トロント大学名誉教授 中島和子氏講演 海外で育つ子どものことばと「日本語教育推進法」

2月28日、継承日本語教育の第一人者である中島和子氏による講演と現場の声を聞く会合が催された。

中島氏はトロント大学名誉教授のほか、バイリンガル・マルチリンガル子ども(BM)ネット代表、トロント補習授業校高等部校長、カナダ日本語教育振興会(CAJLE)名誉会長、母語・継承語・バイリンガル教育学会名誉会長などを務めている。

当日はZOOMを用いて会場に参加できない人やオンタリオ州以外の人などもリアルタイムで参加した。中島氏からは、母語・継承語の定義やなぜ重要なのか、複数言語を同時に育てるための支援やその問題点についてなど多岐に渡って解説された。

親への支援と就学前の支援

近年海外で日本語を学ぶ子どもは非常に増えており、親の母語(日本語)を継承しようと努力しているが、子どもの社会生活が始まると現地語との板挟みで母語が伸びづらいのが現状だ。また、「親の努力だけでは母語は育たない」「母語は5歳までに消える」ということが実際の研究でも明らかになっている。

カナダは継承後教育の発祥の地

子どもの母語が育つかどうかは、幼児期から大学まで年齢によってどれくらい日本語環境を作れるかがカギとなる。カナダは「継承後教育の発祥の地」と言われており、政府による法的整備も整っている。トロントには日本語学校も多くあり、日系文化会館など家族や級友以外の日本人と交流する場があることは、他都市に比べたら恵まれた環境にあるということだ。

他方で、英語圏のトロントでは日本語は圧倒的にマイノリティ言語である。幼児の言語習得は主に自然習得であり、周囲の環境から社会的に力のある言語の方を吸収していくという。だからこそ、子どもの周辺地域の日本語環境の活性化や、日本語の価値を実感できるような意図的な価値の吊り上げが必要になってくる。

2重国籍による差別

複数言語を同時に育てるための支援として2019年に「日本語教育の推進に関する法律」が公布施行しているものの、日本に英語を教えにいく「JETプログラム」では外国国籍でないと申し込むことができず、「日本の大学奨学金制度」も外国人もしくは日本人のための制度のいずれかに定められており、2重国籍の子どものための制度はないので、今後整備が必要だ。さらに同法律にはいくつかの文言に疑問点があり、明確な定義が求められている。

大事な幼児期

中島氏はまとめとして大事な幼児期において、

  • 言語の習得度は、それぞれの言語への接触量と接触の質によって異なる。
  • どの言語も、ほぼ同じ過程を経て伸びていく。
  • 外国生まれ、外国育ちの親の場合、自信が持てる言語(つまり母語)で、年齢相応の言葉の力を育てることが重要。その力はいずれ、英語習得の下支えとなる。
  • 就学準備の一環として、文字への興味を喚起するために、絵本の読み聞かせが重要。
  • 読み書きの初歩は強い方の言語で学ぶ方が効率が良い。
  • 英語も日本語もどちらも大事だと親が思っていることが大事。

ということを共有した。

なお、講演会の後は、教育現場と保護者の立場の2つのグループに分かれディスカッションが行われた。保護者のグループでは、日本語教育に関して家族やパートナーの理解が難しいとする意見や二重国籍を認めるべきという意見等が出され、教育現場の側では現場のプログラムはそれぞれの学校で独立してしまっているので、情報交換等のためにも現場の教員同士のネットワーク構築等が挙げられた。

中島和子氏
日加学術交流功労及び在留邦人への福祉功労に寄与した功績で瑞宝中綬章を受章

同日夜には、中島氏に瑞宝中綬章が認められ、総領事公邸で叙勲祝賀レセプションが催された。レセプションには、トロント補習授業校関係者及び日本語継承語教育を実施している当地の日本語学校各校の代表者、カナダにおける日本語教育関係者、母校である国際基督教大学(ICU)同窓会メンバー、国際交流基金日本語教育関係者等が出席し、和やかな雰囲気の中、中島氏の受章を祝った。