格だが、22年前の2000年1月には3分の1以下の3.32ドルであり211.1%も物価が上がった計算になる。一度2000年7月に11ドルを超えたこともあり、価格変動が激しい食品の一つと言えるだろう。

 その他、たまねぎ(149.5%上昇)、オレンジ(130.2%)、パン(127.3%)、卵(112.6%)など身近な食品が大幅な価格高騰を見せている。

 毎日飲む人も多いであろう牛乳(4ℓ単位)については、2015年10月からのデータのみになってしまうが、興味深いことに今年に入ってから価格の上がり方が激しい。これまで数セントずつの上昇だったが、今年1月から2月にかけて価格が40セントアップ。主要メディアの報道によると、今年2月以降に牛乳の価格は11%引き上げられている。2023年には価格をさらに2%上昇させることも発表されており(The Canadian Dairy Commission発表)、物価上昇の影響を大きく受けている食料品の1つだ。

 同じく乳製品のチーズは、20年間での物価上昇率が最も低い9.5%にとどまっている。しかし、今年1月から2月での価格上昇率が7.4%であり、比較的高い上昇率を見せた。

 全品目の2021年から2022年の1年間での物価上昇率を分析すると、平均8.9%上昇している。特に牛肉や鶏肉は10%以上価格が上がり、マッシュルームは15.5%アップ、砂糖12.7%、フライドポテト11.7%、コーンフレーク11.3%という上昇率を見せた。

2. 1万ドル単位で増える支出 家計も苦しい

 Statistics Canadaが公開した1世帯ごとの支出データ(2010年~2017年、2019年)では、毎年一定して支出が増えていることがわかる。2010年(7万738ドル)と2019年(9万3578ドル)の10年でも約2万3000ドル差があり、近年は家計が圧迫され続けているということができるのではないだろうか。食費(グラフ上)だけで見ても、2010年は7850ドルだったが2019年には1万ドルを超えて1万311ドルと、その差は約2500ドルにもなる。

 より詳しく、スーパーでの食費と、レストランに係る食費(外食費)で見ていく。2010年から2014年まではどちらも特に変化はないが、2015年以降上昇の兆しを見せ、2019年には前述の通り著しく食費が増えている。外食費以外は2010年の5709ドルから2019年には7536ドルにまで増え、外食費も2010年には2141ドルだったものが2019年は600ドル以上増えて2775ドルになった。付け加えておくと、2010年から2019年では食品の物価(CPI)が21・8%上昇しているため、食に関する支出自体が増えることは仕方がないことだと言えるだろう。

 2020年以降は1世帯でのデータがないものの、全世帯での支出合計データ(四半期ごと)を使って分析してみたい。パンデミックが始まった2020年第1四半期から第2四半期では、支出が計472億ドル減少。食費だけでも85億ドル減少し、これはロックダウンなどの影響で外食が極端に減ったからだと推測できる。

 その後2021年第3四半期からまた支出は伸び続け、ついに最新の2022年第2四半期には3680億ドルに達し、食費はうち598億ドルを占める。とはいえ、毎年同じように世帯数も増加していることを考慮すると、支出額が増えるのは当然といえる。

 では全体の支出のうち食費の占める割合はどうかというと、実はほとんど変わっていないということには触れておきたい。2020年第1四半期は食費が16・2%を占め、それ以降15%後半を維持しつつ2022年第2四半期は16・3%を占めた。家計全体の支出は増えても、食費の割合自体は変えない傾向にあるということだろう。

3. レストランも悲鳴!メニューの価格7%アップ?!

 物価上昇の影響を受け、レストラン関係者たちも悲鳴をあげている。今年4月にRestaurants Canadaが実施した調査によると、レストラン経営者たちは今後1年で平均約7%メニューの価格を上げるつもりだという。7%以上の予定だと答えたのは32%で最も多く、4~5%と答えた18%が2番目に多かった。現在レストランが直面している問題として挙げられたのは、やはり1位が食料コストだった。2位は労働コスト、3位が労働者不足となっている。回答者の94%が食のコストが問題であると回答しているのを見ると、物価上昇がフード産業全体にかなり深刻な影響を与えている。

4. 最高30%も?チップも絶賛インフレ中

 「チップフレーション(Tipflation = Tip + Inflation)」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。以前はチップを要求されなかったものにチップがついたり、チップ料金が上昇したりすることを指す。チップ文化のあるカナダでは、ここにも新型コロナウイルスの影響が出ているようだ。

 一般的に、カナダでは食事代の10~20%がチップとして考えられているが、Restaurants Canadaによると、2022年4月現在でのチップ平均は17.9%との調査結果が出た。パンデミック以前は平均16.6%だったとのデータがあり、約3年で平均が1%以上アップしたことになる。同調査に参加した1500人のうち44%はコロナ以前よりも多くチップを払うようになったと回答。店によっては30%のチップ表示をするところまで現れたようで、チップのインフレが進行中だ。女性は男性よりも多くチップを渡す傾向にあり、さらに55歳以上は気前良くチップをわたす傾向にあるということも、調査の結果わかったという。

5. これでも減った?コーヒー1日3.6杯 → 2.7杯

 コーヒー大好きなカナダ国民だが、2021年のCanadian fast food industry statistics for 2021という調査によると、カナダ国内のファストフード店はTim Hortonsがダントツの1位で4268店舗。売り上げ1位もTim Hortonsで、カナダに住む人たちがいかにコーヒーを飲みに立ち寄るかがわかる。

 ではコーヒー消費量はどうだろうか。アメリカ農務省による今年6月のデータによると、カナダのコーヒー消費量は2010年から一定して増加している。2021年から2022年にかけては推測値ではあるが503万袋(1袋60kg)を超える見込みであり、これまで400万袋台であったものがついに500万袋を超えたことで、今後もコーヒー消費量はますます増えていくと考えられる。

 カナダで定期的にコーヒーを飲む人は1日平均2.7杯飲むとされ(Coffee Association of Canadaの2020年のデータによる)、1日の推奨されるカフェイン摂取量に近いと言われている。これでも多いように感じるが、実は1日に飲むコーヒーの量は減っているとみられている。2008年には3.6杯だったというデータがあり、10年近くで1杯減ってしまった。とはいえ、調査対象者18~79歳の回答者71%が調査の24時間以内にコーヒーを飲んでいると回答したとのことで、やはりカナダ人はコーヒーを愛してやまないようだ。

6.① 多様性に富んだトロントの食。日本食は4位!

 実はトロントは「世界で最も食の多様性に富んだ都市」と言われていることをご存知だろうか。世界各国の料理が楽しめるトロントのレストランマップ、をグーグルマップのデータをもとに作成してみた。トロント市内(一部近郊地域含む)にあるレストランやカフェ8024店の位置を丸で示している(一部取得できなかったデータあり)。それぞれの店舗がグーグルマップ上で表示しているカテゴリー別に色を変えている。データには細かく248種類のカテゴリーがあったが、便宜用13種類にグループ化して見ていこう。

 まずレストランの位置だが、ダウンタウンに集中していることが一目瞭然だ。カテゴリー別で見ると、レストランが2022店舗でトップ(25.2%)、アジア料理が1507店舗(18.8%)、ハンバーガーやピザ店が1163店舗(14.5%)、カフェ&スイーツが766店舗(9.5%)と続く。より細かく分解すると、「レストラン」という曖昧なカテゴリー以外ではバーガー店が646店で最も多い。ここで驚きなのは、なんと4位は日本食(寿司とラーメン含む)。日本食はかなりトロントで愛されているようだ。そしてやはり人口の多い中華系のレストランも多く(363店舗)、人気のイタリアン料理もある程度レストラン数が多い(255店舗)。その他かなりレアだが、グアテマラ料理、ニカラグア料理、ラオス料理(それぞれ1店舗)などもあり、さすが多様性のある都市・トロントだ。

6.② 大きな駅と大通りにはレストランがたくさん!

 地図をダウンタウンにフォーカスしてみると、面白いことにブロアー×ヤング駅とユニオン駅周辺により多くの店舗が集まっているようだ。また、ブロアーストリートやヤングストリートのような大通りに沿っても店が立ち並んでいることがわかる。中華料理は市内全域に広く点在しているものの、やはりダウンタウン内のチャイナタウン付近に一種のクラスターがある。またクリスティ駅近くのコリアンタウンには、韓国料理店が比較的集まっていることがわかる。韓国料理、中華料理ともにノースヨークにも店が集まっていて、さすがアジア人が多い地域と呼ばれるだけある。アフリカ料理はダウンタウンにもいくつか店はあるが、トロントの西側(トロントピアソン国際空港の東側)に集まっていることがわかった。ジェーン&フィンチやレックスデールにアフリカ系のコミュニティーがあると言われているため、レストランが集まっている理由として納得がいく。

6.③ 1位 アフリカ料理☆4.41、アジア料理は☆4.14

 カテゴリー別に評価の星の数に差はあるのだろうか。実際はあまり大差ないが、アフリカ料理が4.41で1位、ヨーロッパ料理が4.3で2位、そして日本料理を含むアジア料理は下から2番目の4.14と比較的低い傾向がある。より詳しいカテゴリーで見てみると、デリバリー店の評価が4.67と最も高く、中華料理が3.98で最も低かった。日本食は4.29と決して悪くないが、インド料理(4.12)やタイ料理(4.08)もワースト10位以内に入っているのを見ると、アジア料理は店舗数が多いだけに評価数もばらつきがでてしまうのかもしれない。