気候変動と穀物、食肉事情|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第38回

気候変動と穀物、食肉事情|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第38回

 先日、オンタリオ州のロンドンから更に南西に1時間ほど走ったボスウェルという田舎町をおとずれました。パンデミック後、トロントから移住した友人家族のもとで数日間お世話になり、広大なトウモロコシ畑にぽつんとたたずむ住まいでスローライフを満喫したのですが、聞けば、そのトウモロコシはすべて飼料用だそうで、その規模に非常に驚かされました。ということで今回は、今後の穀物、食肉事情について書いてみたいと思います。

 アメリカ合衆国中部のハイプレーンズと呼ばれるエリアでは、アメリカ全体の穀物生産量の25%を占める、年間5千万トンもの穀物が生産されていて、これは実にカナダやドイツの一国分に相当します。そして、この穀物生産を支えるオガララ帯水層の枯渇がはじまっています。この帯水層は、中西部・南西部の8州にもまたがる広大な地域をカバーしており、なかでも特にカンザス州やテキサス州の枯渇は深刻で、すでに何百メートル掘っても水が出てこないという状況です。

 この水不足がもたらす一つの結果として、穀物生産量の減少、そして価格の高騰があげられます。加えて、世界の人口はこの先も確実に増え続けます。これは米や麦、コーンが食べられなくなる、という単純な話ではなく、穀物を飼料とする牛や豚、鶏の生産にも影響します。日本は戦後の復興を経て、豊かになっていくにつれて食肉消費量は10倍になりました。国が豊かになると食肉文化が広がる、というのが世界の定説で、現在は同様の傾向がアジア諸国で広がっており、今後、それはアフリカ諸国へと広がっていくことでしょう。そうすると当然、肉の価格高騰も避けられません。

 こういった経緯や、地球温暖化を加速させていると言われる、牛がげっぷやおならとして放出するメタンガスの問題が後押しして、代替肉の早急な市場流通が叫ばれています。普段は代替肉で、リアル肉は月イチ、もしくは誕生日や記念日だけ、なんて未来もすぐそこまで来ているのかもしれません。なかなか実感がわきませんが、6月にBC州のリットンを熱波が襲い、84年ぶりに最高記録を2日連続で更新したのは記憶に新しいところです。また先月、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球の温暖化は人間が原因であるとはじめて断定しました。2040年には地球の気温は1.5度上昇し、異常気象の乱発や海面上昇は避けられないというシナリオは、残念ながら確実におとずれる未来です。

 では、こういった地球のダイナミックな変化によって、ラーメン業界はどんな変化にさらされるのでしょうか。一つは先にもあげた代替肉への切り替えで、スープやチャーシューにリアルな肉や骨が使われなくなる可能性があります。かつてはワンコインで食べることができたリアルなトンコツラーメンが、高級品になる可能性も十分にあります。もう一つは、鶏ベースのラーメンの増加です。今や世界の穀物生産量の半分は畜産の飼料に使われていますが、肉1㎏を生産するのに、牛なら11㎏、豚なら7㎏、鶏なら4㎏の穀物が必要だといわれています。そうなると、必然的に穀物価格の高騰を受けにくい鶏をつかったラーメンが増えるのでは、と踏んでいます。

 こういった変化を、果たして世界が受け入れられるかどうか疑問ですが、自分が生きている間に、かなりドラスティックにライフスタイルを変化させる必要があると思います。しかし、IPCCの言うように、これは人類がやってきたことに対する結果であり、しかも僕たちは、この生きづらい世界を、子供や孫に押しつけることになります。そう考えると、「How dare you!」と、嫌みの一つでも言いたくなってしまいますね。