「看護師として働くためにカナダへ来たこと」杉本未来さん 総合病院・正看護師(カナダ滞在歴5年)|私のターニングポイント第7回

 日本で13年間看護師として働いていた杉本さんは、オーストラリアの小児病院での救急外来研修で、医師、看護師、ボランティア、クリーニングスタッフ、クラーク等すべてのスタッフが、上下なく関わりあい、和気あいあいと働くのを見て海外就職に興味を持ったという。

 そして、世界的に有名なトロント小児病院で働いていた医師と知り合い、この病院のすばらしさを教えてもらい、自分もそこで働けたらと考え始めた杉本さん。看護師として働くためにはオンタリオ州の正看護師資格を取得する必要があり、2016年の4月末にカナダの地に降り立った。

資格取得とトロント小児病院で働く事を目標に36歳で海を渡る

 未だに苦労している英語ですが、来た当時は本当に大変でした。カレッジの実習インストラクターに、私の英語力では実習をパスさせられないといわれた時には目の前が真っ暗に。実習をパスするため、インストラクターに英語力アップのための方法を教えてもらい実行。友人と医療英語の学習をし、プログラムコーディネーターにも相談、英語に慣れるため下級生の演習練習の手伝いをしました。看護記録を頑張りインストラクターに看護アセスメントは素晴らしいと言ってもらえ、もう少し英語を頑張るようにと言われつつ、無事に実習をパスさせてもらいました。

永住権取得が絶望的だったにもかかわらず、パンデミックで状況が変わる

 もう一つの壁は永住権でした。永住権申請にあたり、年齢が高かったことで申請できるためのポイントに届かず、永住取得が絶望的だったのです。看護の職場環境がとても良くカナダの暮らしも気に入ったため、この地に残りたいのに永住権が取れないかもしれないという事実はとても衝撃でした。他州や僻地への引っ越しなども考えていたところ、パンデミックで永住権申請のポイントが下がりチャンスがやってきて、今回永住権を取得することができ嬉しく思っています。

不安と戦いながら資格を取得。大きな達成感に

 カナダオンタリオ州で看護師になろうとしたのは浜松医科大学の卒業生では初めてであり、また卒業したこちらのカレッジのプログラムでは初めての日本人生徒でした。私と同じプロセスで資格を取った日本人看護師も探せず、すべてが初めてのなか手探り状態で、本当に看護師の資格が取れるのだろうかという不安と戦いながら資格を取得できたことは、大きな達成感をもたらしてくれました。

 また就職した後も英語に不安がありましたが、わからない事をそのままにしない、不安のある処置は教えてもらう、解決すべき問題があればもてる知識と使える資源を最大限使い問題解決にあたることで、言語の欠点をカバーしてきました。看護スキルに関しては日本での経験がそのまま活かせたことで自信もつき、英語も徐々に慣れ、周りのスタッフや患者さんからのポジティブな評価で前向きに仕事に取り組むことができています。

未婚で子どもを産み育て、キャリア形成に本腰を入れてから10数年・・・

 カナダに渡りあれだけ英語で苦労したカレッジですが、90%以上の成績を収めて卒業することができ、その後看護師国家試験に受かり、近所の総合病院の内科病棟で正看護師として働き始めてから2年半経ちました。有給はきちんと取れ、残業なし、12時間勤務の2日勤2夜勤5連休の繰り返しなので、自分の時間もたくさんあり、次のローテーションまでしっかりと身体を休めることができます。職場の人間環境にも恵まれ、多職種とお互いの専門性を認め合いながらチームの一員として働いています。医師たちも看護師を尊重し、常に誠実に対応してくれます。看護という職業の性質上患者さんに感謝されることも多く、それがモチベーションにもなり楽しく働かせてもらっています。

■ いまの自分に点数をつけるとしたら?

100点 やりたいように生きてきて、そのための努力も惜しまず、素晴らしい娘、サポートしてくれる多くの人たちにも恵まれているので。

■ もし人生をやり直せるとしたら、いつ?

 今の自分の状況にも満足しており、失敗や大変だったこと等過去のすべてが今を構成していることになるのでやり直したいとは思いません。

■ 学生時代のエピソード

 小中学校時代は、母の後ろにすぐ隠れてしまうような、静かで恥ずかしがりな性格でした。まさか自分がカナダに移住して看護師として働いているなどとは夢にも思いませんでした。小学校が全校生徒120人くらいの小さな学校だったこともあり、小学校時代の友人とは幼馴染のように近い関係で大人になってからも時々会っています。中学では吹奏楽部に所属し、勉強もほどほどにやっていたと思います。

 高校に入ってすぐに両親が離婚、経済的に苦しく、電話や電気が止まったりしたことも。そんな中自分の将来を考えたとき手に職がほしいと思い、大学にいけるお金は家にはなかったのですが、高校の掲示板で奨学金のことを知り育英会の奨学金を申し込み、運よく浜松医科大学の看護科に合格。大学ではオーケストラ部、ラグビー部のマネージャー等興味のあるものに参加し、アルバイトにも励みました。社会人になった当初はすぐ結婚退職などと考えていたものの、未婚で娘を産み育てることになり、キャリア形成に本腰を入れることとなります。

■ 人生で大切なことは?

 失敗をネガティブにとらえず、やりたいことがあれば諦めずに挑戦すること、自分がしてあげたことは忘れ、してもらったことは忘れずに感謝することです。また母親に小さい頃から言われ続けてきたことですが、現在持っているものに感謝する事、周りの人を助ける事、人の悪口を言わない事などを心がけています。

■ 将来の夢・ライフプラン

 もともと希望していたトロント小児病院で働くという目標をまだ達成できていないため、ゆくゆくはその方向へ進みたいとは思っています。ただ、永住権が取れてカレッジや大学の授業料がインターナショナルスチューデントより低くなったり取れるコースが増えるので、資格コースを取得したり学校にいくなど勉強するのもいいかなと思っています。

-座右の銘: 七転八起
-好きな本:『月のしずく』浅田次郎、『精霊の守人』上橋菜穂子
-感謝している人と一言メッセージ: 10歳でカナダに来て、英語もほとんど話せないのに、学校生活を楽しみ友達を作ってきた娘。娘の英語教育のためもあり決断したカナダ留学でしたが、彼女自身も新しい環境に慣れるためにたくさん努力をしてきました。彼女自身も大変な中、常に私の応援をしてくれ、時にはかわいい私の子供、時にはなんでも話せる友人、時には非常に頼りになる人生のアドバイザーとしていつも一緒にいてくれる彼女には、お礼を言っても言い足りません。
-カナダの好きなところ: 他人をジャッジしないところ、良い意味で他人に構わないところが好きです。変に他人の人生に口出しはしてきませんが、困っている人がいたらさっと手を差し伸べる人が多いところも人の温かさを感じられて素敵ですし、色々な文化や背景を持っている人が多いからか、こうあるべきという枠に他人を当てはめようとしないところも楽です。医療者に対する尊敬の念が大きいのも看護師として働く私にとってはとても有難いです。