物価と最低時給の上昇、円安の影響はいかに?|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第51回

物価と最低時給の上昇、円安の影響はいかに?|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第51回

オンタリオ州・最低時給が15ドルから15・50ドルに

 今月の一日よりオンタリオ州の最低時給が改定され、15ドルから15・50ドルに引き上げられました。今年の1月に14・35ドルから15ドルに引き上げられたばかりですので、今年1年で8%も上がった計算になります。2007年時点で最低時給は8ドルでしたので、15年でおよそ二倍です。一見すると大幅に上がっているように見えますが、実際、労働者の生活や物価上昇という観点からするとどうなのでしょうか。

 最低時給はConsumer Price Index(CPI)、すなわち消費者物価指数をベースに変動しており、カナダは消費者物価指数が年平均で2%ほど上昇し続けています。という事は、複利も考慮すると、十数年で3~4割ほどの上昇が順当といえます。しかし、それに加えて、昨年はついに消費者物価指数の上昇率が4%台に、そして今年は6月に8%を超えました。さらに、豊かな国であれば、労働者の生活の安定や向上という観点から、最低時給の上昇はあってしかるべきで、労働能率もテクノロジーの恩恵などによって上がっていくものですから、今年1年で最低時給が8%上がったことも、ここ15年でおよそ二倍になったことも、当然の結果と言えるのかもしれません。

日本はというと・・・

 ここで一旦、日本に目を向けてみると、違った状況がみてとれます。2000年以降、日本はずっとデフレ傾向で、消費者物価指数の上昇率は0%からマイナス1%ほどを推移しており、2014年頃からプラスに転じることもあるものの、現在は世界的なインフレにも関わらずプラス2%ほどにとどまってしまっているという印象です。当然、最低時給も上がりづらく、2007年時点での全国加重平均は687円で、現在はそれが930円ですから、やはり15年で35%ほどの上昇にとどまっており、カナダと比較すると少しさびしい感じがしてしまいます。

 それに追い打ちをかけるように、日本は諸外国との金利政策の違いから、急速に円安が進んでいることはみなさんの知るところです。先月、ついに対カナダドルで110円を超えたので、オンタリオの最低時給15・50ドルはおよそ1700円になります。一日8時間、週5勤務でおよそ30万円、年収にして360万円です。最低時給にして日本の平均年収にせまる勢いで、さらにチップの収入などがあれば日本の平均年収をゆうに超えることになるでしょう。

腕のよいラーメン職人は海外に流出する!?

 ボストンで「Tsurumen Davis」というラーメン屋を営む大西さんによると、ボストン中心部のレストランの皿洗いの時給は22ドルだそうです。ラーメン屋でも1年目の社員が完全週休2日で月に4千ドル以上、店長クラスで5千ドル以上、アメリカドルでこの給与ですので、今の為替レートで実に72万円になります。大西さんによると、給料の上がらない日本から出稼ぎに海外に出て、日本に仕送りをするというような未来もありうるのではと指摘していますが、それが、きわめて合理的で真っ当な判断と言わざるを得ないのが、何とも恐ろしい事実であると感じます。

 実際、腕のよいラーメン職人は海外に流出するだろう、というような話も頻繁に耳にしますが、自分自身、ここカナダでラーメン屋をやっていると、同じ作業をして日本では800円でしか売れないものが、ここでは倍の値段で売れてしまうので、どちらが良いかと問われれば、考えるまでもありません。それに加えて、ラーメンは非常に自由度の高い食事で、まだまだ進化の途中であるといえます。

 もちろん日本でもラーメンはさらに進化していくと思われますが、海外でしか成立しえないラーメンの進化の可能性は未知数です。海外でラーメンで一旗あげて外貨を稼ぎ、日本で悠々自適に生活するというような未来もあり得ます。日本に住む有望な若者が、そういった夢をもって海外に出て挑戦することを切に望みます。