スケボーと多様性のあるコミュニティー|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第47回

スケボーと多様性のあるコミュニティー|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第47回

 先月からぐっと気温も上がってきて、ようやくぽかぽかと暖かい爽やかな春がやってきました。トロントの春は極端に短く、すぐに夏がやってきてしまうので、春らしいアクティビティをするなら今のうちです。僕は長い冬のあいだずっと、この季節を心待ちにしていました。屋外のスケボーパークで思う存分スケボーを楽しむためです。

パークはいつも、人種や年齢、性別にとらわれない老若男女であふれかえっている

 コロナ以降、やりたいことをやりたくて、怪我の心配などもあって手をつけられなかったスケボーをついに始めました。さいわい子供たちも一緒に遊んでくれるので、仕事終わりや週末に時間を見つけては、みんなでパークに繰り出しています。家から車で15分圏内に、いくつもパークがあるのもカナダならではの環境かもしれません。

 1年やそこらではなかなか上達しませんが、年の離れたキッズやティーンネイジャー、おじさんスケーターに至るまで、初心者の自分にアドバイスをくれ、トリックをメイクすると拍手や声援を送ってくれます。出来ないことを馬鹿にするような空気はみじんも感じず、むしろそういった行為がダサいとさえ感じられるカルチャーに居心地の良さを感じています。

 トロントには日系親子スケーターのコミュニティーもあり、同世代の子供をもつ親たちと一緒に滑っているのも、楽しみながら続けられる理由の一つです。社会でその必要性が叫ばれている「多様性」があるコミュニティーが確かにそこに存在し、スケボーが好きという一点で、僕たちは世代やバックグラウンドを超えた繋がりを感じることが出来ます。

「どこの国の選手ですか?」

 昨年、東京オリンピック男子ストリートで金メダルをとった堀米優斗選手と、「ゴン攻め」、「ヤベえ」、「ビッタビタにはめてきましたね」といった砕けた解説で話題になった瀬尻稜選手が、インタビューで好きな選手を聞かれた際、声をそろえてナイジャ・ヒューストンと答え、さらに「どこの国の選手ですか?」とインタビュアーに聞かれると、二人は顔を見合わせて、「知りません」と答えたそうです。

 この逸話をはじめて聞いた時、僕はナイジャが日本人のクォーターである事や、東京オリンピック女子パークで銅メダルをとった若干13歳のスカイ・ブラウン選手が、日本人のハーフである事を理由に注目していたことを恥じました。

多様性の対極にある単一的な価値観や考え方に染まったツマラナイオトナ?!

 人は、時に国を背負う必要性にせまられることもあるのかもしれませんが、ただ好きなことをトコトンやり続けた結果として、世界の頂点の舞台で活躍している彼らに、国の尊厳やメダルが何個というような期待を押しつけるのは、はた迷惑で野暮ったいことなのだと気が付いたのです。

 ママさんスケーターが、子供の前でマリファナを吸いながらすべっている光景にギョッとしたこともありますが、その光景を切り取って「彼女が良き母ではない」と決めつけることは出来ません。しかし、世間にはそういった言説があふれていて、ともすれば、僕も堀米優斗選手や瀬尻稜選手の側ではなく、多様性の対極にある単一的な価値観や考え方に染まったツマラナイオトナなのかもしれない、と肝に銘じておく必要があると強く感じています。