「6%DOKIDOKI」原宿系ファッションブランドのプロデューサー 増田セバスチャン氏 インタビュー|カナダを訪れた著名人

「6%DOKIDOKI」原宿系ファッションブランドのプロデュースや、アートディレクター・アーティストとして「KAWAII」カルチャーを海外に伝え広めて来た日本文化の伝道師 増田セバスチャン氏

 センセーショナル・カワイイ」をモットーに、原宿系ファッションブランド「6%DOKIDOKI」を通して海外に「ジャパニーズ・ポップ・カルチャー」を発信し続けている増田セバスチャン氏。今回TORJAでは、ジャパンファウンデーション・トロントでワークショップを開催したタイミングでインタビューを敢行。常に新しいアートを追い求めるトップランナーの目に映るカナダ、東京オリンピックを控えた日本についてなど、ご自身の考えについて幅広くお話を伺った。

ー今回、カナダのモントリオール「Otakuthon」やミシサガの「Japan Festival」に参加することになったキッカケを教えてください。

 
 数年前にニューヨークで行ったジャパンソサエティのイベントに来てくれたカナダ人のアレクシアという女の子に、「どうしても僕をカナダに呼びたい」と言われたことです。「6%DOKIDOKI」を好んでくれる方は世界中にたくさんいますし、そういう考えを持っている方も多くいましたからね。ただ、自分の仕事が忙しかったのもあって、一回流れました。でもアレクシアは非常に積極的で、そのあと日本に来て同じ話を僕にしてきたんです。そこから話が始まって、月1回スカイプで打ち合わせをしながらここまで組み上げていった感じですね。

 カナダを選んだ理由は、やはりアレクシアの熱意が大きかったからですね。彼女がいなければ、馴染みのあるニューヨークや別の場所でやっていたと思います。

ーバンクーバーには何度かお仕事で訪れた経験があるそうですが、モントリオールとトロントは今回初めてだそうですね。それらを踏まえてカナダという国に対してどのような印象をお持ちですか?

 いや、もうほんとに「こんなにアメリカに対抗意識あるんだな」と思いましたね(笑)。あとは、カナダ人はヨーロピアンのマインドを持つ人が多いと感じます。今回モントリオールのイベントには両国から女の子たちが参加してくれたのですが、カナダ人の方が、いろいろ細かく気を配るような子が多かったですね。それと、ニューヨークに比べるとトロントは綺麗です(笑)。

〝「KAWAII」を単なる「流行」で終わらせてはいけない〟

ー現在「New Generation Kawaii Tour」と銘打ち、若い世代の方々とともに活動をされていますが、それについて詳しくお聞かせください。

 2009年から「Harajuku “Kawaii” Experience」という活動を始めたのですが、その当時はまだ「KAWAII」という言葉が全然世界に浸透していなかった時代でした。

 だからその頃は、日本の「KAWAII」という概念を広めていくのが目的だったんです。

 それから10年経って現在は「きゃりーぱみゅぱみゅ」や「6%DOKIDOKI」とともに日本のポップカルチャーとしての「KAWAII」が世界的に知られるようになりました。その時に、「KAWAII」を単なる流行で終わらせてはいけないと思ったのです。僕も50歳近いので、あと自分がフレッシュな感覚で活動できる期間を考えたときに、この日本のポップカルチャーがリスペクトされている流れを若い世代に伝えていかなければいけないと考え、そのスタートとしてアレクシアからのラブコールに応えることにしました。
 

ー本業のアーティスト活動と並行して行うのは、非常に大変そうですね。

 そうですね。なので、持ち出しの多いツアーなんです(笑)。準備が間に合わないものは自腹を切ったり。でもそこは、若い世代の子がユーチューブやインスタグラム、フェイスブックで支援を呼びかけたり、スポンサーを集めてきたり、クラウド・ファンディングなどを使ってサポートを募って来てくれています。

 ただ、僕としては、彼女たちがそうした経験をすることこそが大切だと思っています。彼女たちが自ら支援を集めて物事を進め、僕はサポートにまわるだけ。仕事に対するタフさを若い世代の彼女たちが体験し、身につけられるようにしています。人が関わるということは、楽しいことばかりではなくて嫌な思いをすることもたくさんありますから。
 

〝日本の持つ精神性を、日本人はもっと誇りに思っていい〟

ー日本のポップカルチャーの強みとは、どういった点にあると考えますか?

 海外に来るとよくわかるんですが、やはり日本人は緻密で繊細で物事を細かく詰めていくことに長けていると感じます。例えば、海外のアニメ・コンベンションに行ってみると、大雑把なコスプレをよく見かけるんですよ。でも日本人は細かく精巧にものをつくります。そこにカルチャーに対するリスペクトとクリエイティブさを感じますね。

 どうして今「KAWAII」とか日本のポップカルチャーというものに注目が集まっているのかというと、今の日常って、色んな場所で戦争やテロみたいな息が詰まるようなことが連続しているんですよね。そこから自分を保つために「日常の中の〝非〟日常」をつくることが求められるようになったのです。そして日本人はそれをつくることに長けていると思います。

 例えば、日本のお城でも部屋の屏風絵や襖絵が豪華絢爛だったりするじゃないですか。そういうのも日常の中に非日常をつくる仕掛けだったと思うんです。そういった精神性が、息の詰まるような日常が続く現実の中で、自分を解放する思想=「KAWAII」という形で世界に広まっていったのだと思います。

 欧米や西洋の「成功する」って、なんとなく「高級ホテルでシャンパンを飲むこと」みたいなものを連想しがちだと思いますが、日本には小さなフィギュアに100万円払う人がいるわけですよ。でもそのどちらが幸せかを測ることは出来ません。物質的に満たされることが良しとされる世の中だからこそ、精神的に満たされることを認める日本に注目が集まったのだと思います。

〝分断化が進む世界に危機感。アーティストとして作品を通じて問いかけるために2020年には「壁」をテーマにした作品をニューヨークで発表予定〟
増田氏の情熱に火をつけたアレクシアさん(左)
増田氏の情熱に火をつけたアレクシアさん(左)

ー原宿の「KAWAII」カルチャーは全世界に広まり、「原宿」=「KAWAII」の図式が出来上がりつつあります。今後、日本のカルチャーをさらに世界に浸透させていくにはどのようにすればいいと考えておられますか?

文化というものは人と人のつながりで広まっていくものだと思っています。

 そして、国が文化活動に対して支援することは大切だと思います。韓国の文化コミュニケーションフォーラムのゲストで招かれたことがあるのですが、彼らはプレゼンがすごくうまいんです。歴史的な文化体験から始まって、今のカルチャー、それこそ「BTS」などをちゃんとアピールする。日本は民間でやるしかないことを、韓国は国で取り組んでいるんですよね。その後にスピーチ求められたら、もう「最高」っていうしかないんですよ(笑)。

〝若者支援するNPO「HELI(X)UM(ヘリウム)」の立ち上げ〟

 

 それと私の活動としては新たに若者支援するNPO「ヘリウム」を立ち上げました。日本のアートや文化を学びたい海外の若者と、海外で学びたい日本の若者を支援していくことが目的です。多くの若者と制作を行う中で感じたアートへの危機感に対して、もっと彼らに創作の場を提供したり、交流できる機会をサポートしたいと考えています。

ー増田さんが「KAWAII」に込めている想いと「原宿」という場所の価値について教えてください。

 どうしても「KAWAII」というと表面的な部分で語られてしまいますが、今はその段階は過ぎて、哲学になっていると思います。これによって色々なしがらみから解放されるんですよ。大人になって家庭を持って、仕事をしていくだけじゃなくて、色んな人生があることに気が付くことができる。

 僕も学生時代、周りと趣味が合わないことがありましたけど、週末に原宿に来ると自分と趣味のあう人がいるんです。昔はインターネットもなかったので、原宿っていう街がコミュニティとして存在していたんです。僕にとっての原宿は、自分をステップアップさせてくれた場所だと言えるんですよね。

 2020年の東京五輪に向けて、原宿も含めてどんどん観光地化して大きな資本がたくさん入ってきているので、ある意味賑やかになっています。ただ、2021年には一度原宿が焼け野原のような状態になると思います。オリンピック終了に合わせて参入してきた大企業が土地を持て余して撤退すると思うので、その時こそ若い世代が新しいことを始めるチャンスなのではないかと思います。

〝未来はカラフル〟

ー最近、注目しているアーティストはいますか?

 アーティストというよりも、今僕が一番クリエイティブだなと感じるのは「場をつくる人」だと思います。今の時代、モノはいくらでも作れますから、人を集めて場をつくることが出来る人こそこれから先最もクリエイティブになっていくでしょうし、注目していますね。そうやってできた場の中から、アーティストがピックアップされて世に出ていく。今の時代はそういう仕組みになっていると思います。

ートロントに来ている留学生へ向けて、メッセージをお願いします。

 恐れずに何でも取り組むことが何よりも大切だと思います。日本人同士で固まってしまうのではなくて、グローバルな視野を持つことが大切です。その視野でみると、日本と日本人がやっていることや取り巻く環境は決してスタンダードではないですから。せっかくカナダに来ているので、そういった見方からどんどん抜け出てチャレンジしていった方がいいのではと思います。

 僕は自分の生徒にはよく「未来はカラフル」と言っています。日本のカルチャーはいつまでも「着物」や「和太鼓」というわけではなくて、もちろんそれらも大事にされるべきものですが、今世界にどういったものが響いているのかを日本人にこそチェックしてほしいなと思います。

増田セバスチャン氏

 1970年生まれ。90年代より演劇・現代美術の世界で活動をはじめる。1995年より原宿に活動拠点を持ち、一貫した独特な色彩感覚からアート、ファッション、エンターテインメントに渡り作品を制作。8月16日~18日にはモントリオールにて「Otakuthon」に参加。原宿ファッションをもとにした自身のブランド「6%DOKIDOKI」もプロヂュースも手掛け、2019年8月にはジャパンファウンデーション・トロントでワークショップや、ジャパンフェスティバルでファッションショーも開催した。