9月といえば、カナダでは新しい学年、新しい学校の始まりの時期だ。大学に限らず、高校留学も盛んなカナダに興味を持っている日本人は多いのではないだろうか。将来子どもをどこの学校に入れるか悩んでいる人にも、カナダの教育システムを一から知ろうとしている人にも、今回はカナダの教育事情、学校現場のイマについてさまざまな角度から紹介したい。
#01.大学世界トップ200に7校
やはり気になる世界の大学ランキング。U.S.Newsが毎年発表するランキングによると、世界の総合大学ランキングでカナダからは3校がトップ100に入った。世界的に評価されているトロント大学(17位)をはじめ、同じく名高いブリティッシュコロンビア大学(39位)、マギル大学(56位)はトップ100の常連校だ。どの大学も学生数が3万人を超えるマンモス大学である(トロント大学にいたっては約8万人)。
カナダに絞って見てみると、先に述べたトップ3校に続いてハミルトンにあるマックマスター大学(世界127位)、アルバータ大学(世界150位)、モントリオール大学(174位)、インターンの充実性で知られるウォータールー大学(世界192位)がランキングに入った。世界トップ200に7校ランクインするというのは、いかにカナダの教育レベルが高いかを表していると言えるだろう。実際、良い教育を提供する国ランキングでカナダは世界4位に輝いている。
#02. 小学校10年、高校4年のシステム
永住者はカナダの教育システムに詳しいかもしれないが、今後カナダ移住を考える人向けに少し基本的なシステムについて紹介したい。
日本と異なり、カナダの“小学校”、つまり「エレメンタリースクール」は実は日本でいう幼稚園から始まる。4歳から学校に入って「キンダーガーテン」で2年過ごしたのち、小学1年生にあたるグレード1が始まる。日本の中学校という概念は厳密にはなく、小学校は幼稚園からグレード8(中学2年に相当)までの10年間と長い。
公用語が2つあるカナダでは、英語の学校もあればフランス語で授業を進める学校もある。ちなみにオンタリオ州では英語の学校がフランス語の7倍ほど多い。2022~2023年のオンタリオ州におけるエレメンタリースクール入学者は計140万8000人で、移民増加の影響もあり数は増え続けている。
高校は「セカンダリースクール」と呼ばれ、グレード9(中学3年に相当)からグレード12(高校3年に相当)までの4年間通うことになっている。日本の高校とは異なり専門性を決めて学ぶことができるため、芸術系、STEM系などさまざまなタイプの学校がある。また、カトリック系などのタイプもある。オンタリオ州では2022~2023年に約64万6000人が入学している。
#03. グレード11~1280%が大学レベルのコース履修
カナダの高校にあたるセカンダリースクールは、大学進学、さらにはその先の将来のキャリアパスまで見据えたプログラムを用意している。トロント教育委員会(TDSB)の2023年の年次報告書を見てみると、グレード11とグレード12の80%が大学レベルのコースを1つ以上履修しているという。大学レベルのコースとは、例えば会計や美術、さらに科学、技術、工学、数学(合わせてSTEM)を専門に学ぶことができるクラスなどを指す。
STEMに関してオンタリオ州は特に力を入れていることもあり、2023年には50校を超える学校の生徒たちが大学と提携した研究ベースのラボ体験をしたり、8000人を超える生徒が天文現象に関して学習することができるプログラムに参加したりした実績がある。豊富なプログラムは高校生の未来をつくることに大いに貢献している。
#04. ON州の成績優秀校、トップ10にトロント2校
レベルの高くプログラムも充実した高校が多いトロント。オンタリオ州の高校の成績を評価した報告書(Fraser Instituteによる)によれば、トロントの学校2校がトップ10に名を連ねている。
教育情報を載せたサイトである「CANADIAN UNIVERSITY Real Estate」の作成したトロントの高校ランキングでは、カトリック系で男子校のセントマイケルズ合唱高校が1位に挙げられた。名前の通り音楽に重点を置いていて、入学するためにオーディションが必要というおもしろい特徴がある。また、学業成績はオンタリオ州で2位の9.4/10点評価を受けるほど高い水準を誇る(Fraser Instituteのレポートより)。2位は公立のウルスラ・フルンクリン。テクノロジーと化学を中心に学ぶことができ、小規模な学校として評価が高い。オンタリオ州では6位の成績優秀な学校に選ばれ、評価は9.2/10だった。3位はカトリック学校であるカーディナル・カーター・アーツだ。この学校もオーディションにより入学ができ、さらに希望する芸術クラスに空きがあれば随時入学できるという独特のシステムがある。成績も非常に良く、オンタリオ州では8.8/10と評価され優秀校ランキング12位に選ばれた。
#05.私立高校の学費留学生は1年で9万ドル
留学生や移民にとって、学校選びの際に重要になってくるものの1つが学費だろう。大学留学の際は、大学かカレッジか、公立か私立かによって学費は大きく変わってくるが、そもそも留学生の立場では市民よりも通常3、4倍ほどの学費を払う必要がある。大学のレベルが高いほど、高額な費用が必要なケースが多い。例えばトロント大学コンピューターサイエンス学部は、オンタリオ州の市民なら1年で6100ドルの学費を払えば良いが、留学生の場合は10倍の6万ドルが必要だ。
大学に限らず、私立高校の学費も驚くほど高いことがある。カナダの教育などの情報を提供する「Our Kids-The Trusted Source」が集めた国内の私立高校の学費ランキングを見てみよう。1位はブリティッシュコロンビア州のブレントウッド・カレッジ・スクールで、学費は最も安いのが通学生で3万2000ドル、留学生(寮生活)はなんと9万6300ドルだ。4位にランクインしたオンタリオ州オークビルのアップルビーカレッジは、一番安い通学生でも4万5250ドル、留学生(寮生活)は9万270ドル。23位でトロントにある男子高のアッパー・カナダ・カレッジ(UCC)は、通学生が約4万ドルで留学生は約8万ドルとなっている。
学費が高い背景には、洗練された施設があったり特別なプログラムがあったりといった事情もある。例えばブレントウッド・カレッジ・スクールは週6日授業で多くの学生が寮生活を送り、アート専門の施設があったり科学センター、スポーツ施設、大学進学サポートがあったりと充実している。
#06.グレード1~12トロントに2000人以上の留学生
トロント教育委員会(TDSB)によると、現在留学生を受け入れているセカンダリースクール(高校)はトロントに約30校ある。留学生が入学できる高校というのは決められていて、中にはロボット工学プログラムや国際バカロレアプログラムを提供する学校、大学やカレッジの単位を取得できるような学校などもあり、単に高校生として留学するというよりも将来を見据えてより専門に力を入れる留学ができるのがカナダ留学の魅力だ。セカンダリーに限らずエレメンタリースクールも学校によってはELS(語学学校)があるところもあり、英語に不安がある生徒でも授業についていけるようなシステムが構築されている。
2020年と少し前のデータにはなってしまうが、当時トロント地区にはエレメンタリーとセカンダリーに合わせて2108人の留学生が在籍していた。エレメンタリーの留学生数はある程度一定だが、セカンダリーでは2008年から増え続け、新型コロナウイルスの影響はあったもののカナダが積極的に海外からの学生を受け入れていることがわかる。内訳としては中国が約47%で最も多く、次いでベトナム22%、イラン8%、韓国5%だった。
#07. G7で学位取得者数1位
2021年の国勢調査によると、カナダはレベルの高い大学教育と高学歴の移民が多く入ってきたという事情もあり、G7の中で最も教育水準の高い労働力を誇るということがわかっている。データによると、25~64歳の労働者のうち57.5%がカレッジもしくは大学の学位を所持しており、これは2位の日本と比べても約2%上回りG7の中で1位に輝いた。
Statistics Canadaによると、2021年には生産年齢人口の約3分の1である640万人が学士号以上の学位を持っているとされ、この割合は2016年より4.3%増加した。この増加のうち約半数を移民が占めているという。学士号を持っているのは女性の割合が多いといい、カナダ生まれの女性(25~34歳)は39.7%が2021年に学位を取得し、一方の男性は25.7%にとどまった。
移民の場合は学歴が高くても職につけないという問題があると言われてはいるものの、高学歴の人材が国に多く入ってきているという事情は、カナダにとってはとても明るいニュースだと言えるだろう。
#08. 教室数不足、ON州が通常の2倍の支援額
人口が増え続けるカナダの教育現場で大きな問題となっているのが、生徒の数に対して学校の数が足りないということだ。オンタリオ州政府は、州内の60校で学校建設や拡大を支援するために歴史的な額となる13億ドルを投資すると発表した。これはこれまでの資金拠出の2倍の額に値し、これによって約2万7000人の生徒のためのスペースと1700の保育スペースが新たに設けられることになる。
教室の数が足りないため、いくつもの学校が実施しているのがプレハブ小屋の活用だ。学校の中にいくつかのプレハブ小屋を置き、そこで実際に授業を行う。教室の数が足りないという問題は10年以上前から言われていていたが、オンタリオ州に限らず他の州でも同じような傾向が見られ、例えばブリティッシュコロンビア州サリー地区では地区内124校のうち83%が定員オーバーで、学校使用率は103%となっている。急速に増える生徒数に対応すべく学校建設が進められていても、どうしても間に合わないためプレハブ小屋という対策を取るしかないのだ。政府による支援によって、一般的な教室で教育を受けられるような環境づくりが求められている。
#09. 教師不足を感じる学校、ON州で約30%
日本だと1クラス20人と少人数の場合もあれば、多い時には40人近くを1人の担任教師が受け持つこともある。カナダでは生徒1人1人と教師の距離が近くなるようクラスサイズは小さく設定されている。しかし移民大国カナダでは学生の数がかなり増えてきているという事情があり、そのために教師の数が足りなくなっている。
Statistics Canadaによると、カナダで2018年から2021年の公立学校(エレメンタリー、セカンダリー)に通う生徒数は年々増加し、1年に5万人以上が増えている。一方の教師の数も年々増えているものの、数千人の増加にとどまっている(Statistaのデータより)。単純計算すると1教師が担当すべき生徒数は12~13人で安定しており、教師の数が極端に足りないというほどではない。しかしオンタリオ州が実施した学校調査では、フルタイムの教師を含めアシスタントや事務職員などの数が日常的に足りないと答えた学校がエレメンタリーで24%、セカンダリーで35%あった。退職者の増加や転職してしまう人の数が一定数あり、慢性的に教師不足が生まれてしまっていると分析されている。
#10. 教師の平均年収10万ドル超
日本だと給料が安く仕事が多いイメージがついている教師。しかしカナダでは給料も高く、クオリティオブライフをしっかりと考えた勤務体系が取られているということで人気も高い仕事だ。
オンタリオ州の職業別の給料について紹介しているサイト「ontario sunshine list」によると、トロント教育委員会の下に所属しているセカンダリースクール教師の平均年収は10万1105ドルで、セカンダリーの場合は10万2317ドルだ。校長になるとさらに給与は高く、エレメンタリーの場合は12万8116ドル、セカンダリーは13万5163ドルとのこと。オンタリオ州は他州に比べても教育者の給与が高く、これは定期的に給与交渉をしてきた結果勝ち取ったものともいえる。教育委員会の職員はさらに収入が高く、現在のトロント教育委員会委員長のコリーン・ラッセル・ローリンズ氏にいたっては、2023年に約30万7000ドルの給料を受け取っている。日本ではあまり考えられないが、国が違えば同じ職でも事情は全く違うのだ。
ちなみに大学教授の給与も良いことで有名だ。特に高いことで知られるトロント大学の場合、学部にもよるが高い人は年収約30万ドルだという。給料が高い分、質の高い教育の機会提供が求められている。