「香港・ImpossibleからI’m possibleへ」中村善紀さん(カナダ駐在歴3年・大手損害保険会社勤務)|私のターニングポイント第4回

「香港・ImpossibleからI’m possibleへ」中村善紀さん(カナダ駐在歴3年・大手損害保険会社勤務)|私のターニングポイント第4回

 大学時代の東南アジア放浪の旅では財布を盗まれ、最終目的地であった香港では1,500円で過ごす羽目に。1週間の滞在は毎日コーラかスプライト、マクドナルドのトイレで体を洗いながらフェリーターミナルで野宿したという中村さん。毎晩飽きるほど100万ドルの夜景を眺めながら、「いつかここで贅沢三昧しまくるぞ」と誓いつつも寂しく時間が過ぎるのを待って帰国したという。

 転機は入社16年目、香港への異動が決まり、遂にこの時が来たぞという気分で赴任。華やかな街のショーウインドウに映る自分の姿は当時とはまるで別人であり、誇らしくさえ思えたそうだ。

初めての海外駐在。苦労したのは英語ではなく真のコミュニケーション

 赴任当初は、仕事の詰めが甘い!を「Very sweet」などと本気で言ってしまうレベルの英語力でしたから、ヒアリング能力を少しでも向上させるために耳掃除は欠かせませんでしたし、子供と一緒に外国アニメを見ながら英語に慣れようと努力しました。幸い香港の英語は日本と同様に第2言語でしたので、多少の文法間違えにも寛容で数か月後には仕事上の意思疎通は問題なくなっていました。

 しかし、香港は良くも悪くも厳しい競争社会であり、個人の上昇志向が非常に強く、幼少期から英才教育を施す家庭が多いので数か国語話せるのは当たり前、さらに芸術、音楽、運動等の分野でも優秀であることが求められます。優秀な部下たちがたくさんいるのは非常に有難かったのですが、社員同士では常に誰が優秀なのかという争いが絶えませんでした。担当者がマネージャーを無視して私に成果を直接アピールしてくることも多々ありましたし、私の両腕とも言うべき優秀なマネージャーの2人から今後も一緒に働きたい方をどちらか選んで欲しいと詰め寄られたこともありました。ほかにもマネージャーに愛想を尽かした部下が全員辞めてしまい、消滅しかかった課もありました。

“私は文化の違いについて身をもって知りましたが、どうすればよいかという解決策はわかりませんでした。”

チーム競技を通して同僚・部下たちの考え方を深く理解

 毎年香港で開催される最高峰の国際トレイル大会「Oxfam 100km」に取引先の方からのお誘いで参加することとなりました。香港はグルメやショッピングの街として有名ですが、意外と知られていないのは国土の80%が山岳地帯であり、タヒチと同じ透明度の海や白砂のビーチもあるなど大自然に恵まれた場所ですので、このような国際大会が毎年開催されます。

 「Oxfam 100km」では中国国境の山岳ルートを4人1組で同時に各チェックポイントを通過しゴールを目指すというものですが、通常30~40時間かかるため、各チェックポイントでの食事や水分補給、救護のために15人くらいのサポーターとともにチームを編成します。私は選手として3大会を完走しましたが、その香港人チームでは本番に向け毎週30時間の練習のみならず、プライベートでも一緒に過ごすことが多かったので、香港人の考え方を深く理解できるようになりました。

成果だけを評価するのではなく、まず自分が成し遂げる姿をみせる

 この競技を通して私が理解したこととは、香港人の場合、リーダーに強烈なカリスマ性があれば、そのリーダーの様になりたいという憧れや向上心の方が強くなるので、ライバル同士の争いは起こらなくなるというものでした。

 私は部下に指示して成果だけを評価するという管理手法をやめ、みんなが「Mission Impossible」と諦めてしまう仕事について、まず私が(失敗できない緊張感はありましたが)できるだけ派手に成功してみせた上でコツを解説し、自分たち流にトライしてもらう手法に切り替えていったところ、徐々にみんなの意識が変わっていくのがわかりました。

 スキルアップして転職を重ねていく香港では目先の給与アップも大事ですが、中長期的な視点で自分の能力を高めてもらうことの方がより大事であるというものでした。私が香港を去る直前、これまでに各課が成し遂げた「ImpossibleからI’m possibleへ」のレビュー講義を昼休みに計20回開催したのですが、勤務時間外かつ任意参加であったにも拘わらず、ほぼ全員が毎回参加してくれたのは本当にうれしかったです。

1995年 早稲田大学卒業後に 損害保険会社へ入社
1995~1999年 損害調査部門(東京本社)
2000~2010年 海外営業部門(東京本社および大阪支店)
2011~2015年 香港現地法人
2016~2017年 海外営業部門(東京本社)
2018年~現在 カナダ支店

■ いまの自分に点数をつけるとしたら?

99点 これまでベストを尽くしてきたつもりですが、それに慢心せず、これからも常に進化し続けたいという想いからこの点数にしました。

■ もし人生をやり直せるとしたら、いつ?

 人生をやり直したいと思ったことはないのですが、これまで頑張ってきた過去の自分にエールを送りに行ってみたいですね。

■ 学生時代のエピソード

 高校卒業までの田舎暮らしがとても退屈でしたので、その反動から大学入学後は24時間365日をいかに楽しく過ごすかということばかり考えていました。1人暮らしを始めたので授業の合間に家賃や生活費のためのバイトもしましたし、友人との付き合いやアイスホッケーの深夜練習もして忙しく過ごしてました。

 ただ、バイク事故で大怪我をし、リハビリ目的ではじめたジョギングをきっかけにホノルルマラソンに参加してからは海外に興味をもつようになり、時間をつくっては東南アジア各地や北米大陸をふらふらと放浪しました。ジャングルを渡り歩いてゴールデントライアングルを目指したり、ヒッチハイクしたり、レンタカーで西海岸からカナディアンロッキーを目指したこともありました。

■ 人生で大切なことは?

 美味しい料理。家計が苦しくなるとまずは食費を削るという話をよく聞きますが、私は美味しい料理が健康のみならず心を幸せで満たしてくれる人生で最も大事なものだと思っています。だから私のエンゲル係数は非常に高いです。

■ 将来の夢・ライフプラン

 引退したら京都のような日本の伝統や文化を感じられる街で四季折々や花鳥風月を楽しみながら静かに余生を過ごしたいですね。

-座右の銘: Stay in the moment
-好きな本: Stay in the moment
-尊敬する人: どんなに大変な時でも、常に明るく周りの人たちを気遣って元気にしてくれる人であり、そういう人間になろうと努力しています。
-感謝している人と一言メッセージ: これまでに私を支えてくれた全ての人たちに「ありがとう」と言いたいです。
-カナダの好きなところ:大自然ならではの様々なスポーツができる環境と、自分が外国人と意識せず街に溶け込めて色々な国の文化や料理を楽しめることです。